【5話完結】転生して記憶が戻ったのはバツ3になってからでした

酒本 アズサ

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1.私は転生者だったようです

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「触らないで! 成人するまでは白い結婚という約束です!!」


「うるさい! もう俺の妻なんだからおとなしく言う事を聞け!」


 であるユーグ様が、結婚式当日の夜に私の寝室に押し入って来ました。
 私の両親と成人する十六歳までは手を出さないという約束をしていたにもかかわらず。


 三度目の結婚とはいえ夜の営みはこれまで一度も無かったため、ユーグ様の行動は恐怖でしかありませんでした。
 私を押さえつけようとする手を避けてベッドから飛び降りようとした瞬間、夜着の裾を掴まれバランスを崩してサイドテーブルの花瓶に頭をぶつけた……ところまでは覚えています。




 次に目を覚ました時には涙を流す男女が私を覗き込んでいた。


「アデル! 目を覚ましたのね! ああ……神様……!!」


「安心しろ、ユーグとはもう離婚が成立している。あいつめ……大切にすると約束したというのに! アデライト、お前は一週間も目を覚まさなかったんだぞ。花瓶の割れた音にメイドが気付かなければどうなっていた事か……。二度とあいつを近付けさせないから安心しろ」


 そうだ、この二人は両親。
 私はアデライト・デ・サヴォイア伯爵令嬢、三度目の白い結婚をして、どうやら三度目の離婚をしたらしい。


 十五歳でバツが三つか……。あとひと月もすれば成人なんだから、ユーグ様も待てばいいのに。
 バツって……あれ? 
 ギュッと目を閉じると、三十二歳で事故死した日本人女性だった自分とアデライトの自分の記憶が収まるべきところに収まった。
 どうやら私は十九世紀前半くらいのヨーロッパ文化のような異世界に転生したらしい。


「アデル? 大丈夫? お父様とお母様の事わかるかしら?」


 心配そうに私を見つめるお母様。
 うん、ちゃんとこれまでの事も覚えている。


「大丈夫よ、お母様。お父様の事もちゃんとわかるわ」


 安心させるように微笑むと両親はホッとしたのか、ゆっくり休むようにと言って部屋を出て行った。
 一人になった事で改めて自分の現状を反芻はんすうする。


 私の一度目の結婚は、完全なる政略結婚だった。
 当時私は十二歳、お相手は十八歳で伯爵家の嫡男のシリル・デ・ガティネ様。
 この男は白い結婚だからと堂々と愛人を作って遊んでいたら、愛人が子供ができたから嫡子だと騒ぎ、激怒したお父様により離婚となった。


 この国では家の繋がりのために未成年が身体の関係を持たない白い結婚をする事は珍しくはない。
 未成年なので親の意向で離婚も可能なのだ、結局離婚後に愛人の妊娠は狂言だったと発覚したらしいけど。
 全面的に相手が悪かったので、両家の関係性はこちらがかなり有利になったとか。


 二度目の結婚はお父様の親友の息子である当時十九歳のセドリック・デ・ギレム侯爵令息。
 私はこの時十四歳。セドリック様が平民女性と結婚したいと言い出したので、セドリック様の父親に頼み込まれて渋々お父様が承諾したものだ。


 しかし結婚式直後、周りの大人達が気を抜いた隙をついて平民女性と駆け落ちしてしまい離婚。
 先日、家から持ち出したお金が尽き、何もできないセドリック様に相手の女性が愛想尽かして逃げてしまったと噂を聞いた。


 そして今回の三度目の結婚、相手は十八歳のユーグ・デ・フランドル子爵令息。
 どうも一人目の夫、シリル様との結婚式に出席した時に私に一目惚れしたらしい。


 子爵という格下の家柄で、しかも結婚してしまった相手だからと、諦めようとしたが諦めきれずいたところ、二度の離婚で経歴に傷が付いた今ならと申し込んだと本人が言っていた。
 普通婚約者に向かって経歴に傷が付いてるとか言う!?


 結婚の申し込みに来た時に床に這いつくばって頼み込んできたから、よほど好きなのだろうと、これだけ好きなら本当に大事にしてくれるとお父様も信じたら……今回の出来事だ。
 元夫達は三人共顔だけは良かったせいか、ちやほやされてきて考えが甘いというか、浅過ぎるでしょ。


 これまでは自分が至らないせいで、と思っていたけど、どう考えても元夫達が悪いわね。
 そりゃね、これまでの私も確かに蝶よ花よと育てられた世間知らずでお花畑の住人みたいな貴族令嬢だったわよ、それにしてもある意味酷い扱いだと思うの。
 
 
 とりあえず三番目のユーグ様に関しては命拾いしたわね、彼が。
 高校までしかやってないとはいえ、これでも空手の有段者だったから、早々に記憶が戻っていたらフルボッコにしていたかもしれない。


 夫の調きょ……しつけも妻の役割だもの、ふ、ふふふふ。
 でもどうせならあんな優男達じゃなくて、もう少し筋肉のある旦那様がいいなぁ。
 三度の離婚という貴族令嬢にあるまじき経歴ができてしまったから、結婚できるかすら怪しいけど。


 考えが落ち着いたところで私の専属メイドのエミリーを呼んで身支度を整えた、もうすぐ夕食の時間なのだ。
 エミリーは私が目を覚ました事を目に涙を浮かべて喜んでくれた、結婚でこの家を出た時にも凄く心配してくれていた姉同然の存在だものね。


 一週間寝ていただけあって足元がふらつく、エミリーに支えられながら両親がいるリビングへと向かった。
 すると廊下にいても聞こえるくらいの怒声が聞こえてきた。


「あいつらは何を考えているんだ! こんな手紙燃やしてしまえ!!」


「お父様? どうなさったの?」


 リビングを覗くと、顔を真っ赤にして怒るお父様の手には握り潰された三通の手紙があった。


「アデライトは気にしなくていいんだ、あの馬鹿共がお前と再婚したいとありえない事を言っているだけだからな」


 どうやら私の元夫達は、考えが浅いのではなく馬鹿だったらしい。
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