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89.ベストプレイス

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『主、ここに住むのであればいつでも見られるだろう。あの二人をいつまで放置するつもりだ?』


「あの二人?」


『オーギュストとアルフォンスだ。二人だけの時にこの辺りで強い魔物に襲われると、勝てるか微妙かもしれぬ。もう一人いれば問題ないとは思うが』


「あっ、そういえば! 家電の数々に感動してすっかり忘れてた!」


『ここの認識阻害は高度な魔法ゆえ、迎えに行ってやった方がよかろう。家の持ち主を主に上書きした今なら、主が許可をすれば入れるはずだ。我が連れて来てやろう』


 アーサーはそう言うと、大きい方の姿になって出ていった。


「私はここに住みたいけど、皆はどうする? ここで一緒に住む? それともシパンの町に住んだ方が、お店とか冒険者ギルドとかあるから便利かな? あ、でも他の国に行くっていう選択肢もあるのか……。それはちょっと嫌だな……、皆と会えなくなるのは寂しい」


 わがままを言っているのはわかるけど、ここまで一緒に来てくれたし、できればこれからもい一緒にいたい。
 もっとわがままを言うなら、私とアーサーはここで、皆がシパンの町に住んでくれて、思う存分ゴロゴロダラダラし放題生活をしつつ、さみしくなったら会いに行くっていうのが最高なんだけど。


 本来ゴロゴロダラダラが好きな私としては、家族がいるとそれなりに合わせて生活をしなくちゃいけないという前提がある以上、自由気ままな生活は送れないという事なのだ。
 しかもこんなに完璧な生活環境とくれば、ここを動きたくないのは当然だと思うの。


「ここに住むかどうかというより、私達はここに住めるかどうか、というところから始めなければならないはずだ。隠蔽魔法があるから安全だが、その代わり私達もここにたどり着けなければ住むも何もないだろう?」


 マティスが話していると、いきなりドアがバーンと開いた。


「いやぁ、まいった! 気付いたら森のど真ん中に私とアルフォンスの二人だけになっていたからね! しかも町の方向がどっちかもわからなくなっていたんだ、猩猩オランウータン獣人である私達がだよ!? アーサーが来てくれなかったら遭難していたかもしれないね、やはりこれも隠蔽魔法の効果なんだろうか」


『正確には隠蔽と認識阻害、その他にも欲を持って近付こうとすると空間が歪んでたどり着けないようにもなっている、特別な結界だな。純粋な魔法だけでは不可能な結界だな』


「だったらオイラ達はこの家に住めないよね、出かけたら帰って来れないって事だもん」


「ん、毎日迷子は困る」


 リアムとユーゴがショボンと肩を落とした。


「私とアルフォンスは何日でも引きこもって色々調べられるから、ここに住めるなら住みたいがね」


「それは……ちょと……。何か面白い物見つけたら知らせるから」


 オーギュストとアルフォンスは仲間だけど、家族とはちょっと違うのだ。


「はは、実際問題サキとアーサー以外はここに住めないだろうな。少し外にでるたびに迷子になっているようじゃねぇ……。それにシパンの町も色々と歴史が眠っているから研究しがいがありそうだったしね!」


『ならばそなたらは町に住んで、主は転移魔法でこの家と町の新たな家を行き来して住んでいると偽装すればよい。今の主ならすぐに覚えられるだろう、恐らく魔女もそのために通信魔導具を作ったのであろう』


「それじゃあ、それで決まりだな。今日はもう町へ戻ろう、戻る頃には陽が暮れるだろうから」


 マティスの号令でシパンの町に戻る事になり、再びアーサーの案内で森の中を歩く。
 どうやらみんなどこかへ行くという選択肢はなかったようだ、内心ホッと安堵の息を吐く。
 「転移魔法覚えてから町に戻っちゃダメ?」そんな言葉はそっと飲み込んだ。
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