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64.見慣れぬ客 [side シリル]

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 いつもの朝、いつもの日常。
 それはオレが子供の頃、両親が死んだ日から始まった。


 両親が生きていた頃は、国境を越えて親戚のところに遊びにいったりもした。
 二人共黒豹獣人だったから、親戚も黒豹獣人ばかりだ。


 従弟はオレより更に小さくて、オレの尻尾にじゃれついていたのを覚えている。
 しかしこのキエルの村で、ある日突然両親が事故で死んだと知らされた。
 

 その時オレはまだ七歳、やっと一人で半日くらいなら留守番ができる年齢だった。
 この村にはオレ達家族以外の獣人はいない、だから余計にオレを引き取ってくれる家なんてない。


 親戚の家に行こうにも、まだガキだったオレは正確に場所なんか覚えておらず、本来なら孤児院に入るところだがこの村には教会もない。
 そんな時、宿屋の女将がオレを引き取ると言ってくれた。


 あの時は両親がいきなりいなくなって、頼る相手もおらず泣く事しかできなかったオレに差し出された唯一の救いの手だった。
 しかしそれが救いの手ではないと気付くのに、大して時間はかからなかった。


 最初の十日だけ、その間だけ女将とその旦那の料理人は優しかったんだ。
 その十日の間にオレはすっかり二人に懐いた、そして懐いたとわかった途端に二人の態度が変わった。


 まだ七歳とはいえ、獣人なだけあって力は人族の大人くらいはあったせいだろう。
 次から次へと力仕事をさせられ、ヘマをすると殴られるようになった。


 怖くて何度も逃げ出したいと思ったが、他に頼れる大人がいるわけでもなく、行くあてもない。
 唯一の頼みは隣国ナトリ王国に住む親せきだったが、いつもこちらから行くだけで、向こうから遊びにきた事は一度もなかったのだ。


 ある程度大きくなって知ったのは、この国サショイノ王国での獣人の扱いは人族より少し下だという事。
 どうやら神殿の考え方が影響しているらしい。
 獣人がこの世界に誕生してからまだ一万年も経ってないらしく、人族の後輩という立ち位置なんだとか。


 そうして過ごしている内に、女将と旦那が宿の客を捕まえては隣国の奴隷商人に売っている事を知った。
 それからはオレも手伝わされるようになった、もちろん本当はそんな事やりたくない。


 だがこれまで暴力でしつけられてきたオレに、拒否するという選択肢はなかった。
 そしてある日、女将に狙われそうな女の客が泊まりにきた。


 最初に驚いたのは、その客が治癒魔法でオレのケガを治してくれた事。
 これまでの客達は殴られたり蹴られているオレを見ても、気の毒そうな顔をするものの、誰一人として助けてくれる人はいなかった。


 だからつい、余計な事を言ってしまった。
 眠らず一緒にいた獣人達と過ごしてくれたら女将たちも諦めただろう。


 それなのに、このサキという名の聖女様ときたら……。
 オレのケガを治しただけじゃなく、オレを自由にしてくれるという。
 信じて良いか迷ったのは一瞬だった、一緒にいる狼獣人や猩猩獣人が完全にサキを信用していたから。


 ただ、その自由と引き換えにとんでもない事をやらされる事にはなったが。
 獣人のオレから見ても、可哀想な見た目をした猩猩獣人を可愛いというような奴だ、愛情深いのは間違いないだろう。


 なんてったって、神殿が認めた聖女様とフェンリルご一行らしいからな。
 全然聖女になんて見えないが、サキを見ていたら信じてみたくなったんだ。
 とりあえず明日はいつもと違う朝になるのは間違いないから。
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