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62.シリルの選択
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「おやおや、どうしたんですかお客さん、眠れなくて遊びに来たんですかね? それじゃあ私達は邪魔になるから失礼しますね……」
この期に及んで苦しい言い訳をしながら出いていこうとする女将。
しかし当然逃がすはずもなく、リアムは腕を伸ばして通せんぼをした。
「女将さん、鍵をした部屋に真っ暗なまま侵入したあげく、水も持ってないのに水を足しにきたっていうのはさすがに無理があると思うの。とりあえず、この部屋の水差しの水を飲んでもらおうかな。ね、マティス」
「そうだな」
マティスが立ち上がってサイドテーブルの水差しを手にした瞬間、女将がシリルに命令する。
「シリル! こいつらをなんとかしな!!」
「…………ッ!」
命令されて一瞬硬直したシリル、長年の扱いが知れるというものだ。
「シリル! ここを出て私達と行こう! この国を出て旅をするの! 命令なんかされず、殴られたら殴り返せるように!」
シリルに向かって手を伸ばして言うと、シリルは瞳を揺らして動揺した。
『主は甘いな。こやつらの片棒を担いでいた者だというのに。だがその甘さは我にとっては好ましい。マティス、ユーゴ、シリルとやらは捨て置いて二人を取り押さえろ』
アーサーが最後まで言う前に二人は動き出し、室内の空気が動いたと思ったら膝裏を蹴られた女将と料理人が膝をついていた。
そしてマティスが料理人の顎を掴んで上を向かせると、水差しの水を口に流し込み始める。
「ガボガボゴボ……ッ! ゲホッゴホッ」
「ひ……っ」
溺死しそうなくらい水を流し込まれた料理人を見て短く悲鳴を上げる女将。
マティスは水が半分になった水差しをユーゴに手渡した。
「次はお前」
マティスがしたように、女将の顎を掴んで上を向かせると、容赦なく口に水を流し込むユーゴ。
確かにこういう時はリアムよりユーゴの方が容赦しないから、アーサーはユーゴを指名したのか。
「ゴボボ……ゲハッ、ゲホッゲホ……ッ」
相当苦しかったのか、ぐったりとした二人はすぐに目の焦点が合わなくなってパタリと床に倒れ込んだ。
「終わったかな?」
そこにヒョッコリ顔を出したのはオーギュスト、どうやら騒ぎに気付いて覗きにきたらしい。
室内を見回して頷くと、シリルに話しかける。
「どうやら君は正しい道を選んだようだね。安心するといい、君が選んだのはフェンリルとその主である聖女が進む道なのだから」
「フェンリル!? ……聖女!? あ……だから治癒魔法を……」
アーサーと私を順番に見て驚くシリル。
そんなシリルを見て満足そうな笑顔を浮かべるオーギュスト。
「というわけで、これからする事は正しい行いなんだ。ここから奴隷商人と落ち合う場所や連絡手段を教えてくれるね? とりあえずこの二人は袋に詰めて連れて行こう。シリル……だったかな? 君はこれまでの労働の対価として店のお金や旅の必需品を持ち出すといいよ、きっと他の村人に取られるだけだろうからね」
そう言ったオーギュストの手には、私を入れるつもりだったらしい大きな麻袋と細いロープが握られていた。
この期に及んで苦しい言い訳をしながら出いていこうとする女将。
しかし当然逃がすはずもなく、リアムは腕を伸ばして通せんぼをした。
「女将さん、鍵をした部屋に真っ暗なまま侵入したあげく、水も持ってないのに水を足しにきたっていうのはさすがに無理があると思うの。とりあえず、この部屋の水差しの水を飲んでもらおうかな。ね、マティス」
「そうだな」
マティスが立ち上がってサイドテーブルの水差しを手にした瞬間、女将がシリルに命令する。
「シリル! こいつらをなんとかしな!!」
「…………ッ!」
命令されて一瞬硬直したシリル、長年の扱いが知れるというものだ。
「シリル! ここを出て私達と行こう! この国を出て旅をするの! 命令なんかされず、殴られたら殴り返せるように!」
シリルに向かって手を伸ばして言うと、シリルは瞳を揺らして動揺した。
『主は甘いな。こやつらの片棒を担いでいた者だというのに。だがその甘さは我にとっては好ましい。マティス、ユーゴ、シリルとやらは捨て置いて二人を取り押さえろ』
アーサーが最後まで言う前に二人は動き出し、室内の空気が動いたと思ったら膝裏を蹴られた女将と料理人が膝をついていた。
そしてマティスが料理人の顎を掴んで上を向かせると、水差しの水を口に流し込み始める。
「ガボガボゴボ……ッ! ゲホッゴホッ」
「ひ……っ」
溺死しそうなくらい水を流し込まれた料理人を見て短く悲鳴を上げる女将。
マティスは水が半分になった水差しをユーゴに手渡した。
「次はお前」
マティスがしたように、女将の顎を掴んで上を向かせると、容赦なく口に水を流し込むユーゴ。
確かにこういう時はリアムよりユーゴの方が容赦しないから、アーサーはユーゴを指名したのか。
「ゴボボ……ゲハッ、ゲホッゲホ……ッ」
相当苦しかったのか、ぐったりとした二人はすぐに目の焦点が合わなくなってパタリと床に倒れ込んだ。
「終わったかな?」
そこにヒョッコリ顔を出したのはオーギュスト、どうやら騒ぎに気付いて覗きにきたらしい。
室内を見回して頷くと、シリルに話しかける。
「どうやら君は正しい道を選んだようだね。安心するといい、君が選んだのはフェンリルとその主である聖女が進む道なのだから」
「フェンリル!? ……聖女!? あ……だから治癒魔法を……」
アーサーと私を順番に見て驚くシリル。
そんなシリルを見て満足そうな笑顔を浮かべるオーギュスト。
「というわけで、これからする事は正しい行いなんだ。ここから奴隷商人と落ち合う場所や連絡手段を教えてくれるね? とりあえずこの二人は袋に詰めて連れて行こう。シリル……だったかな? 君はこれまでの労働の対価として店のお金や旅の必需品を持ち出すといいよ、きっと他の村人に取られるだけだろうからね」
そう言ったオーギュストの手には、私を入れるつもりだったらしい大きな麻袋と細いロープが握られていた。
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