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60.怪しい宿屋
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「兄ちゃん、サキ、こっちだよー!」
宿屋の表の入り口から入ると、皆は食堂で待っていた。
八人が座れる大きなテーブルに私とマティスも席に着くと、ちょうど料理が次々と運ばれてきた。
「ほぅ、これは美味そうだ」
「ほんとだね! ここまでスパイスを使ってる食堂って珍しいかも」
オーギュストとリアムが嬉しそうにしているが、さっきシリルが言った事を考えるとかなり怪しい。
この料理は部屋の水差しの水を飲ませるための味付けがされているのだろう。
「いっぱい食べておくれ! ウチの料理は美味しいって評判なんだ。……それはそうとお嬢さん、女性はお嬢さん一人みたいだけど、一人部屋じゃなくていいのかい? 部屋なら空いてるから、一人部屋と二人部屋と三人部屋に分けようか? 部屋代なら安くしておくからさ。年頃のお嬢さんが……ねぇ?」
あー……、これは完全に黒だ。
確実にこの女将さんも悪い連中の一人だよね。
何も知らない普通のお嬢さんなら、明日の朝には疾走しているって事になりそう。
「ありがとう女将さん。だけど彼らは私の家族だから一緒がいいの」
「そうかい? それなら今のまま二人部屋みっつにしておくよ」
「気遣ってくれてありがとう」
「いいや、何かあれば遠慮なく言っておくれ」
狐と狸の化かし合いの如く、表面上は心配している人と、感謝している人の会話を交わした。
しかし、料理は本当に美味しかった、酒場も兼ねているから塩気がきいていてお酒がすすむやつだ。
「ふぅ、ごちそうさま! 美味しかった~!」
「あはは、それは何よりの言葉だよ。ウチの料理は酒のアテになるよう味が濃い目なんだ、寝る頃には喉が渇くだろうから、部屋に水差しが置いてあるよ」
「わかった、ありがとう」
食べ終わると女将が声をかけてきた、知らなければ優しくて気の利く女将さんだとしか思わなかっただろう。
時々心配そうにこちらを見ていたシリルに、客室へ行く階段を上る時に小さく頷いておいた。
「ここがオイラとユーゴの部屋で、その隣が兄ちゃんとサキ、向かいの部屋がオーギュストとアルフォンスだよ。高級宿じゃないからお風呂はないから洗浄魔法だね」
「わかった。サキ」
「うん」
マティスがアイコンタクトで双子にさっきの事を説明するように促してきた。
オーギュスト達にはマティスが説明するようだ。
「部屋って全部同じなのかな? そっちの部屋も見せて」
「ほとんど一緒だよ?」
「まぁまぁ、こういうのは見比べたりするのが楽しいんだから」
誰が聞いているかわからないので、双子の部屋に入り込む。
『ドアの前に人の気配はないぞ』
「ありがと、アーサー。リアム、ユーゴ、この部屋のお水は飲んじゃダメだよ。たぶん睡眠薬とか入ってるから」
「えぇっ!? ムグッ」
「リアム、声が大きい」
ユーゴがリアムの口を手で塞いだ。
「さっき黒豹獣人が働いていたでしょ? 彼が教えてくれたの。ほら、前に小さい村ぐるみで奴隷商人と繋がってる事があるって話してたじゃない? この村がそうみたい」
「ん、国境沿いだから不思議じゃない」
「ぶはっ。ユーゴはどうしてそんなに落ち着いてるのさ。それなら早くこんな宿出ようよ」
ユーゴの手を外し、声をひそめて話すリアム。
ちょっとそれも考えたんだけどねぇ……。
「だけどそうすると、次にこの村に泊まった人が犠牲になるよ? それにあの黒豹獣人……シリルっていうんだけど、いつも殴られたり蹴られたりしているみたいなの。ご両親が亡くなって引き取ってもらったからって逃げる事もせずに」
「「…………」」
二人も両親が亡くなった時にマティスがいなかったら、どうなっていたかわからない。
集落で面倒をみてもらえたかもしれないけど、子供だから長の地位を引き継ぐ事はできなかっただろう。
きっと二人は保護者がいなくなる不安を知っているからこそ、シリルを放っておけないと思う。
「というわけで、こういう時は現行犯逮捕して証拠を確実にしないとね」
ヒソヒソと計画を話すと、二人は力強く頷いてくれた。
宿屋の表の入り口から入ると、皆は食堂で待っていた。
八人が座れる大きなテーブルに私とマティスも席に着くと、ちょうど料理が次々と運ばれてきた。
「ほぅ、これは美味そうだ」
「ほんとだね! ここまでスパイスを使ってる食堂って珍しいかも」
オーギュストとリアムが嬉しそうにしているが、さっきシリルが言った事を考えるとかなり怪しい。
この料理は部屋の水差しの水を飲ませるための味付けがされているのだろう。
「いっぱい食べておくれ! ウチの料理は美味しいって評判なんだ。……それはそうとお嬢さん、女性はお嬢さん一人みたいだけど、一人部屋じゃなくていいのかい? 部屋なら空いてるから、一人部屋と二人部屋と三人部屋に分けようか? 部屋代なら安くしておくからさ。年頃のお嬢さんが……ねぇ?」
あー……、これは完全に黒だ。
確実にこの女将さんも悪い連中の一人だよね。
何も知らない普通のお嬢さんなら、明日の朝には疾走しているって事になりそう。
「ありがとう女将さん。だけど彼らは私の家族だから一緒がいいの」
「そうかい? それなら今のまま二人部屋みっつにしておくよ」
「気遣ってくれてありがとう」
「いいや、何かあれば遠慮なく言っておくれ」
狐と狸の化かし合いの如く、表面上は心配している人と、感謝している人の会話を交わした。
しかし、料理は本当に美味しかった、酒場も兼ねているから塩気がきいていてお酒がすすむやつだ。
「ふぅ、ごちそうさま! 美味しかった~!」
「あはは、それは何よりの言葉だよ。ウチの料理は酒のアテになるよう味が濃い目なんだ、寝る頃には喉が渇くだろうから、部屋に水差しが置いてあるよ」
「わかった、ありがとう」
食べ終わると女将が声をかけてきた、知らなければ優しくて気の利く女将さんだとしか思わなかっただろう。
時々心配そうにこちらを見ていたシリルに、客室へ行く階段を上る時に小さく頷いておいた。
「ここがオイラとユーゴの部屋で、その隣が兄ちゃんとサキ、向かいの部屋がオーギュストとアルフォンスだよ。高級宿じゃないからお風呂はないから洗浄魔法だね」
「わかった。サキ」
「うん」
マティスがアイコンタクトで双子にさっきの事を説明するように促してきた。
オーギュスト達にはマティスが説明するようだ。
「部屋って全部同じなのかな? そっちの部屋も見せて」
「ほとんど一緒だよ?」
「まぁまぁ、こういうのは見比べたりするのが楽しいんだから」
誰が聞いているかわからないので、双子の部屋に入り込む。
『ドアの前に人の気配はないぞ』
「ありがと、アーサー。リアム、ユーゴ、この部屋のお水は飲んじゃダメだよ。たぶん睡眠薬とか入ってるから」
「えぇっ!? ムグッ」
「リアム、声が大きい」
ユーゴがリアムの口を手で塞いだ。
「さっき黒豹獣人が働いていたでしょ? 彼が教えてくれたの。ほら、前に小さい村ぐるみで奴隷商人と繋がってる事があるって話してたじゃない? この村がそうみたい」
「ん、国境沿いだから不思議じゃない」
「ぶはっ。ユーゴはどうしてそんなに落ち着いてるのさ。それなら早くこんな宿出ようよ」
ユーゴの手を外し、声をひそめて話すリアム。
ちょっとそれも考えたんだけどねぇ……。
「だけどそうすると、次にこの村に泊まった人が犠牲になるよ? それにあの黒豹獣人……シリルっていうんだけど、いつも殴られたり蹴られたりしているみたいなの。ご両親が亡くなって引き取ってもらったからって逃げる事もせずに」
「「…………」」
二人も両親が亡くなった時にマティスがいなかったら、どうなっていたかわからない。
集落で面倒をみてもらえたかもしれないけど、子供だから長の地位を引き継ぐ事はできなかっただろう。
きっと二人は保護者がいなくなる不安を知っているからこそ、シリルを放っておけないと思う。
「というわけで、こういう時は現行犯逮捕して証拠を確実にしないとね」
ヒソヒソと計画を話すと、二人は力強く頷いてくれた。
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