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54.変貌
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「アーサー!?」
マティスに抱かれたまま苦しみ出すアーサー。
今、負の感情って言ったよね、もしかして私のせい!?
王都に来てから自分が嫌いになるような事ばかり考えていたし、嫉妬とか、疑いとかアーサーにとっては不味い感情ばかりだったに違いない。
『主……っ、主の……せいではない……、ここに集う者達の……ぐぅっ』
そうか、アーサーは私だけじゃなく、周りの人達の感情の影響も受けちゃうんだ。
アーサーの見た目は段々とくすんだ色になり、マティス達のようなハイイロオオカミそっくりな色に変っていく。
「王様! この場にいる人達の悪感情がアーサーを、フェンリルをブラックフェンリルに変えようとしています! この世界を守りたいのなら、もう私達に関わらないでください! 行こう、皆!」
私の言葉に謁見の間がどよめいた。
それはそうだろう、自分達のせいで世界が滅びようとしているんだから。
ドレスを着た自分がアーサーを抱いて走るより、マティスが抱いたままの方が早いと判断して扉の方へと走る。
「サキ!!」
サミュエルに呼ばれて振り返ると、泣きそうな顔をしていた。
きっと私も同じような顔をしているのだろう。
だけど、でも、今アーサーが苦しんでいるのだ。
サミュエルと見つめ合ったのはほんの一瞬だった。
私の心がサミュエルよりアーサーを迷わず選んだから。
「ごめんなさい……っ」
謁見の間を飛び出したけれど、誰も追いかけてはこなかった。
それはそうだろう、もしもこのままアーサーがブラックフェンリルになってしまった場合、近くにいる者から犠牲になるのだから。
「アーサー、アーサー、ごめんね、気付いてあげられなくて。大好きだよ」
『う……あの場を離れたのは賢明な判断だった。おかげでかなり楽になったぞ』
ぐったりしているものの、先ほどの苦しそうな表情は消えていた。
廊下で立ち止まり、頭を撫でると、アーサーは顔を手にすり寄せる。
「よかったね、アーサーもう苦しくないみたい。着替えた場所よくわからないから、このまま出てっちゃおうか?」
「ふっ、そうだな」
「ん、服は迷惑料としてもらう」
リアムの意見に二人も賛成らしい。
確かに立派な衣装だけど、今回の迷惑料としてもらってもバチは当たらないだろう。
満場一致でこのまま王城を出ようと決まった時、窓の方から口笛が聞こえた。
「ヒュ~ゥ。聖女の恰好もよかったが、ドレス姿も似合うじゃないか、サキ」
外から中を覗いていたのは、アルフォンスだった。
「アルフォンス!? ここ三階だよ!?」
「なぁに猩猩獣人にとっては、このくらい朝飯前さ。だからマティス達は驚いてないだろ?」
確かにマティス達は全然驚いてない。
もしかしたらアーサーが心配でそれどころじゃないって場合もあるけど。
「アルフォンス、オーギュストは?」
「どうにも城内の空気が騒がしいからって、馬車を取りに行ったよ。今頃下で待ってるんじゃないかな?」
「さすがだな。昔からこういう時の勘は一流だ」
「ま、親父みたいな歴史研究者にとって勘は命にかかわるからな。遺跡の罠も大抵勘で避けてるくらいだし。さ、おしゃべりはここまでにして行こう。サキ、こっちへおいで」
付き合いが長いせいか、マティスとアルフォンスはわかり合っていると言わんばかりの会話を交わし、アルフォンスに呼ばれた私は素直に近づいた。
すると、ヒョイとお姫様抱っこされたかと思うと、そのままスルスルと外壁を伝って一階まで下りてしまった。
「到着。さ、立てるかい?」
「う、うん。それにしてもすごい……ね」
「ふふん、だろう?」
アルフォンスったら、ドヤ顔も可愛い!!
うっとりと見惚れていたら、身体強化したマティス達が次々と下りて来た。
『とても複雑な心境ではあるが、主がアルフォンスに喜んでいる感情が美味でかなり楽になった……』
やっぱり感情が筒抜けって、ちょっぴり恥ずかしいかな。
脱力したようなアーサーの声に、改めてそう思った。
マティスに抱かれたまま苦しみ出すアーサー。
今、負の感情って言ったよね、もしかして私のせい!?
王都に来てから自分が嫌いになるような事ばかり考えていたし、嫉妬とか、疑いとかアーサーにとっては不味い感情ばかりだったに違いない。
『主……っ、主の……せいではない……、ここに集う者達の……ぐぅっ』
そうか、アーサーは私だけじゃなく、周りの人達の感情の影響も受けちゃうんだ。
アーサーの見た目は段々とくすんだ色になり、マティス達のようなハイイロオオカミそっくりな色に変っていく。
「王様! この場にいる人達の悪感情がアーサーを、フェンリルをブラックフェンリルに変えようとしています! この世界を守りたいのなら、もう私達に関わらないでください! 行こう、皆!」
私の言葉に謁見の間がどよめいた。
それはそうだろう、自分達のせいで世界が滅びようとしているんだから。
ドレスを着た自分がアーサーを抱いて走るより、マティスが抱いたままの方が早いと判断して扉の方へと走る。
「サキ!!」
サミュエルに呼ばれて振り返ると、泣きそうな顔をしていた。
きっと私も同じような顔をしているのだろう。
だけど、でも、今アーサーが苦しんでいるのだ。
サミュエルと見つめ合ったのはほんの一瞬だった。
私の心がサミュエルよりアーサーを迷わず選んだから。
「ごめんなさい……っ」
謁見の間を飛び出したけれど、誰も追いかけてはこなかった。
それはそうだろう、もしもこのままアーサーがブラックフェンリルになってしまった場合、近くにいる者から犠牲になるのだから。
「アーサー、アーサー、ごめんね、気付いてあげられなくて。大好きだよ」
『う……あの場を離れたのは賢明な判断だった。おかげでかなり楽になったぞ』
ぐったりしているものの、先ほどの苦しそうな表情は消えていた。
廊下で立ち止まり、頭を撫でると、アーサーは顔を手にすり寄せる。
「よかったね、アーサーもう苦しくないみたい。着替えた場所よくわからないから、このまま出てっちゃおうか?」
「ふっ、そうだな」
「ん、服は迷惑料としてもらう」
リアムの意見に二人も賛成らしい。
確かに立派な衣装だけど、今回の迷惑料としてもらってもバチは当たらないだろう。
満場一致でこのまま王城を出ようと決まった時、窓の方から口笛が聞こえた。
「ヒュ~ゥ。聖女の恰好もよかったが、ドレス姿も似合うじゃないか、サキ」
外から中を覗いていたのは、アルフォンスだった。
「アルフォンス!? ここ三階だよ!?」
「なぁに猩猩獣人にとっては、このくらい朝飯前さ。だからマティス達は驚いてないだろ?」
確かにマティス達は全然驚いてない。
もしかしたらアーサーが心配でそれどころじゃないって場合もあるけど。
「アルフォンス、オーギュストは?」
「どうにも城内の空気が騒がしいからって、馬車を取りに行ったよ。今頃下で待ってるんじゃないかな?」
「さすがだな。昔からこういう時の勘は一流だ」
「ま、親父みたいな歴史研究者にとって勘は命にかかわるからな。遺跡の罠も大抵勘で避けてるくらいだし。さ、おしゃべりはここまでにして行こう。サキ、こっちへおいで」
付き合いが長いせいか、マティスとアルフォンスはわかり合っていると言わんばかりの会話を交わし、アルフォンスに呼ばれた私は素直に近づいた。
すると、ヒョイとお姫様抱っこされたかと思うと、そのままスルスルと外壁を伝って一階まで下りてしまった。
「到着。さ、立てるかい?」
「う、うん。それにしてもすごい……ね」
「ふふん、だろう?」
アルフォンスったら、ドヤ顔も可愛い!!
うっとりと見惚れていたら、身体強化したマティス達が次々と下りて来た。
『とても複雑な心境ではあるが、主がアルフォンスに喜んでいる感情が美味でかなり楽になった……』
やっぱり感情が筒抜けって、ちょっぴり恥ずかしいかな。
脱力したようなアーサーの声に、改めてそう思った。
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