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38.襲撃の黒幕予想

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『主よ、どうした!? このような主の感情は初めてぞ!』


 アーサーの焦ったような声で我に返った。
 今、私は何を聞いた?
 心臓が嫌な音を立てている、ジョエル司祭の言葉と、サミュエルの言葉が頭の中で反響しているみたいだ。


「あ……もしかして、だから信じて待てって……、好きだって言葉にしなかった……?」


『ふぅ、落ち着いたか? なにゆえそのように心を揺らしたのだ』


 テチ、とふくらはぎの横に肉球を当てて聞いてくるアーサー、さっきの話を聞いてなかったのかな。
 アーサーを抱き上げ、洗浄魔法をかけてからベッドの端に座った。すっごくふかふかだ。


「さっきジョエル司祭が……サミュエルには婚約者する相手がいるって……。それなのにサミュエルは……私に信じて待てだなんて……、私って悪役令嬢みたいなポジションなんだね……」


 アーサーの顎下をコショコショしながら、頭に頬擦りをして心を落ち着ける。
 癒しがなければパニックになっていたかもしれない。


『なんだ、そんな事か。言ったであろう、我の主であれば妃の座すら容易なのだぞ、サミュエルはまだ正式に婚約していないのならば、全く問題ないではないか。それに……恐らく昼間の襲撃はその婚約者候補か、その周りの者が手引きしたものだと思うぞ』


「えっ!?」


『サミュエルの従者の中に手の者でもいるのだろう、王家への報告を盗み見る事ができる立ち位置にな。でなければ我が離れている時にサキを狙うのはおかしいであろう? サキは自分が狙われたみたいだったと言ったが、サミュエルは己が悪いと思っているようだった。つまりは刺客が現れたのは、その婚約者候補が原因と薄々わかっているという事だ』


「そんな……」


『まぁ、我がそばにいなくとも自衛じえいができる実力者だと見抜けなかったような質の悪い刺客を雇った者だ、程度が知れるというものよ』


 フンッ、と鼻で笑ってドヤるアーサー。
 ふんぞり返っているから喉が撫でやすいなぁ。
 顎下から胸元にかけてシャシャシャと手早く撫でると、気持ちよさそうに目を閉じた。


「だけどその婚約者候補が犯人だった場合、それだけサミュエルが好きだって事だよね……」


『主、手が止まっているぞ。王族の婚姻など古今東西政略的なものだろう、気にせずともよい、感情が不味くなってしまうではないか』


 テチテチと太ももを叩いて撫でるのを要求するアーサー、この瞬間は主従逆転だ。幸せだからいいけど。


「政略結婚なら、それこそ私が命を狙われるようなお約束な陰謀とかありそう。サミュエルの事は好きだけど、お家騒動に巻き込まれるのはなぁ。それとひとつわかったのは、あのジョエル司祭は婚約者候補側の人間って事かな、気をつけた方がよさそう」


『うむ、最初から我はあやつが気に入らなんだ。それより主、もっと撫でるのだ』


 コロンとベッドの上にお腹を見せて寝転んだアーサーの魅力に、ひと時の間面倒な事を忘れて無心にモフるのだった。
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