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23.アーサーの独り言 [side アーサー]
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最後のフェンリルとしての世界に顕現した我は、同時に異世界からやってきたというサキという娘と従魔契約を交わした。
一万年ごとの世界の審判、九千年の間に顕現したフェンリルは周囲の悪意と欲望の感情を受けてブラックフェンリルへと変貌してしまった。
我も同じ道をたどり、この世界は神により崩壊してしまうのだろうと思っていたが……。
主であるサキとの出会いがすべてを変えたのだ。
純粋な好意、愛情、我がフェンリルだと知っても我に何かを求める事もない。
……いや、毎日『モフる』という日課だけは求めてはくるな。
あれは……まぁ、悪くない。気付くと主に腹を見せているという醜態を晒す事以外は。
そんな主がある日、子供を拾った。
前々から思っていたが、主は少々……どころではなく抜けているところがある。
なぜ草と子供の髪を見間違えるのだ!?
その子供は平民ではありえないくらいの魔力を持っていた。
恐らく普通の街中で倒れていても、この魔力を循環させられる者はすぐに見つからぬであろう。
しかも意識を失うくらいにギリギリの状態だ。
通常魔力酔いするような魔力の持ち主であれば、親が添い寝して互いに負荷がかからぬように毎日少しずつ魔力循環するはずだが……。
幸い主は我の主となった事もあり、魔力量に関してはその辺の魔導師など比べ物にならぬほどだ。
目を覚ました子供は、とても複雑な感情をしていた。
しかし一番大きいのは主に対する好意と感謝、そして驚きか……。
己の魔力量を知っているのなら、魔力酔いで倒れた状態から回復させる事の危険さと凄さを理解しただろうからな。
子供の言葉遣いからして、明らかに平民ではなさそうだ。
しかも少々下心のようなものも感じたので、できれば追い出したかった……が。
主はサミュエルと名乗る子供に同情でもしたのか、暗にここに置いて世話をしたいとユーゴに訴えた。
不本意だが、もう一度言うが我は不本意だが主が望んでいるのだ、望みを叶えるのが従魔というものだろう。
我が不本意である事を感じ取ったのか、ユーゴはため息をつきながら家長であるマティスに聞くと言った。
それだけでも主は自分の事のように喜んで礼を言うというお人好しさ、我がしっかりせねば。
この約三か月の間に主の性格は把握したが、目を離すと危ないという事はわかった。
あのアルフォンスの事すら可愛いとのたまう主だ、きっとサミュエルの事も可愛いと思っているに違いない。
撫でるのは我だけでいいというのに、リアムとユーゴの双子どころか、今度はサミュエル事も撫でている。
主の見ていないところでユーゴ達を使ってサミュエルを追い出してやろうかと思ったが、サミュエルの保護者とやらが来た事で気が変わった。
サミュエルどころではなく、気持ち悪いやつだったのだ。
マーリンと名乗った男は己の欲……少々違うな、己の興味や好奇心に忠実な者のようだった。
しかも魔力量的にあきらかに只者ではない、権力者のお抱え魔導師と言われても納得の魔力だ。
こいつのそばに子供を置いておいては、確実に歪むだろう。
家にいる間、我にねっとりとした視線を向けてきたのも気に入らない。
子供をダシに我に近付こうとする権力者と言われても納得するだろう。
しかし、実際サミュエルは命の危険があった上、その事に本当に驚いていたので一応疑いは保留といったところか。
マーリンがとその従者が帰っていき、気持ち悪い視線から解放されてホッとした。
あやつらが置いていった硬貨袋を帰ってきたマティスが確認すると、どうやら中身はすべて金貨だったようだ。
あの量であれば、数年間は遊んで暮らせる額ではないか?
しばらく金に困る事もないだろうと思ったが、耳と尻尾を下げたマティスが呟いた。
「面倒事のニオイしかしないんだが……」
我は主の望みを叶えただけで、我が望んだことではないのだ。
そう言おうと思ったが、なぜかまっすぐマティスを見る事ができなかった。
一万年ごとの世界の審判、九千年の間に顕現したフェンリルは周囲の悪意と欲望の感情を受けてブラックフェンリルへと変貌してしまった。
我も同じ道をたどり、この世界は神により崩壊してしまうのだろうと思っていたが……。
主であるサキとの出会いがすべてを変えたのだ。
純粋な好意、愛情、我がフェンリルだと知っても我に何かを求める事もない。
……いや、毎日『モフる』という日課だけは求めてはくるな。
あれは……まぁ、悪くない。気付くと主に腹を見せているという醜態を晒す事以外は。
そんな主がある日、子供を拾った。
前々から思っていたが、主は少々……どころではなく抜けているところがある。
なぜ草と子供の髪を見間違えるのだ!?
その子供は平民ではありえないくらいの魔力を持っていた。
恐らく普通の街中で倒れていても、この魔力を循環させられる者はすぐに見つからぬであろう。
しかも意識を失うくらいにギリギリの状態だ。
通常魔力酔いするような魔力の持ち主であれば、親が添い寝して互いに負荷がかからぬように毎日少しずつ魔力循環するはずだが……。
幸い主は我の主となった事もあり、魔力量に関してはその辺の魔導師など比べ物にならぬほどだ。
目を覚ました子供は、とても複雑な感情をしていた。
しかし一番大きいのは主に対する好意と感謝、そして驚きか……。
己の魔力量を知っているのなら、魔力酔いで倒れた状態から回復させる事の危険さと凄さを理解しただろうからな。
子供の言葉遣いからして、明らかに平民ではなさそうだ。
しかも少々下心のようなものも感じたので、できれば追い出したかった……が。
主はサミュエルと名乗る子供に同情でもしたのか、暗にここに置いて世話をしたいとユーゴに訴えた。
不本意だが、もう一度言うが我は不本意だが主が望んでいるのだ、望みを叶えるのが従魔というものだろう。
我が不本意である事を感じ取ったのか、ユーゴはため息をつきながら家長であるマティスに聞くと言った。
それだけでも主は自分の事のように喜んで礼を言うというお人好しさ、我がしっかりせねば。
この約三か月の間に主の性格は把握したが、目を離すと危ないという事はわかった。
あのアルフォンスの事すら可愛いとのたまう主だ、きっとサミュエルの事も可愛いと思っているに違いない。
撫でるのは我だけでいいというのに、リアムとユーゴの双子どころか、今度はサミュエル事も撫でている。
主の見ていないところでユーゴ達を使ってサミュエルを追い出してやろうかと思ったが、サミュエルの保護者とやらが来た事で気が変わった。
サミュエルどころではなく、気持ち悪いやつだったのだ。
マーリンと名乗った男は己の欲……少々違うな、己の興味や好奇心に忠実な者のようだった。
しかも魔力量的にあきらかに只者ではない、権力者のお抱え魔導師と言われても納得の魔力だ。
こいつのそばに子供を置いておいては、確実に歪むだろう。
家にいる間、我にねっとりとした視線を向けてきたのも気に入らない。
子供をダシに我に近付こうとする権力者と言われても納得するだろう。
しかし、実際サミュエルは命の危険があった上、その事に本当に驚いていたので一応疑いは保留といったところか。
マーリンがとその従者が帰っていき、気持ち悪い視線から解放されてホッとした。
あやつらが置いていった硬貨袋を帰ってきたマティスが確認すると、どうやら中身はすべて金貨だったようだ。
あの量であれば、数年間は遊んで暮らせる額ではないか?
しばらく金に困る事もないだろうと思ったが、耳と尻尾を下げたマティスが呟いた。
「面倒事のニオイしかしないんだが……」
我は主の望みを叶えただけで、我が望んだことではないのだ。
そう言おうと思ったが、なぜかまっすぐマティスを見る事ができなかった。
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