上 下
22 / 109

22.サミュエルの保護者

しおりを挟む
「はぁはぁはぁはぁ、こちらに……サミュエル様がいらっしゃると……はぁはぁはぁ、聞いてやってまいりました。はぁはぁ、ご両親からお預かりした男爵家の……はぁはぁ、ご子息なのです」


 玄関を入ってすぐにあるリビングダイニングではぁはぁ言っているのは、白髪白髭のおじいさんと従者らしき人。
 この人が御用商人のご隠居さんか。それにしてもなんでこんなにはぁはぁ言ってるんだろう。


 寝室を出た瞬間リアムに続いて飛び込んで来たので、一瞬リアムがモヨリ―に行かずに途中で引き返してきたのかと思ったよ。
 おじいさんは室内を見回すと、私とアーサーに目を止めた。


「こちらがサミュエル様を保護してくださったお嬢さんですな。お名前をお聞きしても? ああ、私は元商人のマーリンと申します」


 私に名前を聞きいているのに、おじいさんの視線はアーサーに釘付けだ。
 可愛いから気持ちはわかるけどさ、話してる相手の方を見ようよ。


「マーリン!? あ、いえ、サキといいます。サミュエル……様? ですが、今は魔力酔いの症状も落ち着いて寝ていますけど、すぐ動かさない方がよさそうですよ」


 アーサーの名前の元ネタ、アーサー王に魔術師マーリンは外せないので思わず反応してしまった。
 皆一瞬不思議そうな顔をしたけど、魔力酔いの言葉にまるで予想していなかったように驚いた顔をした。


「魔力酔い!? ああ……、そういえばまだ魔力酔いを起こす年齢でしたな。落ち着いたという事は処置をしていただいたようですね、重ねて感謝申し上げます」


『こやつあまりよい気がせんな、己の欲望を優先するタイプであろう。マティスには我の判断でサミュエルとやらを置くと決めたと言えばよいから、早々にこやつらを帰らせるがよい』


 確かに言葉使いは丁寧ていねいだけど、言葉と態度が一致してないみたいな違和感を覚えるもんね。
 サミュエルもそういうのを感じ取って、一緒にいたくなかったのかもしれない。
 アーサーの言葉に、リアムとユーゴはアイコンタクトを取って頷いた。


「とりあえず回復するまであの子はここで預かるから、今日は様子だけ見て後日送り届けるって事でいいかな? おじいさん達の中には他に子供がいないみたいだから、モヨリ―を出発するまでここで預かってもいいし」


「まことですかっ!? それはとても助かります! 優しそうなお嬢さんもいらっしゃるし、サミュエル様も我々のような大人ばかりの中にいるよりこちらで預かっていただく方が楽しく過ごせるでしょう。我々はひと月以内に出発する予定でおります、これは些少さしょうですが費用とお礼としてお受け取りください」


 そう言っておじいさんはジャラリと音を立てる巾着を、テーブルの上に置いた。
 まるで最初からそのつもりだったみたいな準備のよさに、おじいさんへの不信感がつのる。


「今は寝ていると思うので静かにしてくださいね。こちらです」


 サミュエルを見せてサッサと帰ってもらうべく、寝かせてある私の寝室へ案内した。
 だというのに、おじいさんはまだアーサーをチラチラ見ている。
 いくら可愛くても、絶対にアーサーはあげないんだからね!?

「本当に落ち着いて……しかも眠っておられる……。通常であれば我々が入った時点で目を覚ましたはず。どうやらサミュエル様はこの短時間でお嬢さんを随分信頼したようだ。それではサミュエル様をよろしくお願いいたします。我々はモヨリ―の一番大きな宿に泊まってますので、何かあればそこに連絡してください」


 そう言っておじいさん達は帰っていった。
 そして入れ代わるようにマティスが帰ってきて、ひと通り説明したあと巾着の中身を確認すると、中のお金は全て金貨だった。


「面倒事のニオイしかしないんだが……」


 そんなマティスの呟きに、私とアーサーは目をそらした。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎
ファンタジー
俺は自由に生きるにゃ!もう誰かの顔色を伺いながら生きるのはやめにゃ! 何者にも縛られず自由に生きたい! パワハラで人間に絶望したサラリーマンが異世界で無敵の猫に転生し、人と関わらないスローライフを目指すが…。 自由を愛し、命令されると逆に反発したくなる天邪鬼な性格の賢者猫が世界を掻き回す。 不定期更新 ※ちょっと特殊なハイブリット型の戯曲風(台本風)の書き方をしています。 視点の切り替えに記号を用いています ■名前で始まる段落:名前の人物の視点。視点の主のセリフには名前が入りません ◆場所または名前:第三者視点表記 ●場所:場所(シーン)の切り替え(視点はそこまでの継続) カクヨムで先行公開 https://kakuyomu.jp/works/16818023212593380057

無欲のクリスと不思議な貯金箱

小日向ななつ
ファンタジー
感情表現が薄い少女、クリスが通う魔術学園で大きな事件が起きた。 それは友達が先生の出来心で行った儀式によって貯金箱に変えられてしまったという事件だ。 しかも先生は自分をフッた元彼に復讐しようと禁術に手をつけていた。 とんでもないことが目の前で起き、クリスは困惑する。 だが、禁書に呪いを解く方法が書かれていた。それはどこかに飛び去っていったルミナスコインを集めれば、友達は元に戻れるということだ。 こうなったら旅に出るしかない。 ルミナスコインを求め、クリスは友達の姿を戻す旅に出る。 様々な出会いと別れを得て成長する少女達をご覧あれ! この作品は重複投稿しています

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...