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18.二時間前 [side サミュエル]

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「ではやはり狼獣人と共にいる少女が連れているのが、……フェンリルで間違いないのだな?」


「調べさせたところ、そう考えるのが自然でしょうな。フェンリルの幼体と思われる者と同時に姿を見せるようになったという少女の事も気になります。少女の素性は一切わからないというのがなんとも……」


 魔導師長……今は男爵家御用達商人の隠居が男爵の機嫌を取るために、その息子の旅行の付き添いをしているというテイだが、実際は情報収集のために王家の影を数名預かるほどの権限を持っている。
 そしてその影の実力を持ってしても調べられない少女か……。


「しかもモヨリ―に住んでおらず、くだんの森にある集落に住んでいるというのなら、あの方法しかないという事か」


「そうですね、それが確実でしょう。ではこの発熱薬と、その解毒薬をお渡ししておきますね。解毒魔法で治せますが、普通は病気での発熱だと思うでしょうから、魔法で治そうとはしないはずです」


「わかった」


 魔導師長に差し出された小瓶を二つ受け取る。
 この薬を使って病気を装い、フェンリルと共にいる誰かに発見させて保護するように仕向けるというのが作戦だ。


 この幼い姿で倒れていれば、良心を持つ者なら放置するという選択はしないはず。
 影が集めた情報によると周りの評判はかなりいいようだし、上手くいくだろう。


「では我々は行方不明になったサミュエル様を探しているフリをして、モヨリ―で待機しております。連絡は影をつけておきますので合図してくだされば、お一人の時に姿を見せます。今は先行して少女とフェンリルの行動を把握するように申し付けてありますので、合流すればどこでその薬を飲むべきか判断してくれるでしょう」


「サミュエル様、行き先を知られぬように徒歩で森へ向かいます。小一時間で……その姿だと二時間もすれば到着するでしょう、私がご案内いたします」


 魔導師長の説明が済むと、従者に扮した影の一人が案内を買って出た。
 二時間か、王都から長時間の移動で疲れたせいか、今朝からあまり体調がよくないのだが仕方ない。
 万が一のための水や食料を持ってモヨリ―の町を出発した。


「はぁ、はぁ、もう森に入ったのに……はぁ、まだか」


 町を出て二時間弱で、私達は森の入り口にいた。
 薬を飲まなくても倒れるのではないかと思うくらいに疲れている、これも子供の身体で体力がないせいだろう。


「こちらです、あそこに仲間がいますから。集落自体は森に入ってしばらく進んだ左手にあるそうです」


 森にひそんでいた影と合流し、少女とフェンリルが採取のために森へ出かけた事を知った。
 ちょうどいい、先回りして薬を飲もう。
 影の案内で気付かれないように距離をおいて先回りする。


 少女とフェンリルに気付かれないように影の者が姿を消したのを確認して、背嚢リュックやぶの上に置いて薬を取り出そうとした……が。


「なんだ……!? この感覚は……まさか……魔力酔い!?」


 今朝から体調が悪いと思ったのはこのせいか。
 久しく感じてなかった苦痛に意識が遠のき、私の身体は藪の中へと倒れ込んだ。
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