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1.異世界転移
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光の加減で白銀にも見える綺麗な白い毛並み、白狼の赤ちゃんだろうか。
小さい頃飼ってたハムスターが死んだ時の私の憔悴っぷりが酷くて、それ以来家では生き物を飼う事が禁止されたので触れる時は全力で愛でないと。
柔らかくてもこもこの手触り、やっぱり本物はぬいぐるみとは比べ物にならないよね。
もうこの子と離れたくない、ずっと一緒にいたい、そう思った時に頭に衝撃が走った。
「横山! 忙しい時に何居眠りしてんだ!!」
怒声に振り返ると、そこには鬼の形相の上司の姿。
どうやら手に持ってる丸めた書類の束で叩かれたらしい。
私はキリッとした顔を作って上司の目を見て口を開く。
「寝てません」
「嘘つけ! 寝てただろ! 舟漕いでるの見たぞ!」
「寝てません」
真剣な顔で押し切る、ここは認めたら負けだ。
それにさっきのは寝ていたのではなく、きっとこのブラック企業のせいで疲れの余り失神していたに違いない。
「チッ、その担当分終わるまで帰るんじゃねぇぞ、明日休みだから残業も余裕だよなぁ?」
舌打ちしたかと思うと、ニヤリと笑って最悪の宣告をして自分のデスクに戻る上司。
この量を終わらせようと思ったら朝までかかる。周りに手伝いを頼もうにも、私と同じように死んだような顔をしている人達ばかりで頼めない。
さっさと退職願い出してこんな会社やめてやる!
結局その日。
日付が変わって翌日の空が白み始めた頃に会社を出た。
そういえばあと一回でこのブラック企業とおさらばするためのお百度参りの百日目、満願成就の日だから仕事が終わったら行くつもりだったのに!
よし、もうこうなったら今から行ってやる!
会社の出入り口にいる顔見知りの警備員さんに気の毒そうな視線を向けられ、会釈して会社を飛び出す。
まだシャッターの閉まっている商店街を走り抜け、二つ目の信号を曲がるといつもの神社だ。
石段下の鳥居の前で一礼した後、再びダッシュして石段をのぼり切った。
「はぁはぁはぁはぁはぁ、よっしゃぁ~!! これでブラック企業とはオサラバするのよ!」
達成感で両手を空に突き上げた。
「あれ? 空が……青い?」
視界に空!? 私……、落ちてるぅぅぅぅ!?
浮遊感に襲われて、気付くと森の中にいた。
なんで森!? 神社の階段はどこへいったの!?
「ここどこぉ!? 私階段から落ちたんじゃないの!? 怪我してないし、何で!?」
辺りを確認すると、自分が立っていた石造りの遺跡の中心が光に包まれた。
そして光がおさまると、そこには夢で見たのとそっくりな白狼がチョコンと座っていた。
「いやっ、かっわい~い!! おいで~、怖くないよ~」
中腰になってジリジリと子狼に近付く。子狼は私をジッと見て動かないので、子狼の前にしゃがんでから拳を口元へ近付けて匂いを嗅がせてあげる。
フンフンと匂いを嗅いでから再び私を見上げる子狼、撫で回し、抱き上げて更に撫でる。
「いい子だね~、夢でも嬉しいな~。ふわっふわで綺麗な毛並み~。 この感触は夢じゃないよね、……夢じゃ……ない……?」
今更ながらありえない状況にバクバクと心臓が騒ぎ出した。
光の中から現れたこの可愛い子狼……は可愛いからいいとして、ここどこ!?
キョロキョロと辺りを見回したその時、背の高い草叢が音を立てて動く。
子狼を抱きかかえたままゴクリと唾を飲み込むと、二メートルをゆうに超えた灰色の狼が姿を現した。
人間のように二本足でたっているだけでなく、皮鎧まで着ていた。
「「…………」」
私達は数秒見つめ合ったが、向こうが正気に戻る前に狼の反対側から遺跡を飛び出し、全速力で走り出した。
神社のお百度参りの階段ダッシュで鍛えられた脚力、今使わずしていつ使うの!?
震えそうになる足を叱咤して、必死に足を動かした。
「絶対逃がすな! 追うぞ!!」
狼が喋った!? いやいや、それより狼はあの一匹だけじゃないみたいだし、逃がすなとか言われてるし!!
森を走り抜ける間に小枝が容赦なく私の身体を引っ掻くが、子犬が怪我をしないようにだけは気を付けた。
「はぁはぁ、振り切れたかな? あの狼は私を捕まえてどうする気だろう、まさか食べる気じゃ……ヒィ!?」
木の陰に身を潜めてから子狼に話しかけ、自分の発した言葉にゾッとする。
その時子狼が私の口をペロリと舐めた、確か犬が口を舐めるのはご飯の催促だっけ?
こんな状況で餌を欲しがるなんて大物だな!?
そんな子狼の様子に拍子抜けして笑いがこみ上げ、心だけじゃなく身体まで温かくなった気がした。
頭に頬擦りしてから子狼を抱え直すと、再び走り出した……が。
『そっちに行くと捕まるぞ、逃げる必要はないが』
そんな耳が孕みそうなイケボが聞こえた瞬間、さっきの狼達に取り囲まれた。
逃げなければと思っても、恐怖で足が竦んで動けない。
「ヒ……ッ、あ、あぅ……」
声すらまともに出せずにいると、子狼が腕の中からピョイと飛び降り、狼達の方へ肉球をテチテチと鳴らしながら歩いて行く。
「行っちゃダメ!!」
思わず声を上げると、子狼が振り向き、先ほどのイケボが聞こえた。
『我に任せよ』
そう言って狼達の方へ子狼が向き直ると、狼達は子狼に対して全員跪いていた。
「え……っ!? え、は? はぁぁぁぁぁ!?」
何が起こってるの!?
誰かこの状況を私に説明してぇ~!!
◇◇◇
拙作をお読みいただきありがとうございます!
気楽に読めて、笑ってもらえる作品を目指すので今後ともよろしくお願いします。
小さい頃飼ってたハムスターが死んだ時の私の憔悴っぷりが酷くて、それ以来家では生き物を飼う事が禁止されたので触れる時は全力で愛でないと。
柔らかくてもこもこの手触り、やっぱり本物はぬいぐるみとは比べ物にならないよね。
もうこの子と離れたくない、ずっと一緒にいたい、そう思った時に頭に衝撃が走った。
「横山! 忙しい時に何居眠りしてんだ!!」
怒声に振り返ると、そこには鬼の形相の上司の姿。
どうやら手に持ってる丸めた書類の束で叩かれたらしい。
私はキリッとした顔を作って上司の目を見て口を開く。
「寝てません」
「嘘つけ! 寝てただろ! 舟漕いでるの見たぞ!」
「寝てません」
真剣な顔で押し切る、ここは認めたら負けだ。
それにさっきのは寝ていたのではなく、きっとこのブラック企業のせいで疲れの余り失神していたに違いない。
「チッ、その担当分終わるまで帰るんじゃねぇぞ、明日休みだから残業も余裕だよなぁ?」
舌打ちしたかと思うと、ニヤリと笑って最悪の宣告をして自分のデスクに戻る上司。
この量を終わらせようと思ったら朝までかかる。周りに手伝いを頼もうにも、私と同じように死んだような顔をしている人達ばかりで頼めない。
さっさと退職願い出してこんな会社やめてやる!
結局その日。
日付が変わって翌日の空が白み始めた頃に会社を出た。
そういえばあと一回でこのブラック企業とおさらばするためのお百度参りの百日目、満願成就の日だから仕事が終わったら行くつもりだったのに!
よし、もうこうなったら今から行ってやる!
会社の出入り口にいる顔見知りの警備員さんに気の毒そうな視線を向けられ、会釈して会社を飛び出す。
まだシャッターの閉まっている商店街を走り抜け、二つ目の信号を曲がるといつもの神社だ。
石段下の鳥居の前で一礼した後、再びダッシュして石段をのぼり切った。
「はぁはぁはぁはぁはぁ、よっしゃぁ~!! これでブラック企業とはオサラバするのよ!」
達成感で両手を空に突き上げた。
「あれ? 空が……青い?」
視界に空!? 私……、落ちてるぅぅぅぅ!?
浮遊感に襲われて、気付くと森の中にいた。
なんで森!? 神社の階段はどこへいったの!?
「ここどこぉ!? 私階段から落ちたんじゃないの!? 怪我してないし、何で!?」
辺りを確認すると、自分が立っていた石造りの遺跡の中心が光に包まれた。
そして光がおさまると、そこには夢で見たのとそっくりな白狼がチョコンと座っていた。
「いやっ、かっわい~い!! おいで~、怖くないよ~」
中腰になってジリジリと子狼に近付く。子狼は私をジッと見て動かないので、子狼の前にしゃがんでから拳を口元へ近付けて匂いを嗅がせてあげる。
フンフンと匂いを嗅いでから再び私を見上げる子狼、撫で回し、抱き上げて更に撫でる。
「いい子だね~、夢でも嬉しいな~。ふわっふわで綺麗な毛並み~。 この感触は夢じゃないよね、……夢じゃ……ない……?」
今更ながらありえない状況にバクバクと心臓が騒ぎ出した。
光の中から現れたこの可愛い子狼……は可愛いからいいとして、ここどこ!?
キョロキョロと辺りを見回したその時、背の高い草叢が音を立てて動く。
子狼を抱きかかえたままゴクリと唾を飲み込むと、二メートルをゆうに超えた灰色の狼が姿を現した。
人間のように二本足でたっているだけでなく、皮鎧まで着ていた。
「「…………」」
私達は数秒見つめ合ったが、向こうが正気に戻る前に狼の反対側から遺跡を飛び出し、全速力で走り出した。
神社のお百度参りの階段ダッシュで鍛えられた脚力、今使わずしていつ使うの!?
震えそうになる足を叱咤して、必死に足を動かした。
「絶対逃がすな! 追うぞ!!」
狼が喋った!? いやいや、それより狼はあの一匹だけじゃないみたいだし、逃がすなとか言われてるし!!
森を走り抜ける間に小枝が容赦なく私の身体を引っ掻くが、子犬が怪我をしないようにだけは気を付けた。
「はぁはぁ、振り切れたかな? あの狼は私を捕まえてどうする気だろう、まさか食べる気じゃ……ヒィ!?」
木の陰に身を潜めてから子狼に話しかけ、自分の発した言葉にゾッとする。
その時子狼が私の口をペロリと舐めた、確か犬が口を舐めるのはご飯の催促だっけ?
こんな状況で餌を欲しがるなんて大物だな!?
そんな子狼の様子に拍子抜けして笑いがこみ上げ、心だけじゃなく身体まで温かくなった気がした。
頭に頬擦りしてから子狼を抱え直すと、再び走り出した……が。
『そっちに行くと捕まるぞ、逃げる必要はないが』
そんな耳が孕みそうなイケボが聞こえた瞬間、さっきの狼達に取り囲まれた。
逃げなければと思っても、恐怖で足が竦んで動けない。
「ヒ……ッ、あ、あぅ……」
声すらまともに出せずにいると、子狼が腕の中からピョイと飛び降り、狼達の方へ肉球をテチテチと鳴らしながら歩いて行く。
「行っちゃダメ!!」
思わず声を上げると、子狼が振り向き、先ほどのイケボが聞こえた。
『我に任せよ』
そう言って狼達の方へ子狼が向き直ると、狼達は子狼に対して全員跪いていた。
「え……っ!? え、は? はぁぁぁぁぁ!?」
何が起こってるの!?
誰かこの状況を私に説明してぇ~!!
◇◇◇
拙作をお読みいただきありがとうございます!
気楽に読めて、笑ってもらえる作品を目指すので今後ともよろしくお願いします。
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