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50.オーギュストの……

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 卒業パーティーが無事に終わり、正式に発表はされていないもののリリアンが婚約者に確定した事が暗黙の了解になった。
 そして学年の切り替わりの為の長期休暇となりアレクシアとオーギュストは侯爵家に帰っ来た。


 エミールは相変わらずアレクシアにベッタリで甘えており、この時点でアレクシアは弟に対する関わり方を間違えたかと内心焦っていたりする。


(普通この歳になったら姉離れするもんやけどなぁ、私の感覚やとめっちゃ歳が離れとる感じやから甘やかし過ぎたんかもしれん。悪い事したら叱ったりはしたけど、ガチの喧嘩とかした事も無いもんなぁ。ここまでシスコンになるらぁ予想外や……。あ、そういや前世の弟は彼女出来た途端素っ気無ぁなったで、エミールも気になる子が出来たら変わるかもしれん!)


 午後のティータイムの後、ソファの上でアレクシアの膝枕でゴロゴロしているエミールの頭を撫でながら(この時点で物凄く甘やかしているがアレクシアに自覚は無い)聞いてみると事にした。


「エミール、お茶会で気になる令嬢とは出会えた? 人気のある令嬢だと放っておいたらすぐに婚約者ができてしまうでしょう?」


「そうだね、アレク姉様もまだ13歳なのに婚約しちゃったもんね」


 少し拗ねたようにアレクシアのドレスのレースを指先で弄びながら、ボソボソと言った。


「あら、学園在学中に婚約するのは普通よ? 早いとお茶会に参加する5歳で決まる人もいるみたいだし」


「お母様が言ってたよ、アレク姉様がお茶会に参加したその日から婚約の申し込みがあったって。だけどアレク姉様が全部断って欲しいってお願いしたんでしょ? 僕にもいくつか打診が来たらしいけど、断ってもらってるんだ」


「うふふ、流石エミールね。私の弟は魅力的だから婚約打診の10や100来ても不思議じゃないわ」


「10はともかく100って多過ぎでしょ、10や20って言うのが普通じゃない?」


「そんな事無いわよ、だってエミールですもの。剣の腕だってもう私じゃ敵わないくらい強くなってるし、家族想いで優しくて勉強だって頑張ってる努力家だし、自慢の弟だわ」


「褒め過ぎだよ、姉馬鹿なんだから……」


 照れ臭そうではあるが、満更でも無いと緩んだ口元が物語っている。


「で、気になる令嬢はいないの?」


 エミールがさりげなく話題を変えたがアレクシアは騙されなかった、戻って来てしまった話題にチラリとアレクシアの顔を見る。


「女神の化身と言われる程の姉を持つとどうしても比べちゃうんだよ、アレク姉様より素敵な令嬢が居たら興味を持つだろうけど……居ないんだもん……」


(く……っ、ウチの弟が可愛い……! こんなに姉をベタ褒めしてくれる弟を突き放すらぁ無理やん! もぉ恋人が出来るまでは構い倒す! むしろ構い倒すべきや!)


 弟の可愛さに悶えていたらサロンのドアがノックされて開いた、アレクシア達が姉弟でお茶会をしていると聞いてオーギュストがやって来たのだ。


「これは……、マックスが見たら嫉妬しそう……いや、確実に嫉妬する光景だね」


「まさか、相手はエミールなんだから嫉妬なんてしないわよ。家族でも無い人が相手ならともかく……」


「いやいや、あいつは私相手でも普段から嫉妬してるんだよ? 家族以外だったら決闘すると言いかねないね」


 オーギュストがテーブルを挟んだ向かいのソファに座ると、メイドのエマが手際良くお茶を淹れてテーブルに置いた。
 オーギュストはお礼を言って口をつける。


「ふふ、それ程までに想われているなら嬉しいけど……、決闘なんて大袈裟だわ」


「あ、嬉しいんだ……。良かった、これでマックスの気持ちが重いって思うようなら今後大変だなぁと思ったんだ。あいつアレクが初恋だし、既にアレクに見捨てられたら自決してしまいそうな程惚れ込んでるから心配でさ」


「オーギュ兄様……、それは私に言ってはいけない話ではないの? マックスが話して良いと言うとは思えない内容だけど……」


「ああ、うん、だから聞いたのは内緒だよ? エミールもね?」


「「………」」


 シレッと笑顔で言い放つオーギュストに、アレクシアは首を傾げた。


(なんか最近オーギュ兄様が変わった様な……、テンション高いというか、調子に乗ってるような……)


「オーギュ兄様、最近何か良い事でもありました?」


「……ッ!」


 オーギュストは明らかに動揺して、口に含んだお茶を吹き出しそうになった。


「な、なん……、どうして急にそんな事……?」


「いえ、何となくですけれどそんな気がしたの」


 オーギュストはカップをソーサーに戻し、咳払いをして姿勢を正した。


「ンンッ、実は……その……、長期休暇に入る時に手紙を貰ったんだ……。とある……令嬢から……」


 そう言ったオーギュストの頬は薄紅色に染まっている、眼福だと思いつつアレクシアは先を促す。


「その令嬢は私の唇がとても好きだと……、人を見る時に1番に気になるのが唇という令嬢らしくて私と交流を持ちたいという事で、休みの間に何度か手紙のやりとりをしては……いる」


(つまりは唇フェチの令嬢からラブレター貰って、しかもオーギュ兄様も満更じゃない相手って事か……。せやから普段サロンに来んくせにコレが言いたくて来たんやな……?)


「それは……おめでとうございます? この縁が良縁である事を祈るわ」


「僕も祈ります!」


「ああ、ありがとう……、私も良縁である事を願うよ」


(って事は……卒業パーティーでオーギュ兄様ボッチ参加の危機を回避出来たって事!? 良かった~! 是非ともその唇フェチ令嬢と上手く行って欲しい!)


 もしもマクシミリアンが居なければアレクシアをエスコートして卒業パーティーに参加したであろうオーギュストに対して、何気に気にしていた案件が解決しそうでホッと胸撫で下ろすアレクシアだった。
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