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48.王太子殿下の婚約者

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「すごぉい! なんて素敵なの!」


「本当、リリアンにピッタリだわ。王太子殿下はセンスが良いのね」


 寮のリリアンの部屋で王太子から届いたドレスを試着して見せてもらったレティシアは、素敵なドレスにとても興奮していた。
 アレクシアも大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えたデザインでありながら、リリアンに似合うセンスの良さに素直に感心している。


 このドレスは王太子であるジェルマンから、卒業パーティーでエスコートするリリアンへの贈り物である。
 正式に発表されていないが、婚約者がリリアンに決定したと言っているようなものだ。


 ジェルマン王太子の瞳の色であるチョコレートのような茶色のシルクをベースに、シフォンのようにふんわりと透ける白やベージュにピンク系の花が刺繍で散りばめられて可愛いのに、デザインがデコルテを見せて大人っぽさを演出している。


「王太子殿下はどんな衣装を着られるか決まっているの?」


 レティシアが目をキラキラさせてリリアンに質問した。


「衣装は王族の伝統的な物ですけれど、わたくしの目の色をしたポケットチーフを準備しているそうよ」


 そう言って微笑むリリアンは幸せそうだった。
 アレクシアが最初に話を聞いた時は政略結婚で嫌ではないのかと心配したが、食堂でテオドール王子をいさめたり、普段から周りに気遣いをしている姿を見ているので元々好感度は高かったらしい。
 正式に婚約の打診が来たと父親の公爵から聞かされた時に思わず喜んでしまい、その時に好感ではなく好意を持っていた事に気付いたとアレクシア達に教えてくれた。


「リリアンもアレクシアも親戚なだけあって見た目に惑わされず素敵な婚約者を見つけたのね……、いいなぁ」


 アレクシアは最初の出会いのせいでレティシアとクロードが良い感じなのかと思っていたが、お互い兄妹のような家族としての愛情しか持ってないと今では知っている。


「それじゃあ私達の卒業パーティーまでに女を磨かなきゃね!」


「そうね、時間はまだあるもの。それまでにもっと太ってみせるわ!」


「アレクがポテチや平民用の味付けの事を教えてくれてから、かなりレティの体重も増えたのではなくて?」


 実際入学してから11ヶ月の間に見た目が1.2倍になっていた。
 お陰で姉からの虐めもかなり減ったらしく、両親も年頃になってきたから綺麗になってきたのだろうと喜んでくれているとか。


「そうなの! 前に比べたら食事の量を増やす事が出来てるから、卒業までにはお姉様に追いついてみせるわ!」


 グッと拳を握り、気合を入れるレティシア。


「頑張ってね、わたくしも応援しているわ」


「無理をして身体を壊さない程度にね、美しさよりレティの健康の方が大事だから」


 これまでの苦しくなるほど頑張って食べている姿を思い出し、つい心配になってしまうアレクシア。
 以前よりも食べられるようになったとはいえ、元々食が細い分レティシアは無理をしがちなのだ。


「2人ともありがとう、胸を張って2人の友人ですって言えるようになるからね」


「今でも言えるわ」
「今でも言えますわ」


 同時に言ってアレクシアとリリアンは顔を見合わせて笑った、レティシアは嬉しさのあまり瞳を潤ませている。
 リリアンがこのような人格者の言葉をサラリと言えるのは、幼少期からアレクシアが事ある毎に「なぜ容姿で判断してはいけないか」「なぜ傲慢な態度をとってはいけないのか」という事をしっかり、みっちり説明してきたからである。


 幼少期は「わたくしが美しければ他はどうでもいい」から「見た目だけ磨いても中身が醜悪ならばその醜悪さが外見にも影響する」になり、「見目麗しいだけの傲慢な無能は何人居ても仕事が進まない、見た目に関わらず有能な者が居れば早く終わる」という概念も周りの人間を例に出しては叩き込んだ。


 その結果アレクシアが居なくても公正に物事を見るようになり、食堂内でのちょっとしたイザコザをいさめたりする事が何度かあった。
 そんな場面をジェルマン王太子が1度ならず何度か見かけた事によって、本人から陛下に進言があり婚約者に決定したのだ。


(婚約者に決定してからリリアン綺麗になった気ぃするわ、やっぱり恋する乙女は綺麗になるんやな。私も多少綺麗になっとるんやろか……なんつって)


 そんな事を考えながらニコニコとミラに手伝って貰いながら普段着に着替える。
 そんなリリアンを見ていたレティシアがポツリと言った。


「来年はアレクシアがマクシミリアン様と卒業パーティーに出席するのよね? いいなぁ、私も卒業する前に誰かのパートナーで出席してみたいって欲が出て来ちゃう」


 夢見る乙女のように頬に手を当ててホゥ、と熱いため息を吐くレティシアの横で、アレクシアは言われて初めてその事に気付き、妄想が止まらなくなっていた。
 が、あの麗しいマクシミリアンの隣に立つ自分の姿を想像し、少なからず心を打ちのめされていたりする。


 全く同じような事をマクシミリアンも考えているとは露ほども思わずに。
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