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39.訪問の目的
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「ふふっ、クスクス」
「いつまで笑ってるんだ、エドモン」
今まで見た事が無い兄の大爆笑っぷりに、リオンヌ伯爵家の三男であるエドモンはフレデリクを視界に入れる度に笑いが込み上げてしまう。
そんな2人を微笑みを浮かべたまま見ているアレクシアは、どうやってフレデリクかエドモンだけ連れて離席するか考えていた。
(とにかくこの子ら連れ出してマックスの好みを聞き出さん事には、今日来た目的が達成されへん。エドモンはお兄さんの好みとか興味無さそうやで、やっぱりここはフレデリクかな)
「ねぇ、フレデリク? 良かったらお庭を案内してもらえないかしら?」
「「「えっ!?」」」
マクシミリアン、エミール、フレデリクの三者が同時に声を上げた。
「ダメかしら?」
アレクシアはフレデリクの顔を覗き込む様にコテリと首を傾げると、免疫の無い美少女の可愛い仕草にフレデリクは顔を赤くしながらそっぽ向いた。
「べっ、べつにかまわない……けど……」
「わぁ、良かった! じゃあ一緒に行きましょう」
嬉しそうな笑顔を見せるアレクシアに他の者は何も言えなくなってしまい、一緒に行く事も止める事も出来なかった。
アレクシアは立ち上がると、ニコニコしたままスッと右手を差し出した。
「……?」
意図が分からずフレデリクが首を傾げると、アレクシアは少し手をヒラヒラと動かしながら口を開いた。
「うふふ、小さな紳士は淑女をエスコートしてくださらないのかしら?」
「えっ、あ……っ!」
お茶会でも男女共に殆ど相手にされないフレデリクは、エスコートするという概念自体養われておらず、慌ててアレクシアの手を取り庭へと向かった。
扉の向こうに消えたアレクシアとフレデリクを呆然と見送ったマクシミリアンが、絶望を滲ませた声でオーギュストに話しかける。
「オーギュ……、アレクは年下の男が好みなんだろうか……」
「な……っ、違いますよ! アレク姉様は子供好きなだけです、ぼくもお仕置きされた後は必ずあんな風に一緒に過ごして仲直りしてましたから」
マクシミリアンの言葉にエミールが慌てて否定した、その声は置いていかれたせいで明らかに拗ねているのが周りの者にもわかった。
「ボクはエミール様がうらやましいです、あんなにキレイでやさしくてたのしいお姉様がいるなんて……」
同じく置いていかれたエドモンがポツリと零した。
兄達とは剣の訓練を一緒にする事はあっても、暇な時に構って貰える事は殆ど無いせいだ。
寂しそうなエドモンの姿を見て、普段目上の者から可愛がられてばかりのエミールに兄貴風を吹かしたい欲求が生まれた。
「それじゃあ週末にウチに遊びに来ればいい、そうしたらアレク姉様に遊んでもらえるよ。オーギュ兄様、いいでしょう?」
エミールは細く小さな目を期待でキラキラさせてオーギュストを見た、目下の者に良いところを見せたい意気込みが伝わってきてオーギュストは苦笑いを浮かべる。
「ああ、その時はマックスに連れて来てもらえばいいさ。なぁ?」
ニヤリと笑ったその目は「アレクシアに会う口実になるだろう?」と如実に物語っていた。
オーギュストはマクシミリアンの恋が成就するとは思っていないが、今のところアレクシアは自分と同じくらいにはマクシミリアンに対して好感を持っていると思っているので、アレクシアの迷惑にならない程度の手助けであれば協力するつもりでいる。
実際には同じくらいどころか、全く違うベクトルで好感を抱きまくっているという事実には全く気付かずに。
一方その頃のアレクシアとフレデリクは、最後の盛りとばかりに咲く薔薇達が植えられている一画に来ていた。
「良い香り、ずっと深呼吸していたくなるわ」
「……た」
「え?」
「さっきは悪かったと言ったんだ、……です」
今まで触れた誰の手よりも柔らかで優しい感触にドギマギしていたせいで、セリフを噛んでしまったフレデリクは耳を赤く染めながらそっぽ向いた。
「うふふ、もうお仕置きしたから気にしなくていいわ。話しにくければ普段のように話して良いのよ? 何ならエミールみたいにアレク姉様って呼んでくれてもいいし」
(クックック、マックスへのアプローチと同時進行で外堀も埋めていく……、目指せ『いつの間にか婚』!)
「わかった……」
「……ねぇフレデリク、マックスは来年最高学年じゃない? その……婚約話なんか出てたりするのかしら?」
「ハッ、リオンヌ家の人間に限ってそんなに早く結婚が決まるなんてあり得ないだろ。それよりオレの事はフレディって呼んでいいぞ」
「わかったわフレディ、それにしてもマックスは強くて素敵な紳士なのに周りは見る目が無いのね。………その方が私的に助かるけど」
「え?」
「いいえ、何でも無いわ」
最後にポツリと呟いた言葉が聞こえずフレデリクが聞き返したがアレクシアはサラリと誤魔化した。
「兄上に対して素敵だなんて言うのはアレク……姉様くらいのものだよ」
(ふおぉぉ~! 美少年からの『アレク姉様』頂きました~! しかも照れとるとこがポイント高いわぁ)
嬉しくてアレクシアは思わず笑い出した。
「ふふ、うふふふ」
「な、なんだよ」
「だってフレディがアレク姉様って呼んでくれたのが嬉しくて」
「何だそれ」
「ところでフレディ……、マックスが好ましく思う女性ってどんな人か……知ってる?」
半分呆れて、半分照れた顔をするフレデリクにアレクシア的にはさりげなさを装って本題をぶつけた。
「いつまで笑ってるんだ、エドモン」
今まで見た事が無い兄の大爆笑っぷりに、リオンヌ伯爵家の三男であるエドモンはフレデリクを視界に入れる度に笑いが込み上げてしまう。
そんな2人を微笑みを浮かべたまま見ているアレクシアは、どうやってフレデリクかエドモンだけ連れて離席するか考えていた。
(とにかくこの子ら連れ出してマックスの好みを聞き出さん事には、今日来た目的が達成されへん。エドモンはお兄さんの好みとか興味無さそうやで、やっぱりここはフレデリクかな)
「ねぇ、フレデリク? 良かったらお庭を案内してもらえないかしら?」
「「「えっ!?」」」
マクシミリアン、エミール、フレデリクの三者が同時に声を上げた。
「ダメかしら?」
アレクシアはフレデリクの顔を覗き込む様にコテリと首を傾げると、免疫の無い美少女の可愛い仕草にフレデリクは顔を赤くしながらそっぽ向いた。
「べっ、べつにかまわない……けど……」
「わぁ、良かった! じゃあ一緒に行きましょう」
嬉しそうな笑顔を見せるアレクシアに他の者は何も言えなくなってしまい、一緒に行く事も止める事も出来なかった。
アレクシアは立ち上がると、ニコニコしたままスッと右手を差し出した。
「……?」
意図が分からずフレデリクが首を傾げると、アレクシアは少し手をヒラヒラと動かしながら口を開いた。
「うふふ、小さな紳士は淑女をエスコートしてくださらないのかしら?」
「えっ、あ……っ!」
お茶会でも男女共に殆ど相手にされないフレデリクは、エスコートするという概念自体養われておらず、慌ててアレクシアの手を取り庭へと向かった。
扉の向こうに消えたアレクシアとフレデリクを呆然と見送ったマクシミリアンが、絶望を滲ませた声でオーギュストに話しかける。
「オーギュ……、アレクは年下の男が好みなんだろうか……」
「な……っ、違いますよ! アレク姉様は子供好きなだけです、ぼくもお仕置きされた後は必ずあんな風に一緒に過ごして仲直りしてましたから」
マクシミリアンの言葉にエミールが慌てて否定した、その声は置いていかれたせいで明らかに拗ねているのが周りの者にもわかった。
「ボクはエミール様がうらやましいです、あんなにキレイでやさしくてたのしいお姉様がいるなんて……」
同じく置いていかれたエドモンがポツリと零した。
兄達とは剣の訓練を一緒にする事はあっても、暇な時に構って貰える事は殆ど無いせいだ。
寂しそうなエドモンの姿を見て、普段目上の者から可愛がられてばかりのエミールに兄貴風を吹かしたい欲求が生まれた。
「それじゃあ週末にウチに遊びに来ればいい、そうしたらアレク姉様に遊んでもらえるよ。オーギュ兄様、いいでしょう?」
エミールは細く小さな目を期待でキラキラさせてオーギュストを見た、目下の者に良いところを見せたい意気込みが伝わってきてオーギュストは苦笑いを浮かべる。
「ああ、その時はマックスに連れて来てもらえばいいさ。なぁ?」
ニヤリと笑ったその目は「アレクシアに会う口実になるだろう?」と如実に物語っていた。
オーギュストはマクシミリアンの恋が成就するとは思っていないが、今のところアレクシアは自分と同じくらいにはマクシミリアンに対して好感を持っていると思っているので、アレクシアの迷惑にならない程度の手助けであれば協力するつもりでいる。
実際には同じくらいどころか、全く違うベクトルで好感を抱きまくっているという事実には全く気付かずに。
一方その頃のアレクシアとフレデリクは、最後の盛りとばかりに咲く薔薇達が植えられている一画に来ていた。
「良い香り、ずっと深呼吸していたくなるわ」
「……た」
「え?」
「さっきは悪かったと言ったんだ、……です」
今まで触れた誰の手よりも柔らかで優しい感触にドギマギしていたせいで、セリフを噛んでしまったフレデリクは耳を赤く染めながらそっぽ向いた。
「うふふ、もうお仕置きしたから気にしなくていいわ。話しにくければ普段のように話して良いのよ? 何ならエミールみたいにアレク姉様って呼んでくれてもいいし」
(クックック、マックスへのアプローチと同時進行で外堀も埋めていく……、目指せ『いつの間にか婚』!)
「わかった……」
「……ねぇフレデリク、マックスは来年最高学年じゃない? その……婚約話なんか出てたりするのかしら?」
「ハッ、リオンヌ家の人間に限ってそんなに早く結婚が決まるなんてあり得ないだろ。それよりオレの事はフレディって呼んでいいぞ」
「わかったわフレディ、それにしてもマックスは強くて素敵な紳士なのに周りは見る目が無いのね。………その方が私的に助かるけど」
「え?」
「いいえ、何でも無いわ」
最後にポツリと呟いた言葉が聞こえずフレデリクが聞き返したがアレクシアはサラリと誤魔化した。
「兄上に対して素敵だなんて言うのはアレク……姉様くらいのものだよ」
(ふおぉぉ~! 美少年からの『アレク姉様』頂きました~! しかも照れとるとこがポイント高いわぁ)
嬉しくてアレクシアは思わず笑い出した。
「ふふ、うふふふ」
「な、なんだよ」
「だってフレディがアレク姉様って呼んでくれたのが嬉しくて」
「何だそれ」
「ところでフレディ……、マックスが好ましく思う女性ってどんな人か……知ってる?」
半分呆れて、半分照れた顔をするフレデリクにアレクシア的にはさりげなさを装って本題をぶつけた。
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