37 / 59
36.さりげなくチェックしなくちゃ
しおりを挟む
「お待たせ、マックス」
「こんにちは、マクシミリアン様」
「こんにちは、アレク……シア嬢……。オーギュ、すまないな、俺の分まで」
最初マクシミリアンは自分が食堂に行くと皆が嫌な思いをすると言って購買に行こうとしていたが、オーギュストがついでに持ってくるからと待っていてもらったのだ。
「ついでだからいいよ、アレクのお勧めで平民用の薄味を持って来たよ」
オーギュストはそう言って四阿のテーブルにトレイを置いた。
「平民用?」
「はい、貴族用のスパイスを大量に使ったものより食べやすくて、比べるとこちらの方が多く食べられるという事で平民用を食べる人が凄く増えていました。お気に召さなければ明日からまた貴族用を持って参りますので」
「そうなのか……、知らなかった……。ありがとう、アレク……シア嬢」
オーギュストの代わりにアレクシアが答えると、マクシミリアンはぎこちなく微笑みを浮かべた。
アレクと呼びたいがもうひと息なのだが愛称でなかなか呼べない。
「うふふ、持って来ているのはオーギュ兄様ですけれど。それよりオーギュ兄様と同じようにアレクと呼んで下さいませ」
「え、あ、その……アレク……と、呼んでいいの……か?」
「はい! 言葉遣いも普段通りでお願いします」
マクシミリアンはアレクシアにどういうスタンスで対応すれば良いかわからず、時々敬語が混ざる話し方をしていたので、少しでも親しくしたいアレクシアはチャンスとばかりにタメ口で話してもらう事をお願いした。
昨日と違い頬張らずとも食べられる食事の為、食事をしつつ会話が出来る。
アレクシアは昨夜寝る前に考えていた質問を少しずつ投げかけた。
「そういえばマクシミリアン様にご兄弟はいらっしゃるのですか?」
「え? ああ……、母親は違うが弟が2人いる……」
マクシミリアンの母親はマクシミリアンが5歳の時に「いくら我が子とはいえ、こんな醜悪な容姿の子供を可愛いとは思えないし連れて歩きたく無い」と出て行ってしまったのだ。
もとより適齢期に結婚ができなくて渋々嫁いできたせいですぐに離婚が成立し、そしてその1年後に父親が再婚した。
「まぁ、弟でしたら一緒に剣術の練習も出来ていいですね」
順調に家族構成から聞き出してニコニコしながら言うが、マクシミリアンの顔色は良くなかった。
「そうだな……、上の弟は今8歳だが既に剣の才能は俺を上回っている本物の天才だ」
「なるほど、だからマクシミリアン様は弟さんに負けないように努力しているから、剣術の授業で常に1位なんですね。きっと弟さんもそんなマクシミリアン様の姿を尊敬していると思います。私達の弟のエミールも、オーギュ兄様みたいに強くなって私を護ってくれるそうですよ?」
チラリとオーギュストに視線を向けて微笑むと、オーギュストは一瞬瞠目してから照れ臭そうに笑った。
「そんな風に言ってくれているのなら益々努力しないとな、そしてエミールと一緒にアレクを護るよ」
「まぁ、ありがとうオーギュ兄様! オーギュ兄様がそうやって自然に努力する姿を見せるからこそ尊敬されるのよ。きっとマクシミリアン様の弟さんも同じではないでしょうか? もし弟の方が才能があるからと言って努力する事をやめてしまっていたら今のマクシミリアン様はなかったと思います。続ける努力が出来る人には私も尊敬の念を抱きますもの、いつも刺繍を途中で投げ出したくなってしまいますから、うふふふ」
実際アレクシアの刺繍の腕は上位貴族の令嬢としては普通だが、決して好きでは無い。
スケジュールとして決められているから渋々こなしているだけなので、止めて良いと言われたらとっくに投げ出していただろう。
「あ……」「お食事中失礼致します。アレク、午後から馬術だから早く寮に戻って着替えて来ないと、間に合わなくなるわよ?」
マクシミリアンが何か言おうとした時、レティシアがアレクシアを呼びに来た。
「あ、そういえばそうだったわね。呼びに来てくれてありがとう、レティ。それではマクシミリアン様、お兄様、申し訳ありませんがこれで失礼しますね」
そう言ってレティシアとアレクシアは食器を片付ける為に食堂へ向かった。
残されたのはガックリと項垂れるマクシミリアンと、それを呆れた目で見るオーギュストだった。
「で? 何を言おうとしてたんだ?」
「できるなら……マックスと呼んで貰おうと思って……、あと、お前と話す時と同じ話し方で話して欲しくて……。ケーキのお礼も言い損ねたし、それとこの平民用の味付けだと多めに食べられそうだから、教えてくれたお礼も言いたかった……、はぁぁ……」
(何より弟と比べたり下手な慰めの言葉を口にせず、俺の努力する姿勢を褒めてくれたお礼を言いたかったな)
大きなため息を吐いてモソモソと食事を続けるマクシミリアン。アレクシアが居る間は緊張で食が進まずまだ半分程残っている。
一方で容姿以外は隙が無いと思っていた親友が次々に見せる新たな面に、苦笑いしながらオーギュストは最後のひと口を口に入れた。
「もぐもぐ……ごくん。私の予想ではそれらを言い終えるのに1週間は掛かるとみた。普段人と関わらないようにしているツケが回って来たと思う事だね」
オーギュストは恨めしげな親友の視線を受け止めながら笑って肩を竦めた。
「こんにちは、マクシミリアン様」
「こんにちは、アレク……シア嬢……。オーギュ、すまないな、俺の分まで」
最初マクシミリアンは自分が食堂に行くと皆が嫌な思いをすると言って購買に行こうとしていたが、オーギュストがついでに持ってくるからと待っていてもらったのだ。
「ついでだからいいよ、アレクのお勧めで平民用の薄味を持って来たよ」
オーギュストはそう言って四阿のテーブルにトレイを置いた。
「平民用?」
「はい、貴族用のスパイスを大量に使ったものより食べやすくて、比べるとこちらの方が多く食べられるという事で平民用を食べる人が凄く増えていました。お気に召さなければ明日からまた貴族用を持って参りますので」
「そうなのか……、知らなかった……。ありがとう、アレク……シア嬢」
オーギュストの代わりにアレクシアが答えると、マクシミリアンはぎこちなく微笑みを浮かべた。
アレクと呼びたいがもうひと息なのだが愛称でなかなか呼べない。
「うふふ、持って来ているのはオーギュ兄様ですけれど。それよりオーギュ兄様と同じようにアレクと呼んで下さいませ」
「え、あ、その……アレク……と、呼んでいいの……か?」
「はい! 言葉遣いも普段通りでお願いします」
マクシミリアンはアレクシアにどういうスタンスで対応すれば良いかわからず、時々敬語が混ざる話し方をしていたので、少しでも親しくしたいアレクシアはチャンスとばかりにタメ口で話してもらう事をお願いした。
昨日と違い頬張らずとも食べられる食事の為、食事をしつつ会話が出来る。
アレクシアは昨夜寝る前に考えていた質問を少しずつ投げかけた。
「そういえばマクシミリアン様にご兄弟はいらっしゃるのですか?」
「え? ああ……、母親は違うが弟が2人いる……」
マクシミリアンの母親はマクシミリアンが5歳の時に「いくら我が子とはいえ、こんな醜悪な容姿の子供を可愛いとは思えないし連れて歩きたく無い」と出て行ってしまったのだ。
もとより適齢期に結婚ができなくて渋々嫁いできたせいですぐに離婚が成立し、そしてその1年後に父親が再婚した。
「まぁ、弟でしたら一緒に剣術の練習も出来ていいですね」
順調に家族構成から聞き出してニコニコしながら言うが、マクシミリアンの顔色は良くなかった。
「そうだな……、上の弟は今8歳だが既に剣の才能は俺を上回っている本物の天才だ」
「なるほど、だからマクシミリアン様は弟さんに負けないように努力しているから、剣術の授業で常に1位なんですね。きっと弟さんもそんなマクシミリアン様の姿を尊敬していると思います。私達の弟のエミールも、オーギュ兄様みたいに強くなって私を護ってくれるそうですよ?」
チラリとオーギュストに視線を向けて微笑むと、オーギュストは一瞬瞠目してから照れ臭そうに笑った。
「そんな風に言ってくれているのなら益々努力しないとな、そしてエミールと一緒にアレクを護るよ」
「まぁ、ありがとうオーギュ兄様! オーギュ兄様がそうやって自然に努力する姿を見せるからこそ尊敬されるのよ。きっとマクシミリアン様の弟さんも同じではないでしょうか? もし弟の方が才能があるからと言って努力する事をやめてしまっていたら今のマクシミリアン様はなかったと思います。続ける努力が出来る人には私も尊敬の念を抱きますもの、いつも刺繍を途中で投げ出したくなってしまいますから、うふふふ」
実際アレクシアの刺繍の腕は上位貴族の令嬢としては普通だが、決して好きでは無い。
スケジュールとして決められているから渋々こなしているだけなので、止めて良いと言われたらとっくに投げ出していただろう。
「あ……」「お食事中失礼致します。アレク、午後から馬術だから早く寮に戻って着替えて来ないと、間に合わなくなるわよ?」
マクシミリアンが何か言おうとした時、レティシアがアレクシアを呼びに来た。
「あ、そういえばそうだったわね。呼びに来てくれてありがとう、レティ。それではマクシミリアン様、お兄様、申し訳ありませんがこれで失礼しますね」
そう言ってレティシアとアレクシアは食器を片付ける為に食堂へ向かった。
残されたのはガックリと項垂れるマクシミリアンと、それを呆れた目で見るオーギュストだった。
「で? 何を言おうとしてたんだ?」
「できるなら……マックスと呼んで貰おうと思って……、あと、お前と話す時と同じ話し方で話して欲しくて……。ケーキのお礼も言い損ねたし、それとこの平民用の味付けだと多めに食べられそうだから、教えてくれたお礼も言いたかった……、はぁぁ……」
(何より弟と比べたり下手な慰めの言葉を口にせず、俺の努力する姿勢を褒めてくれたお礼を言いたかったな)
大きなため息を吐いてモソモソと食事を続けるマクシミリアン。アレクシアが居る間は緊張で食が進まずまだ半分程残っている。
一方で容姿以外は隙が無いと思っていた親友が次々に見せる新たな面に、苦笑いしながらオーギュストは最後のひと口を口に入れた。
「もぐもぐ……ごくん。私の予想ではそれらを言い終えるのに1週間は掛かるとみた。普段人と関わらないようにしているツケが回って来たと思う事だね」
オーギュストは恨めしげな親友の視線を受け止めながら笑って肩を竦めた。
2
お気に入りに追加
627
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される
葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。
彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。
ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。
父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。
あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。
この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。
さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。
そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。
愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。
※小説家になろうにも掲載しています
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる