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27.女神との邂逅  side マクシミリアン

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 俺はマクシミリアン・ド・リオンヌ、リオンヌ伯爵家の嫡男だ。
 我が家は代々騎士として身を立てきた家系で、遡れば平民だったご先祖様が騎士爵を頂いた事に始まり、戦争が起こる度に武功を立てて曽祖父の代で伯爵にまでなった。


 そんな家系なせいか、残念ながら筋肉ばかりついてふくよかな身体とは縁遠く、見た目も悪いせいで嫁いで来るのは言い方は悪いが行き遅れて嫁ぎ先に困った令嬢が渋々嫁いで来るパターンが殆どだったらしい。


 行き遅れるという事はやはり容姿に自信が無い者が多く、そんな夫婦の間に生まれる子供も親に似た容姿で……。
 そういう事が繰り返されてリオンヌ伯爵家は剣の実力は申し分無いが、見た目に難ありというのが世間の常識となっている。


 事実俺の父親は全騎士団で最も強いと言われているが、普通ならば騎士団長をしているのが当たり前だが、実際は第5騎士団の副団長だ。
 これは騎士団長になってしまうといざという時に先頭切って動けなくなってしまうからという建て前があるが、本当は各騎士団の団長が集まる会議や代表として人前に出る時に、ある程度の見た目も必要だからというのは皆知っている。


 残念ながら俺も例に漏れずギョロリとした大きな目にバサバサした長いまつ毛、身長は高いくせに脂肪が殆ど付かずヒョロリと細長く手足も長いせいで、まるで身体も細い蜘蛛のような印象を受けてしまう。
 しかも瞳の色こそ薄くは無いが、体毛が銀髪で日焼けした肌とのコントラストで余計に髪が薄い色という印象を与えてしまうという有り様だ。


 なので幼い頃から唯一の取り柄である剣術だけは誰にも負けないようにと、父親に鍛えてもらっている。
 そのお陰で学園では誰にも負けないという自信があるが、容姿のせいで「剣術しか能がない醜男」と言われしまい中々周りから認めては貰えない。


 王宮での王子の側近候補を選別する為のお茶会でも、1度参加しただけで招待状が来なくなったしな。
 そんな俺にも学園で友人が出来た、俺ほど酷くは無いが残念な見た目の侯爵家の次男。


 友人のオーギュストは不思議な奴だった、醜い容姿を貶されてもケロリとしてまるで気にしていなかった。
 剣の腕も中々で打ち合いの時に組まされる事も多くて話すようになってから、「どうしてそんなに周りを気にせずにいられるのか」と聞いた事がある。


 容姿に自信が無い者は大抵卑屈になって自信が持てない、剣術の腕という心の支えがあっても悪意ある言葉に消えてしまいたくなるのは俺とて例外では無いのだ。
 オーギュストは頭が良くて剣術の腕も良いが見目麗しい兄上が居るせいで比べられいて、俺よりも悪し様に言われている。


 なのにオーギュストはあっけらかんと笑って答えた。
 「妹にね……言われたんだ。人より秀でたものがあれば周りが何と言おうと、それは自分より優秀な者を妬む負け犬の遠吠えだから気にしなくて良いってね。実際実力を持ってる人……ウィル兄様やセザールはちゃんと認めてくれてる訳だし」と。


 そんな事を言ってくれる妹が居るなんて羨ましいと素直に口にしたらオーギュストが壊れた。
 壊れたと言うと語弊があるかもしれないが、妹自慢が止まらなくなったのだ。


 曰く、女神の様な美しさで大人になったら女神像よりも美しくなるに違いない、とか。
 曰く、容姿が美しいだけじゃ無く、誰にでも分け隔て無く優しく、決して容姿で差別なんてしない、とか。
 曰く、厳しい家庭教師がべた褒めする程賢く、王族と言われても誰もが信じてしまう程に優雅で気品がある、とか。


 曰く、心根が真っ直ぐで歳上の令嬢に虐められていた同い年の令嬢を助ける勇気もある、とか。
 曰く、王族にも怯まず間違った事はきちんと窘める事も出来る芯の強さも持っている、とか。
 曰く、そんな完璧な淑女に育っているのに驕ること無く己を律する事が出来る、とか。


 今まで出会った全ての女性に顔を顰められて来た俺に言わせれば、そんな女性は存在しない。
 どうせ兄の欲目で大袈裟に言っているのだろうと思った、本当にそんな令嬢が居るのならそれは聖女か女神の化身に違いない。


 そして入寮式を翌日に控えたあの日、俺はオーギュストの言葉が紛れも無い真実だったと知る事になった。
 オーギュストの声に振り向くとそこには教会の至る所に掛けられている女神の絵画や女神像の隣に立てばきっと女神の化身だと思うであろう美少女が居たのだ。
 そして鈴が転がる様な愛らしい声と、優雅で美しいカーテシーで挨拶をしてくれた。


「は、初めまして、オーギュストの妹アレクシア・ド・ラビュタンでございます。仲良くして頂けると嬉しく思います」


 人見知りなのか兄の友人に会って緊張しているのか、ほんのり染まった頬を手で押さえながら上目遣いで俺の顔を見た。
 嫌悪の感情が一欠片も無く、見た事も無い美しい顔で愛らしい表情を俺に向ける存在が居るなんて思いもしなかった。


 心臓がバクバクと早鐘のようにうるさく、全身の血が沸騰したような感覚に襲われてその後の事はあまり覚えていない。
 きちんと挨拶を出来ていただろうか、真っ黒で濡れたような美しい瞳を真っ直ぐ見れなくて逸らしてしまった気がする。


 我に返ったのは自室に戻ってからだった、実家からついて来てくれた老齢の執事に顔が赤いから熱があるのではと心配されて己の状態に気付いた。


 夜にオーギュストから入学式に一緒に行くかと聞かれたが、きっと心臓がもたないと丁重にお断りさせて貰った。
 俺の容姿がセザール様のようであれば間違いなく頷いたのに!!


 入学式の当日に寮の前で華やかな気配を感じて振り向いたらアレクシア嬢が居た。花が綻ぶ様な美しい笑顔を向けてくれたが、俺のような醜男が頬を染める姿なんて視界に入れさせてはいけないと思い、会釈だけして逃げてしまった。


 暫くは遠目から姿を見る事に慣れよう、そしていつか兄の友人という事で言葉を交わせるようになれたら良いな、などと身の程知らずな事を悶々と考えてしまい、その日は寝不足になってしまった。
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