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20.王宮でのお茶会 3

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「いつまで手を握っているのかしら?」


「は……っ、すまないアレクシア嬢」


 半眼になったオデット王女に言われて我に返ったリシャール王子は、慌てて手を離した。


「いえいえ、エミールも時々触りたがるんですよ? こうするとこの部分がぷにぷにして自分でつついても気持ちいいんです。オデット様も触ってみますか?」


 手をお碗の形にすると指の付け根の掌の部分がプクリと盛り上がり、ツンツンと指でつついてみせる。
 オデット王女は差し出した手をジッと見つめた後、誘惑に負けたようにぷにぷにと指で押した。


「これは……! 確かに気持ちいいですわ! 何とも言えない柔らかさと弾力……」


「姉上! いつまでも触っていたらアレクシア嬢が困ってしまいますよ」


 うっとりとアレクシアの手をつついていたオデット王女をリシャールがたしなめた。
 渋々手を引っ込めて自分の掌を同じようにしてつついたが、肉付きが違うせいで求めるレベルにならなかったらしく不満気にしている。


(コレ知った時は人間にも肉球があると思ったもんな、いつまでも触りたい気持ちはわかるわ。瞬間芸のタコ焼きを顎でやってつついても同じくらい気持ちええけど、流石に貴族令嬢としてアウトやから人前では出来んしな……)


「そういえばリシャール様はこれで3度目のお茶会ですが、もう慣れましたか?」


「うむ、姉上もリリアン姉様も居てくれるしな、それに……アレクシア嬢も……」


 最後にポツリとアレクシアの名前を言うと、誤魔化すように紅茶に口をつけた。


従姉妹いとこのリリアンまではわかるけど、私まで姉カテゴリーに入れてくれるらぁ可愛過ぎるやろ! っかぁ~! エミールやったら撫でくりまわしてチュッチュしたるとこやけど、流石に王子相手には出来んし我慢や……)


「まぁ、私の事もオデット様やリリアンと同じく、姉のように思って頂けているのでしたら光栄ですわ」


 にこにこと笑顔を向けると、リシャールは照れたように頬を染めてそっぽ向いた。
 

「あらあら、そんなに仲良くしていてはエミール様が拗ねてしまわれるのではなくて?」


 オデット王女がコロコロ笑いながら言ったが、目が笑っていないように見えて、アレクシアは背中にジワリと嫌な汗をかいた。


(なんか……オデット王女怒っとる? もしかして弟とられたように感じとるとか? あぁ、でもエミールがオデット王女にあからさまに懐いとったら私もヤキモチ焼くよなぁ……)


「大丈夫です、家ではぼくだけの姉様なので。兄様達は弟ではないので甘えるのはぼくだけの『とっけん』なのです。アレク姉様がお出掛けしている時はラビュタン侯爵家の令嬢だけど家ではただのアレクシアだって言ってました」


 無邪気な笑顔でエミールは話しているが、アレクシアの心中は大荒れだった。


(あかーん! 今のはアウトやろ! 確かに出掛けとる時はあんまり構ったれへんからそう言うたけどな? 出掛けとる時は猫被った外面使つことるってバラしたも同然やないか~!)


「エミールったら……、大抵は皆同じよ? オデット様もここでは皆のオデット王女としていらっしゃるけれど、離宮に戻ればリシャール様だけのお姉様ですもの。オデット様が婚約なさるまでオデット様を独り占めできるのは弟であるリシャール様の特権ですわね」


(頼む! リシャール様、頷いて下さい! 王族やから常に人が側におるやろうから甘えるのは難しいかもしれんけど、独り占めして遊んでもらう事はある筈や)


 アレクシアはリシャール王子に向かって、優しい微笑みを意識しながら笑顔を向けた。


「そうだな……、婚約……か」


 ポツリと呟いて考え込むように黙ってしまったが、とりあえず肯定してもらえた事にアレクシアは胸を撫で下ろす。
 オデット王女は婚約と呟いて黙ってしまった弟が、姉である自分が婚約してしまったら独り占めできなくなる事を落ち込んでると思って機嫌が直っていた。


 しかし実際は婚約すれば弟でなくても、アレクシアを独り占めできるという事に気付いたからだった。
 お茶会に参加するようになる前に母であるイヴォンヌ王妃から、招待されているのは側近と婚約者候補だと聞かされている。


「婚約といえばアレクには婚約の申し込みが来ているのではなくて?」


 今まで弟トークのせいで会話に入らなかったリリアンが口を開いた。
 リリアンのひと言で同じテーブル全員の視線がアレクシアに突き刺さる。


「打診はそれなりの数来ているとは聞いているけど」「聞いてませんよ!?」


 アレクシアの言葉を遮ってエミールが立ち上がった。
 先程アレクシアの言葉のせいで婚約者ができてしまったら、今まで通り構ってもらえなくなると思ったのだ。


「エミール、王族であるお二方の前で無作法ですよ。全てお断りしていただくようにお願いしてあるから、言う必要無いと思って言わなかっただけよ」


「あ……、申し訳ありません……」


 エミールは気の抜けた顔で謝ると、おとなしく座り直した。
 その隣ではリシャール王子も同じように気の抜けた顔になっている。


「全て断るって決めているの? どうして?」


 更に問いかけるリリアンに追従して、オデット王女も頷きながら身を乗り出すようにして答えを待つ。
 それだけではなくアレクシア達の近くのテーブルに居る人達は全員聞き耳を立てていた。


「だって、どんな人かわからないまま結婚相手を決めたくないもの。だから学園で恋人が出来なければお父様の選んだ候補の中から決めますって言ってあるの」


 頬を染めながらはにかむアレクシアに周りは見惚れていたが、リシャール王子だけはアレクシアより2年遅れて入学しなければならない事に焦りを覚えていた。


 その後、侍従から他の人達とも話をするように言われたオデット王女とリシャール王子は、名残惜しそうに移動して行った。
 王族が去ったテーブルには聞き耳を立てていた顔見知りの令嬢達が寄って来て、お茶会が終わるまで恋話に花が咲いた。


 エミールも居たが年下で対象外と見做されたのか、令嬢達の本音を間近で聞いてしまったエミールは帰りの馬車で「アレク姉様が姉様じゃなかったらアレク姉様と結婚したかった」とこぼしてアレクシアに全力で可愛がられた。
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