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約束だから呑みました
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どうやら隊長ことセドリックは諦めそうにない、ついでにずっと私を睨んでるマルクとやらも。
酒場にまだ子供のアランを連れて行くのは気が引ける。
とりあえずまだ明るいから大丈夫だろうと、アランに大銅貨を五枚渡した。
日本円で五千円くらい。
「これで自分の分の夕食と、もし新鮮な卵があれば十個か二十個買っておいて。 お風呂はお湯を張ったら入れる様にしてあるからね、家に帰ったら出てはいけないよ、わかった?」
顔を覗き込むと心配そうな顔をしていたので、頭を撫でてコッソリ囁いた。
「安心して、私はこの二人よりうんと強いからね。 家の鍵は魔力登録してあるから入れるよ」
そう言うと、やっと安心したように頷いてマルシェへと駆け出した。
それを見届けて二人に振り返る。
「待たせたね、せっかくだから奢ってもらおうか。 昨日この街に来たばかりで不案内なんだ」
「ああ、とびきり美味しい店に連れて行くから楽しみにしててくれ」
そして連れて来られたのは個室のあるちょっとお高めの食堂兼酒場だった。
隊長は慣れた様子で軽食とツマミになる物とエールを三杯注文した。
「最初の乾杯はエールでいいだろう? 後は各自好きな物を注文してくれていいぞ」
「ああ、ありがとう」
「御馳走になります!」
エールはビールよりも甘味があって飲みやすい、食べ物もお店によってお勧めは違うだろうからお任せにした。
とりあえずマルクが睨むのをやめてくれたらいいんだけど…。
すぐにエールが運ばれて来て乾杯し、個室なので早速本題をぶっ込んで来た。
「で、カミーユは何者なんだ?」
「昨日登録したばかりの新人冒険者、今日でFランク」
「あんなにキレイな状態でデス・スパイダーを討伐できるなんて、どうやったんだ?」
「結界魔法で動きを封じて心臓を一撃した」
そう答えるとヒューっと口笛を吹く、貴族なのに品性はどこ行った。
そんな一問一答をしつつエールを飲み続けていたので隊長はトイレへ行く為席を立った。
その隙を狙ったかの様にマルクが口を開いた。
「おい、セドリック隊長に色目を使うなよ」
「は?」
私の今の格好はどこから見ても男に見えると思っていたんだけど…。
「セドリック隊長の恋愛対象は男なんだ、お前の見た目はセドリック隊長の好みなんだよ! 酒の席についてくるなんて、お前だってその気って事だろ!?」
なんて事! 前世の友人が薄い二次創作の本を嬉しそうに読んでいた姿を思い出す。
サッカー少年や女神を守る星座の名前に関する防具を使う戦士や武将の子孫が鎧姿に変身するお話とか。
「それなら問題はないな、あり得ない」
笑いを堪え切れずに肩が震えてしまう。
更にマルクが口を開こうとしたら隊長が戻ってきた。
「すまないが、店で部屋を借りて着替えて来てもいいだろうか? さすがに森から帰ったままだから埃っぽくてね」
「ああ、そういえばギルドから直接連れてきてしまったからな」
「少々失礼するよ」
私は個室を出て女将に空いた客室を借りて着替えて戻った。
その姿を見て二人は固まってしまった。
中堅の商会のお嬢さんが着る様なワンピース姿で個室に戻ったから。
もちろんサラシも外して豊満な胸(誇張)も立体的に見える。
「……! お、お、お、女だったのか!?」
暫く固まってからマルクが動揺しながら口を開いた。
席に戻り肯定の意を込めてにっこり笑う。
「誰も男だとは言ってない、勝手にそっちが勘違いしただけだろ?」
ニヤリと意地悪く笑ってエールのジョッキを掲げる。
セドリック隊長は心なしか肩を落としている、本当に狙われていたらしい、危なかった。
「そういえば隊長さんは貴族だったよね、セドリック様って呼んだ方がいいかな? マルクが煩そうだし」
「いや、セドリックと呼んでくれ。 カミーユが只者じゃない事はわかってるからな、なにせデス・スパイダーを三体も無傷で討伐出来る腕前だしな。 そんな優れた魔術師ならすぐにA級…もしかしたらS級になるだろうからな」
そういやこの国は高ランカー冒険者は陞爵して国が抱え込む事があるものね。
その時は王様だけに事情を話して融通利かせてもらおう。
隊長を呼び捨てにしたらマルクが黙っていないと思うんだけど…、そう思ってマルクを見やると、目が合ったとたん真っ赤になった。
え? まさか男だとセドリックに狙われ、女だとマルクに狙われるパターンとか言わないよね?
というか、男装した私がセドリックに狙われてたなら、アランが成長したら危ないって事じゃなかろうか。
考えると頭が痛い…。
とりあえず私とセドリックは友人という関係になった、話してると面白い男だったからという事も理由の一つだ。
酔った勢いで私が男だと思って口説こうとしたとペロッと白状してたし。
私がセドリックの性癖を知っても引かなかった事も大きいらしい。
騎士団の中では珍しくなくても同性婚が認められていない程度には偏見もあるとか。
「力を借りたい時は指名依頼をしてもいいか?」
さっきまで気の抜けた酔っ払いだったのに、不意に真剣な眼差しで聞かれた。
「まぁね、友人になった訳だし、力を貸すことは吝かではないよ。 さて、そろそろ帰ろうかな、女の一人歩きが危険な時間帯になる前に」
立ち上がって窓の外を見ると空には一番星が輝いていた、あまり遅くなるとアランも心配するだろうし。
「もしカミーユを襲おうとした奴がいたら…、そいつは余程運が悪い奴だな。 ハハハ!」
酔っ払いらしい赤い顔をしてセドリックが笑う。
「確かに、それは間違いない。 ご馳走様、またね」
ニヤリと笑い返して個室を出た。
ドアの向こうから「お気をつけて!」と先程まで借りてきた猫の様になっていたマルクの声が聞こえた。
あちこちの家から夕食の香りが漂ってくる中アランが待つ家へと向かう、家の中に灯りが見えてなんだか擽ったい気持ちになる。
「ただいま」
玄関を開けて言うと、リビングのドアが開いてアランが出迎えてくれた。
「おかえり! 良かった、こんなに広い家に一人じゃ落ち着かなくて…。 あれ? そういえばいつの間に着替えたの?」
私の姿を確認してホッとした後、ワンピースを着ている事に気付いた様だ。
「ふふ、この家に来てまだ二日目だから落ち着かないか。 着替えてるのはね…」
アランの背中に手を添えてリビングに促し、セドリックの性癖の事をバラした。
周知の事実の様だったし、アランの身を守る為でもある。
一応ヘタに言いふらさない方がいいと注意だけしておいた。
アランからは卵を十個買った事と、今日の夕食を買った店が美味しかったと報告があり、お釣りを返してくれた。
それを受け取り、今度は私がアランに小さな革袋に入れた銀貨五枚と大銅貨三枚を渡す。
「え!? 何で!?」
アランは渡された金額に驚いて声を上げた。
「今日はデス・スパイダー討伐したでしょ? あと薬草採取の報酬だよ、三つに分けて一つ分ずつ私とアランの取り分で、残り一つ分はこの家とアラン装備の返金って事でいいかな?」
本当は半分ずつでもいいがこうした方がアランも気兼ねなく住めるし、装備のメンテナンスや交換もできるだろうと考えた。
「あれはカミーユのおかげなのに…」
それでもやはり楽をしたと自覚しているのか、遠慮している。
「そうねぇ…、例えば二人で出掛けた時に兎をアランが一人で捕まえたとするでしょ、そうしたらアランは一人で捕まえたからってその兎を独り占めして食べちゃう?」
そう問いかけるとプルプルと首を左右に振る。
「でしょ? それと同じだよ、それがパーティってやつだね」
クシャクシャと頭を撫でると手の中の硬貨を見つめて口元を綻ばせる。
「これが…報酬…」
言ってみれば初任給を貰った様なものだから嬉しいのだろう、何度か硬貨の数を数えてはニヨニヨ笑っていた。
「将来アランが結婚か引退する時の為にちゃんと貯めておくんだよ。 お風呂に入ってくるね、今日は疲れただろうから早く寝た方がいいよ」
「うん…、わかった。 おやすみなさい」
「おやすみ」
リビングにアランを残してお風呂へ向かう。
浄化の魔法でキレイにすればお風呂に入らなくてもいいけど、やっぱりお風呂に浸からないと一日が終わった気がしないと考えるのは元日本人だからかな?
湯船に浸かるって幸せ~!
お風呂に入りながら一日で色々あったなぁと反芻する。
あ、シャルルはどうなったのか確認したかったな、明日もギルドへ行って確認してみよう。
お湯に浸かってホコホコに温かい身体の内にベッドに入る。
明日の朝ごはんはチーズオムレツにでもしようかな、そんな事を考えながら眠りに落ちた。
酒場にまだ子供のアランを連れて行くのは気が引ける。
とりあえずまだ明るいから大丈夫だろうと、アランに大銅貨を五枚渡した。
日本円で五千円くらい。
「これで自分の分の夕食と、もし新鮮な卵があれば十個か二十個買っておいて。 お風呂はお湯を張ったら入れる様にしてあるからね、家に帰ったら出てはいけないよ、わかった?」
顔を覗き込むと心配そうな顔をしていたので、頭を撫でてコッソリ囁いた。
「安心して、私はこの二人よりうんと強いからね。 家の鍵は魔力登録してあるから入れるよ」
そう言うと、やっと安心したように頷いてマルシェへと駆け出した。
それを見届けて二人に振り返る。
「待たせたね、せっかくだから奢ってもらおうか。 昨日この街に来たばかりで不案内なんだ」
「ああ、とびきり美味しい店に連れて行くから楽しみにしててくれ」
そして連れて来られたのは個室のあるちょっとお高めの食堂兼酒場だった。
隊長は慣れた様子で軽食とツマミになる物とエールを三杯注文した。
「最初の乾杯はエールでいいだろう? 後は各自好きな物を注文してくれていいぞ」
「ああ、ありがとう」
「御馳走になります!」
エールはビールよりも甘味があって飲みやすい、食べ物もお店によってお勧めは違うだろうからお任せにした。
とりあえずマルクが睨むのをやめてくれたらいいんだけど…。
すぐにエールが運ばれて来て乾杯し、個室なので早速本題をぶっ込んで来た。
「で、カミーユは何者なんだ?」
「昨日登録したばかりの新人冒険者、今日でFランク」
「あんなにキレイな状態でデス・スパイダーを討伐できるなんて、どうやったんだ?」
「結界魔法で動きを封じて心臓を一撃した」
そう答えるとヒューっと口笛を吹く、貴族なのに品性はどこ行った。
そんな一問一答をしつつエールを飲み続けていたので隊長はトイレへ行く為席を立った。
その隙を狙ったかの様にマルクが口を開いた。
「おい、セドリック隊長に色目を使うなよ」
「は?」
私の今の格好はどこから見ても男に見えると思っていたんだけど…。
「セドリック隊長の恋愛対象は男なんだ、お前の見た目はセドリック隊長の好みなんだよ! 酒の席についてくるなんて、お前だってその気って事だろ!?」
なんて事! 前世の友人が薄い二次創作の本を嬉しそうに読んでいた姿を思い出す。
サッカー少年や女神を守る星座の名前に関する防具を使う戦士や武将の子孫が鎧姿に変身するお話とか。
「それなら問題はないな、あり得ない」
笑いを堪え切れずに肩が震えてしまう。
更にマルクが口を開こうとしたら隊長が戻ってきた。
「すまないが、店で部屋を借りて着替えて来てもいいだろうか? さすがに森から帰ったままだから埃っぽくてね」
「ああ、そういえばギルドから直接連れてきてしまったからな」
「少々失礼するよ」
私は個室を出て女将に空いた客室を借りて着替えて戻った。
その姿を見て二人は固まってしまった。
中堅の商会のお嬢さんが着る様なワンピース姿で個室に戻ったから。
もちろんサラシも外して豊満な胸(誇張)も立体的に見える。
「……! お、お、お、女だったのか!?」
暫く固まってからマルクが動揺しながら口を開いた。
席に戻り肯定の意を込めてにっこり笑う。
「誰も男だとは言ってない、勝手にそっちが勘違いしただけだろ?」
ニヤリと意地悪く笑ってエールのジョッキを掲げる。
セドリック隊長は心なしか肩を落としている、本当に狙われていたらしい、危なかった。
「そういえば隊長さんは貴族だったよね、セドリック様って呼んだ方がいいかな? マルクが煩そうだし」
「いや、セドリックと呼んでくれ。 カミーユが只者じゃない事はわかってるからな、なにせデス・スパイダーを三体も無傷で討伐出来る腕前だしな。 そんな優れた魔術師ならすぐにA級…もしかしたらS級になるだろうからな」
そういやこの国は高ランカー冒険者は陞爵して国が抱え込む事があるものね。
その時は王様だけに事情を話して融通利かせてもらおう。
隊長を呼び捨てにしたらマルクが黙っていないと思うんだけど…、そう思ってマルクを見やると、目が合ったとたん真っ赤になった。
え? まさか男だとセドリックに狙われ、女だとマルクに狙われるパターンとか言わないよね?
というか、男装した私がセドリックに狙われてたなら、アランが成長したら危ないって事じゃなかろうか。
考えると頭が痛い…。
とりあえず私とセドリックは友人という関係になった、話してると面白い男だったからという事も理由の一つだ。
酔った勢いで私が男だと思って口説こうとしたとペロッと白状してたし。
私がセドリックの性癖を知っても引かなかった事も大きいらしい。
騎士団の中では珍しくなくても同性婚が認められていない程度には偏見もあるとか。
「力を借りたい時は指名依頼をしてもいいか?」
さっきまで気の抜けた酔っ払いだったのに、不意に真剣な眼差しで聞かれた。
「まぁね、友人になった訳だし、力を貸すことは吝かではないよ。 さて、そろそろ帰ろうかな、女の一人歩きが危険な時間帯になる前に」
立ち上がって窓の外を見ると空には一番星が輝いていた、あまり遅くなるとアランも心配するだろうし。
「もしカミーユを襲おうとした奴がいたら…、そいつは余程運が悪い奴だな。 ハハハ!」
酔っ払いらしい赤い顔をしてセドリックが笑う。
「確かに、それは間違いない。 ご馳走様、またね」
ニヤリと笑い返して個室を出た。
ドアの向こうから「お気をつけて!」と先程まで借りてきた猫の様になっていたマルクの声が聞こえた。
あちこちの家から夕食の香りが漂ってくる中アランが待つ家へと向かう、家の中に灯りが見えてなんだか擽ったい気持ちになる。
「ただいま」
玄関を開けて言うと、リビングのドアが開いてアランが出迎えてくれた。
「おかえり! 良かった、こんなに広い家に一人じゃ落ち着かなくて…。 あれ? そういえばいつの間に着替えたの?」
私の姿を確認してホッとした後、ワンピースを着ている事に気付いた様だ。
「ふふ、この家に来てまだ二日目だから落ち着かないか。 着替えてるのはね…」
アランの背中に手を添えてリビングに促し、セドリックの性癖の事をバラした。
周知の事実の様だったし、アランの身を守る為でもある。
一応ヘタに言いふらさない方がいいと注意だけしておいた。
アランからは卵を十個買った事と、今日の夕食を買った店が美味しかったと報告があり、お釣りを返してくれた。
それを受け取り、今度は私がアランに小さな革袋に入れた銀貨五枚と大銅貨三枚を渡す。
「え!? 何で!?」
アランは渡された金額に驚いて声を上げた。
「今日はデス・スパイダー討伐したでしょ? あと薬草採取の報酬だよ、三つに分けて一つ分ずつ私とアランの取り分で、残り一つ分はこの家とアラン装備の返金って事でいいかな?」
本当は半分ずつでもいいがこうした方がアランも気兼ねなく住めるし、装備のメンテナンスや交換もできるだろうと考えた。
「あれはカミーユのおかげなのに…」
それでもやはり楽をしたと自覚しているのか、遠慮している。
「そうねぇ…、例えば二人で出掛けた時に兎をアランが一人で捕まえたとするでしょ、そうしたらアランは一人で捕まえたからってその兎を独り占めして食べちゃう?」
そう問いかけるとプルプルと首を左右に振る。
「でしょ? それと同じだよ、それがパーティってやつだね」
クシャクシャと頭を撫でると手の中の硬貨を見つめて口元を綻ばせる。
「これが…報酬…」
言ってみれば初任給を貰った様なものだから嬉しいのだろう、何度か硬貨の数を数えてはニヨニヨ笑っていた。
「将来アランが結婚か引退する時の為にちゃんと貯めておくんだよ。 お風呂に入ってくるね、今日は疲れただろうから早く寝た方がいいよ」
「うん…、わかった。 おやすみなさい」
「おやすみ」
リビングにアランを残してお風呂へ向かう。
浄化の魔法でキレイにすればお風呂に入らなくてもいいけど、やっぱりお風呂に浸からないと一日が終わった気がしないと考えるのは元日本人だからかな?
湯船に浸かるって幸せ~!
お風呂に入りながら一日で色々あったなぁと反芻する。
あ、シャルルはどうなったのか確認したかったな、明日もギルドへ行って確認してみよう。
お湯に浸かってホコホコに温かい身体の内にベッドに入る。
明日の朝ごはんはチーズオムレツにでもしようかな、そんな事を考えながら眠りに落ちた。
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