上 下
56 / 59

56.成長過程

しおりを挟む
 年が明けて一月が過ぎた、この世界には当然節分もバレンタインも無い。
 前世では甥や歴代彼氏(歴代って言う程多くないけど)を楽しませる為に市販のチョコを使った工作をしてバレンタイン作品を作り上げていたのはいい思い出だ。


 甥っ子は特に板チョコと枝を模したチョコで牢屋を作り、その中にキャラクター型のチョコを溶かしたチョコで立たせた物をとても気に入ってくれていた。
 正義の味方の形をしたチョコだったけど、作品タイトルが「囚人プリズナー」。
 タイトルには不思議顔されたけど、作品自体は気に入って破壊しながら食べてくれてた。


 作るのに結構時間掛けたけど一瞬でな。


 よくラノベで異世界でバレンタインを教えて再現、なんてネタがあったけど、俺はそんな事はしない。
 決して今が男だからとかじゃなくて、そんな暇あるならルードルフの顔を見に行くからだ。


 カール兄様も俺程じゃないけど良く顔を出すらしい。
 ただ、抱っこすると泣かれるので眠ってる時に頬を触ったり眺めているだけらしいが。


 ルードルフは俺の紅い髪が見やすいのか、よく目で追いかけたり手を伸ばそうとしてくる。
 寝返りも自分で元の仰向けに戻れる様になり、うつ伏せから戻れなくて泣いてるなんて事も無くなった。
 会う度に成長を見せてくれる。


 成長を見せてくれるといえば、アルフレートが大浴場の方にも入りに来る様になった。
 勿論それは確認しました、やっぱり生えてたので納得。
 幸いというべきか、ライナーは武器のサイズ変更の為に時間をとられてまだ大浴場には来ていないのでアルフレートが安心するように話をしておく事にした。
 とりあえず本人にはヨシュア先輩から聞かされたお子様卒業の事には触れず声を掛ける。


「アル、俺に毛が生えてないからって気を使ってくれたんだろうけど、俺の方が年下なんだから僻んだり羨んだりしないから大丈夫だぞ? 冬にシャワーだと寒かっただろう」


 と言っておいた。
 何か言いたそうな呆れた様な眼差しを向けてきたが、肩を落としてポツリと一言だけ返事した。


「……そうだな」


 ちょっと気になってるのは、先にアルフレートが身体を洗ってる時は俺が隣に行く事はあっても、俺が先に居る時は同じ並びに座る事がなくなった。
 まだちょっと恥ずかしいのかもしれない。


 浴槽に浸かりポツリポツリ話をした。
 その中に今年の新入団員の話が出た、どうやら見習い合格者は全員学校に入る歳以上らしい。


「俺…、春から一年は一人ぼっちなのか…」


 ガクリと肩を肩を落として落ち込むとアルフレートがフォローしてくれた。


「その代わりクラウスだけに合わせた訓練をしてもらえるだろうから、早く腕も上がるかもしれないじゃないか! それに食事なんかは朝食と夕食は一緒に食べようと思えばいつでも食べられるし!」


「うん…、そうだけど昼はアルバン訓練官と食べるんだろうな…。 別に嫌じゃないけど、二人が居ないと寂しいよ」


 まだ二ヶ月程先の事だがボッチ訓練やボッチ飯の事を考えるとため息が漏れる。


「逆に変な奴が入ってくるより、一人の方がまだ安心できるってものだろう。 俺やライナーが居ないならお前を守れないからな」


 アルフレートが優しい微笑みを向けてくれたが、俺的にはちょっと納得できていない。


「守るって…、俺だってアル達と同じ様に鍛えてるんだからな? むしろ俺が街の人を守る立場なんだけど!」


 口を尖らせブーブーと不服を申し立てる。
 その唇を口が開かない様に摘まれた。


「!? んむー! んむむむむ!(アルー! 何すんだ!)」


 アルフレートの手首を掴んで引き剥がそうとしながら抗議の声を上げるが言葉も出ないし唇も摘まれたままだ。
 少し呆れた目で俺を見ながら口を開く。


「何が守る立場だ、一歳しか違わない俺の手も外せないくせに。 もし今年、十一歳以下の見習いが居て、それが獣人だったらどうするんだ? 身体は十歳で成人と同じ大きさに育ってるんだぞ? そいつがヨシュア先輩みたいに絡んで来たらクラウスじゃ逃げられないだろう」


 正論を言われて手首を掴んでいた手から力を抜いてアルフレートの目を見る。
 本気で心配してくれてる顔をしていたので表情で反省の意を表すと伝わったらしく、唇から指を離してくれた。


「心配してくれてありがとう、アル」


「わかれば良いんだ、まぁ今回この件で一番安心しているのはカール様だろうがな」


 普段のカール兄様の俺への溺愛ぶりを知っているアルフレートはクスッと笑いを零した。


 その時脱衣所の方から何人かの気配がした、学校組が帰って来たのだろう。


「俺はもう出るよ、アルは?」


「俺はもう少し温まってからにする、人が増えてきたら出るさ」


「分かった、じゃあお先に~」


 絞ったタオルで軽く水気を拭き取り、もう一度洗って絞ったタオルを腰に巻いて浴室を出ると、ヨシュア先輩とサミュエル先輩が居た。


「なんだよ~、折角急いだのにもうクラウス出ちまったのか~! もう一回入らねぇ?」


「入りませんよ、これ以上入ってたらのぼせるじゃないですか」


 ツーンとそっぽ向いてタオルで身体を拭く、横には服を脱いでいるサミュエル先輩。


「あ、サミュエル先輩おかえりなさい」


 脱衣所で言うのも変な感じがしたが、部屋に戻ってから改めて言うのもおかしいだろう。


「ただいま、ヨシュアは相手しなくていいからな」


「ふふ、わかりました」


 優しく笑いながらもヨシュア先輩に対して辛辣なサミュエル先輩に思わず笑ってしまう。
 当のヨシュア先輩は浴室に居たアルフレートに絡んでいるらしい事がドア越しにもわかった。
 まぁ、サミュエル先輩も入って行くしすぐに出て逃げる事も可能だろうと思い、着替えるとそのまま部屋に戻った。


 その日からアルフレートはヨシュア先輩とサミュエル先輩まで心なしか避けてる様に見えた。






※ 次回はアルフレート視点です。
 書いてて楽しかったので過去最大の文字数となってしまいました…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いいえ、違います商人です

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
投稿期間中、HOTランキングに載り多くの方の目に触れる機会があったこの作品も無事に11/11に完結に至りました。 多くのポイント、並びに感想ありがとうございます。 全ての美と愛くるしさを散りばめられた奇跡の美貌。 そこにほんの少しの負けん気を添えて、前世知識で成り上がりを図ろうと画策したトールの計画は早くも瓦解した。 平民生まれのトールの容姿は貴族とは似ても似つかない。 しかし隠れて魔法を使っていた弊害で貴族と遜色のない髪色と瞳の色を手に入れてしまい、冒険者に身をやつしていてもなお、実際はお家を取り潰された元貴族だろうと噂される程になっていた。 男装してりゃ平気だろぐらいに考えてたトールは、その容姿のおかげですでに外堀が天高く積み上げられてることを知らず、貴族の手配した式場にまんまと誘き出された。 そして続くプロポーズ。 事ここに至って自分が罠に嵌められていたと知ったトールは、築いた地位を捨てて世界の裏側に逃走を図るのだった。 果たしてトールは貴族の魔の手から無事に逃げ切り、幸せな生活を送ることはできるのか? これは貴族にしか扱えない魔法を、神様チートで運悪く授かってしまった元少年が送る異世界スロー(ター)ライフ。 「え、元冒険者のトールじゃないかって? 違いますって、僕は商人なので。へへへ、お薬お安くしときますよ?」 世界の反対側で、トールは商人として再出発することを決める。 もう目立つ真似はやめよう、質素に生きよう。 そう考えるトールだったが、彼女の美貌を知って黙っている貴族が居る筈もなかった。

【全10話完結】千年生きた魔女、久々の娑婆を満喫する

酒本 アズサ
ファンタジー
  《完結しました!》  千年以上生きた魔女カミーユ。    実は前世は日本人女性である。  若い時はそれなりに恋愛を楽しみ、適齢期で結婚をして子供達を産み育てて孫の顔も見た。  神社へ参拝しに行ったところまでは覚えているが、心筋梗塞か階段から落ちたのか、気がつくと小さな村の少女カミーユとして前世を思い出したのは十七歳の時。  同時に理解してしまった己の能力と状況、そして神様から指名された審判という役割。  覚醒と言えるその時に溢れ出した魔力により、村人も両親も、そして先程まで恋人だった人もカミーユを恐れた。  それからカミーユは村から離れた森に結界を張り住み着いた、家族や村に永遠の別れを告げて千年以上経つ、その森はいつしか「迷いの森」または「聖者の森」そして「魔女の森」と名前を変え、現在は「審判の森」と呼ばれている。  身内の子孫を見つけたのを切っ掛けにほぼ引き篭りの生活をやめて久々に娑婆に繰り出そうと動き出した魔女のお話。 ☆短編のつもりが長くなってしまい、結局書きたかった内容が8話でやっと書けたという作品です、オチは最終話だけどクライマックスは8話w ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 小説家になろう様にも投稿してます。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~

白梅 白雪
ファンタジー
乙女ゲームにハマっていた結城マナは見知らぬ者に襲われ、弟ソウシと共に異世界へ転生した。 目覚めれば見覚えがあるその姿──それは課金に課金を重ねて仕上げた、完璧な美しき公爵令嬢マナリエル・ユーキラスであった。 転生した異世界は、精霊や魔法が存在するファンタジーな世界──だけならまだよかったのだが、実はこの世界、弟のソウシが中学生の頃に妄想で作り上げた世界そのものだという。 『絶世の美女』『自動課金』というスキルを持つマナリエルと、『創造主』というスキルを持つソウシ。 悪女ルートを回避しようとするも、婚約破棄する気配を一切見せない隣国の王太子。 苛めるつもりなんてないのに、何かと突っかかってくるヒロイン。 悠々自適に暮らしたいのに、私を守るために生まれたという双子の暗殺者。 乙女ゲームかと思えば聖獣に呼ばれ、命を狙われ、目の前には救いを求める少年。 なに、平穏な生活は?ないの?無理なの? じゃぁこっちも好きにするからね? 絶世の美女というスキルを持ち、聖獣王に選ばれ、魔力も剣術も口の悪さも最強クラスのマナリエルが、周囲を巻き込み、巻き込まれ、愛し、愛され、豪快に生きていく物語。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

チートなんて簡単にあげないんだから~結局チートな突貫令嬢~

まきノ助
ファンタジー
事故で転生する事になったが、若い女神は特別扱いしてくれないらしい。 「可愛い女神様、せめて友達になってください」 なんとかそれだけは約束してもらったが……。 ゆるふわ女子高生が異世界転生して、女神に求めたのはチートではなくお友達認定でしたが、何故かチート能力を増やして無双してしまう。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...