【全59話完結】転生騎士見習いの生活

酒本 アズサ

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55.暴露

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 食事が終わって部屋へ戻ろうとしたらヨシュア先輩が話かけて来た。


「なぁなぁ、クラウス。 お前何時くらいに風呂に入る?」


 何でそんな事聞くんだ? 嫌な予感しかしない。


「えーと…、一時間くらいしてからですかね…?」


「そうか、わかった」


 そう言うと尻尾を振り振り自分の部屋へと戻って行った。


「何なんだアイツは…、いいのか? 風呂の時間教えたらヨシュアの奴きっと来るぞ」


 隣で不機嫌そうにサミュエル先輩が唸る様に言いながら部屋へと入る。


「そうですね、そういう訳で…」


 テキパキとお風呂の準備を始める。
 一時間後と言っておけばそれまではヨシュア先輩は入って来ないって事だ。
 その事に気付いたのかサミュエル先輩が喉を鳴らす様にクックと笑う。


「なるほどな、考えたな。 じゃあ俺も入るか」


 サミュエル先輩の準備が終わるのを待って一緒に大浴場へと向かった。
 今日の先客は三人か、食後すぐだから入る人も少ない様だ。


 服を脱いで腰にタオルを巻いて浴室のドアを開けて一瞬固まった。
 何故居る?


「やっぱりな~、素直に答えたから怪しいと思ったんだよ」


 そこにはニヤニヤしたヨシュア先輩が居た。
 背後に居たサミュエル先輩を振り返ると無表情で指でヨシュア先輩の居ない並びの洗い場を指す。
 コクリと頷いて誰も使ってない洗い場で頭と身体を洗う。


「え? 酷くないか? 俺がココに居るのにそんな離れた場所に行くなんて」


「そこに居るからこっちにしたんだ」


 不貞腐れる様に言うヨシュア先輩に対してツーンと目も合わせずに答えるサミュエル先輩、見事な塩対応だ。


「あーあ、親友に対してその言葉は酷いと思うなぁ」


 そう言いながら俺たちの真後ろにコチラを向いて浴槽に浸かる。


「なぁ? この騎士団で唯一のお子様クラウスですらそう思うだろう?」


 ニヤニヤと鏡越しに俺の顔を見ながら浴槽の縁に肘をついて様子を見ている。
 ははーん、コレが言いたくて食堂から俺をチラチラ見てたんだな。
 コレは肩すかしを喰らわせてやるしかないな。


 何気に浴槽に入っている騎士二人がこちらの会話に聞き耳を立ててるし。
 ヨシュア先輩には悔しい思いをしてもらおうか。


「へぇ、そういえば女の子は初潮が来たらお祝いしてますけど、男の子って聞いた事ないですよね? 何かお祝いする物なんですか? ヨシュア先輩なら知ってますよね?」


 鏡越しにいい笑顔で言ってやった。
 ショックを受けると思っていたんだろうが、予想と違うリアクションだったせいか目を見開いて固まっている。
 騎士の二人もニヨニヨしながらヨシュア先輩の事を見ていた。


 何気に驚いた顔のサミュエル先輩も視界に入っている、サミュエル先輩も俺がショックを受けると思ってたんだろうか。
 それとも初潮なんて言葉をサラッと口にしたからかな?


 泡を全部流して浴槽に浸かる、ヨシュア先輩も再起動したみたいに動き出して浴槽に浸かった。


「もしかして俺が驚くとでも思ったんですか? ライナーだって毛が生えてきてるんですから予測できますよ、俺の方が年下なんですから最後の一人になって当たり前じゃないですか~」


「チッ、つまんねーの」


 いい笑顔で受け流されて不満を隠そうともしないヨシュア先輩、ふはははは、ざまぁみろ!


「で、お祝いってするんですか?」


 不貞腐れてるヨシュア先輩は答えそうになかったのでサミュエル先輩に話を振ってみた。
 一瞬目を瞠って驚いた顔をみせたが、言い辛そうにしながら説明してくれる。


「あ~…、お祝いってのとはちょっと違うと思うが…。 人によっては閨指南を親が受けさせたり、先輩とかに娼館に連れて行かれたりはする事があるかな…」


「へぇ…、そうなんですか。 じゃあ二人に爪やすりでもプレゼントすべきかな?」


 ポツリと呟くとその場に居た全員が反応した。
 

「何で爪やすりをプレゼントするんだ?」


 ゴクリ、と怖い事を聞くかの様に緊張した面持ちでサミュエル先輩が問う。


「え? そんなの伸びてたり切ったばかりの尖った爪のまま女性に触れたら引っ掻いて痛い思いさせてしまうかもしれないじゃないですか」


 浴槽に浸かってる騎士達が目からウロコと言わんばかりの顔をしている。
 娼婦だったら客にそんな文句は言えないだろうし、恋人も人によっては嫌われたくなくて言えないパターンもあるから一般的な知識じゃないのかもしれない。


「女性は出産に耐えられるくらい痛みに強いですが、繊細でもあるので痛い思いしたら嫌いになったりすると思うんですよね」


「何と言うか…、お前、思ったより大人なんだな」


 呆けた様にヨシュア先輩がポツリと言った。


「ふふん、俺だっていつまでも小さい子じゃないんですよ。 将来的には清濁合わせ飲む度量を持つ出来る大人になる予定ですから」


 ドヤァァ。
 つい調子に乗って大きい事を言ってしまったという自覚はあるが、既に口に出してしまったものは仕方がない。


 あれ? 
 何でみんなそんなニヨニヨした顔してるの?
 そんな事を思ってヨシュア先輩の方をみたら、目が合った瞬間吹き出した。


「ブハーッ! ハハハハハ! スゲェよ! これからクラウス先生と呼ばせてくれ!」


 うん、わかる。 
 そんな事コレっぽっちも思ってない事は。


「のぼせる前に上がれよ、クラウス先生」


「お前の将来楽しみにしてるぞ、クラウス先生」


 二人の騎士が腹筋と肩を震わせつつ順番に俺の頭を撫でて浴室から出て行った。
 何で騎士にまでクラウス先生と呼ばれたんだ、解せぬ。


「いや~、やっぱりクラウスは面白いな! 知識と常識の偏りがあるせいなのか!?」


 ヨシュア先輩が左手で俺を抱え込み右手でガシガシ頭を撫でる。
 当たってる、当たってますよ、ヨシュア先輩のヨシュア先輩が俺の尻に。
 別に臨戦態勢なわけじゃないからカール兄様で慣れてるんだけど、ちょっと勘弁して欲しい。
 タオルを浴槽に入れるのはルール違反だから直なんですよ。


「ヨシュア、いい加減にしろよ?」


 さっきまで黙ってたサミュエル先輩が眉間にシワを寄せて鉤爪状にした右手をお湯から出す、あれはアイアンクローの構えだ。
 慌ててヨシュア先輩が俺を解放する。


「もう俺出ますね」


 戯れたせいかのぼせそうになったので先輩達より先に風呂から出て部屋に戻った。
 俺が出てから小声で怒鳴り合うという器用な事を先輩達がしていたが、内容まではわからなかった。


 翌日からたまに騎士達から「クラウス先生」と呼ばれたり、非番の騎士がヤスリで爪を磨く姿を目撃する様になったのはきっとあの時浴室にいた騎士達のせいだろう。
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