【全59話完結】転生騎士見習いの生活

酒本 アズサ

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21.今世初めてのお菓子作り

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 騎士団寮に着いた時にはちょうどお昼時だったので、そのまま食堂へ向かう。
 休日なだけあって人もまばらだった、休日の食事は食べない人は二日前までに名簿に印をつけるシステムになっている。
 以前は食べる人が印をつけていたらしいが、それだと書き忘れて食べ損ねる人が多かった為、当日のキャンセルで余っても賄いに回せるからと今のシステムになったらしい。


 食事を済ませてトレイを返却口へ持って行く。
「ご馳走様、片付け手伝うからもう厨房に入っていい?」
 今日の休日当番であるヴォルフに声を掛けて厨房の中へ向かう。
 ちなみにヴォルフには「俺達は騎士様になるわけでもない平民なので、お貴族様に敬語やさん付けされるのは勘弁して欲しい」と言われてタメ口で話している、代わりに俺の事も様付けしない約束をした。


 食べ終わった食器と、さっき買ってきたパウンドケーキ型を出してまとめて清浄魔法を掛ける。
「いや~、さすがクラウスさん! 魔法ってやっぱり便利ですね」
 目をキラキラさせて褒めてくれたのは食器洗いの仕事が減った見習いのアルミンだ。
 

 アルミンは一般教養だけを学校で習って卒業した料理人見習いをしている十六歳だ。
 料理人や商人などは騎士と違って教えを乞うている相手に認められた時点で一人前として扱われる。


 アルミンが食器を片付けている間にマジックバックから食材を出す。
 秤でバターと砂糖をキッチリ1キロずつ分けて残りをマジックバックに戻した。
 俺のマジックバックは時間停止の効果もあるので買った時同様常温になっており、指で押したら簡単に形が崩れるくらい柔らかくなっている。


 大きなボウルにバターと砂糖を入れ、大きめの泡立て器を使って白っぽくなるまで混ぜ合わせる、途中で塩をひと匙分けて貰って入れた。
「風魔法が使えたらすぐに終わるのにな…」
 ここ二週間で増えてきた筋肉にモノを言わせてフワフワの状態にしてやった。


 十五個の卵を割り解し、口当たりを良くする為にも目の荒めのザルで濾して白いカラザを取り除く、十五個分のカラザが集まるとちょっと気持ち悪い。


 少しずつ玉子を足して、その都度混ぜ合わせる、段々腕の筋肉が悲鳴を上げ始めた。
 そこまで終わらせた時点で食事を摂る人が居なくなって暇になったヴォルフが手伝いを申し出てくれた、天使か。
 ちなみにアルミンは食器を洗っている。


 とりあえず型に耐火シートを型より高めに敷いてもらう、予定より膨らんだ時の対策だ。
 それが終わったらオーブンを温めてもらう、電化製品と違って魔導具は直ぐに温度が上がるのでこちらも急がないと。


 小麦粉とベーキングパウダー的な物を混ぜ合わせ、ザルを使って粉を振るい、ドバッと玉子を混ぜ終えたボウルに粉を入れる。


 ここからも量が量だけに力仕事が始まる、ヘラを使って粉っぽさが無くなるまで混ぜるのだ。


「ブランデーで大人向けとか、バニラビーンズで甘党向けとかいくつかの種類に分ければ良かったなぁ」


 ポツリと呟くと。


「クラウスさん、甘党向けでいいなら甘く煮た南瓜がありますよ? 昨日アルミンが賄いに作ったんですが、俺達には甘過ぎて残ってるんですよ」


「味見させて貰っていい? 使えそうなら使わせて欲しいな」


 試しに味見させてもらうと、前世で食べてた南瓜の煮付けに比べたら甘さ控えめと言えるくらいだ。
 このままだとアルミンが一人で食べないといけないらしいので、使わせて欲しいと言えばとても喜ばれた。


 火魔法で温めて皮の部分を削ぎ落とし、ヘラで潰した。
 この量だと二つ分でちょうどいいかな?


 プレーン状態のものを三つの型に流し込み、残った生地に南瓜を入れて混ぜ合わせ、残りの型に生地を流し込む。
 全部八分目くらいに収まっている、パウンドケーキ型と思ったけど、もしかしたらサイズが小さくなってしまった食パンの型だったのかも知れない…。
 

 パウンドケーキ型として形は完璧なのに安く売ってた理由が分かってしまった。 
 でないと量が増えたはずの生地が全部型に収まるはずがない。
 逆に普通のパウンドケーキ型だったら型が冷めてからまた焼き直したり大変な事になるところだった。


 オーブンの温度もバッチリになったので、大きさを考慮して焦げない様に温度を少し下げて焼き時間を長くした。
 あとは約一時間待つだけだ。


 焼ける間に使った道具の片付けをしたり、アルバン訓練官から聞いたらしく野営での鳥料理の話をお茶を飲みながらしたりしていたら段々オーブンから良い匂いが漂ってきた。


「ああ、すっごく良い匂い。 コレ絶対美味しいですよ!」


 アルミンが目を閉じてうっとりと匂いを嗅いでいた。
「一本は厨房を使わせてくれたお礼に渡そうと思っていたから手伝ってくれた二人はもちろんだけど、食べたい人達で食べてね」


 そう言うとアルミンだけでなくヴォルフの目も輝いた。
 砂糖をたっぷり使ったお菓子は一般の平民には偶にしか食べられないご褒美的な物らしい。
 貴族だとお茶会や普段のお茶の時間のお茶請けとして出されるので、その辺の価値観がズレていた様だ。


 焼き終わり、串を刺して焼け具合を確認する。


「うん、大丈夫みたいだね」


 オーブンから取り出して粗熱を取る為に冷ましていると、ご機嫌なヨシュア先輩が現れた。


「よーぅ、クラウス。 美味そうなモンが出来たみたいだな?」


 出掛けていたはずだが匂いを嗅ぎつけてやって来たんだろう、ニコニコしながら尻尾が左右に揺れている。


「出来ましたが、まだ食べられませんよ?」


「「えぇ!?」」


 悲痛な声がヨシュア先輩とアルミンから漏れた。


「正確には食べられますが、パウンドケーキは作って二日目と三日目が美味しいんです」


 ヴォルフは知っていたのか悲痛な顔の二人を見て肩を震わせて笑いを堪えている。


「今渡しても構いませんが、ダニエル先輩にも分けてくださいね? 包装紙を探していた時にお店に案内して貰ったので」


「わかった…」


 ちょっと耳がへしょってなってて可愛いと思ってしまった。
 ほぼ粗熱は取れていたので型から出して色付き防水紙に包み直してキャンディ状にリボンを掛けた。
 ヨシュア先輩に手渡す時に声を潜めて伝えた。


「約束は守りましたからね?」


 ニヤリ、と笑って俺の頭を撫でてパウンドケーキを持って行った。
 全ての型からパウンドケーキを外し、型に清浄魔法クリーンを掛けてマジックバックに収納する。
 ヴォルフは南瓜のパウンドケーキを料理人達にアルミンの南瓜をリメイクした物がどう変わったかを教える為にも食べさせたいと選んだ。
 大袈裟な言い方だが料理人の魂を見た気がした。


 全てのパウンドケーキを防水紙で包んでリボンを縛る、明日切り分けて個包装して皆にに渡そう。
 一本分は、先に切り分けて個包装して籠に入れた。


 中庭を挟んで向かいにある第一騎士団寮のカール兄様に差し入れする為だ。
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