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17.初めての見張り

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 その日の夕食は温め直してすぐ食べられるシチューの様な煮込み料理とパンという事で、調書を取り終わった後ヴォルフのお手伝いをして過ごした。
 大きな寸胴鍋三つ分作ると、夕食まで寝かせておいて温め直すと味が染み込んで食べ頃になると言ってヴォルフ達料理人は先生を一人と上級生数人を護衛代わりに連れて森から帰って行った。


 日が傾きかけた頃、真っ暗になる前に野営地の周りに数カ所見張り用の篝火の準備をする、俺は夕食の鍋を温め直して最初に食事するグループの給仕をする。
 各自食事を取りに来るスタイルで給仕にはあまり人数が必要ないので、他の人達は狩った獲物を解体して内臓等を少し離れた場所へ埋めに行った。


 最初のグループが食事を終える頃、獲物を解体していたサミュエル先輩達も片付けを終えて戻って来た。
 食事が済んだグループが今度は給仕に回り、残りの人達は班分けされて暗くなってきた周辺を警戒する為に見張りへ向かった。


「うん、美味いな。 明日も美味い飯が食えるといいが…」


 岩場に腰を下ろしたサミュエル先輩が食事しながらポツリと呟いた。
「サミュエル先輩達が狩りをしてきてくれたお陰で結構食材はありますよね? 料理人がマジックバックに入れて置いていってくれた野菜もそれなりにありましたよ?」


 不思議に思って首を傾げる。


「食材はある、しかし料理人がいないだろ」


 その言葉を聞いて納得。
 サミュエル先輩は料理が苦手な人だった。


「じゃあ、丸々とした鳥を獲ってきてくれた先輩の為に、明日用の下拵えしておきますよ」


 にっこり笑って言うと、サミュエル先輩の目が期待に輝いた。
 あれ? コレもの凄く期待されてないか?
 実力以上の期待をかけられたらどうしようと思っているとヨシュア先輩が自分の食事を持って現れた。


「クラウス、お前明日の下拵えするとか聞こえたけどニ時間後には俺と見張り番なの忘れるなよ? あと何か作るなら俺の分も頼む」


 シレッとリクエストをぶっ込むヨシュア先輩、まとめて作業する分には問題ないんだけどね。
今回の野営は交流も目的の一つなので同室の先輩以外とペアで見張りをする事になっているのだが、なんとその相方がヨシュア先輩だった。
 全然知らない先輩じゃなくてちょっと安心。


 料理人が作ってくれた食事がすっかりなくなったので、手の空いている水魔法使いが食器や鍋に清浄魔法を掛けていく。
 先生に許可を貰い残った野菜を少し分けてもらい、サミュエル先輩とヨシュア先輩が獲って来た鳥に塩とハーブを擦り込んで、刻んだ野菜とハーブを鳥の腹の中に詰めた。
 

さっきまで使われていた寸胴鍋に下拵えした鳥を入れて蓋をし、冷蔵庫代わりにする為魔法を使って鍋を氷で覆っておいた。
 サミュエル先輩とヨシュア先輩の名前を書いて使用中のメモを鍋と一緒に置いておく、獣人である二人は実力者として結構な有名人らしいのでこれで取られたりしないだろう。


 サミュエル先輩の見張り時間は明け方らしいので、先に身体と服に清浄魔法クリーンを掛けた。


「ありがとう、早く起きなきゃいけないから先に寝るから。 おやすみ」


 くしゃくしゃと俺の頭を撫でるとアルノー先生に休む旨を伝えてから俺達のテントへと入って行った。
 皆同じ柄のテントだから間違って他の人のテントに入らない様に気をつけないと。


 見張り交代の時間になり、ヨシュア先輩と篝火の一つへと向かう。
 パチパチと木の爆ぜる音が真っ暗になった森に響く、年少組の俺達は普段の点呼の時間に見張りが終われる様に配慮されているので他の篝火にアルフレートとライナーがいるはずだ。


 さっき下拵えした料理の話など寝ている人を起こさない様にコソコソとヨシュア先輩と話していると、苦しげな声が聞こえてきて急病人かと一瞬身構える。


「ああ、ヤってる奴らがいるだけだから気にするな。 狩りで興奮したか、いつもと違う環境のせいか盛ってる奴は結構いるぞ」


 緊張して耳を澄ませていると、ヨシュア先輩がサラリととんでもない事を言った。
 思わず目を見開いて固まってしまった俺にニヤニヤと笑っている。


「お子様クラウスにはまだ意味がわかんねぇか? 俺達獣人は鼻がいいからな、性的に興奮してる奴も誰と誰がヤってるかもニオイでわかるのさ、ククッ」


 ヨシュア先輩は声を潜めて喉で笑った。


 改めてさっき聞こえた声がそのテの声だとわかって、頬に熱が集まる。
 そんな俺の様子を楽しそうに観察しつつ口の端を上げた。


「そんな訳でクラウスがって事もわかっちゃうんだな、コレが」
 

 それじゃあ身体が大人になったらすぐにバレるって事じゃないか!
 ちょっと待て、精通した日をサミュエル先輩やヨシュア先輩にはっきりバッチリ知られるって事!?
 

 コレって恥ずか死ねる案件じゃないのか!?
 そんな事を考えて青くなったり赤くなったりする俺を満足気に眺める。


「だからこそ獣人は比較的性的な事に抵抗が少ないのさ、だからクラウスが発散したくなったらいつでも可愛がってやれるぞ?」


 ニカッと爽やかな笑顔で言ったが、内容が全然爽やかじゃなかった、何とか俺が絞り出せたのはひと言だけだった。


「お子様なので遠慮します…」


 その後、そんなシーモな会話なんて無かったかの様に周りを警戒しつつ、薪を焚べたり小声で雑談して過ごす。
 交代の人達が来たのでヨシュア先輩と自分に清浄魔法クリーンを掛け、おやすみの挨拶をしてサミュエル先輩が寝ているテントへと戻り、起こさない様にそっと寝袋へ入り込んだ。
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