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16.野営体験一日目

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 翌日武器庫前に集まった約三十名の見習い達は、全員まだ成長が止まってないので貸し出しの武器を携帯する。


「皆準備はいいか? 全員帯剣したな?」
「「「「はい!」」」」


 今日は学校の騎士科の先生も三名同行するので、アルバン訓練官は年少組のお目付役ポジションで荷物は重そうだが気楽そうにしている。


 テントの重い骨組みはサミュエル先輩が持ってくれ、俺は布で出来た本体を背負って行く事になった。
 マジックバックに入れてしまえば重さも感じず楽なのだが、一応訓練という事で荷物を背負って行動しなければならなかった。


 基本的に学年単位で行動するが、年少組は体力を考慮され、サポートを兼ねて同室の先輩と共に最後尾の料理人達の前を歩いて行く、遅れない様に殿しんがりはアルバン訓練官だ。
 料理人は今日の夕食まで作ったら日が暮れる前に森の外に迎えに来る馬車で帰るらしい、食材と鍋は専用のマジックバックがあるらしく比較的身軽な格好だ。


「行きも馬車じゃなくていいんですか?」
 振り返り副料理長のヴォルフに聞く、「ごちそうさま」を言ってたせいか名前と顔を覚えられて何度か言葉を交わした事がある仲だ。
「ああ、我々料理人もいざとなったら戦争に行くかもしれないからな、ある程度歩き慣れておかないといけないんだ。 夜は警護に慣れた本職の騎士様方が居ないから、万が一の時に足を引っ張らない様に帰るのさ」


「なるほど、もしも魔物が出た時に見習いだけだと自分の身を守れるかすら怪しいですもんね」
 寮には料理長も残っているのにどうして帰るのかと思っていたけど納得した。
 移動しながらアルフレートと同室の先輩にも挨拶をした。


 アレクシス・フォン・モンジュラ、十四歳で貴族の三男、十歳の時に母親と死別後に父親が再婚して異母弟妹もいるらしい。 
 アメジストの様に綺麗な紫の髪と目をしている。


 二時間半程歩くと森に着いた、それなりに起伏もあり弱い魔物も多少出るし沼地や岩場といった種類の違うフィールドが狭い範囲にあるので訓練に向いているとの事。
 ただ原因不明で亡くなった遺体が見つかった事が数回あるらしく、気を引き締める様にと森に入る前に注意喚起がなされた。


 森の浅部はまだ巨木と言えない若い木も多くて鬱蒼としてはいない、木の根が出ていて歩きづらい事はあるが大した問題は無さそうだ。
 そんな事を考えたのがフラグとなったのか、この後すぐに事件が起きた。


「この先下りになっているから気を付けろ、下った先に斜面があるからそこを上がれば休憩できる岩場がある」
 そう言って先生が落ち葉に足を取られながらも窪地へと降りて行く、そして突然苦しそうに倒れた。
 どうやら意識を失ったようだ、咄嗟にもう一人の先生が生徒を止めて駆け寄ってしゃがんだ瞬間、同じ様に倒れるのが見えた。


 頭の中に前世で観たテレビの内容が駆け巡った。
 きっとできると自分に言い聞かせて魔法を発動させる。
範囲清浄魔法エリアクリーン! アルバン訓練官、風魔法で新鮮な空気を送って下さい!」
 振り返ってアルバン訓練官に叫ぶと、すぐに魔法で風が辺りを吹き抜ける。

「治癒魔法使える人はお願いします! 呼吸器と脳を重点的に!」


 前列の人達に叫んだ、何人かは治癒魔法が使える人もいるだろう。
 レアな光魔法か、ある程度なら水魔法でも治癒できるというのは知っている。


 俺の声にハッとした数人の見習い騎士が駆け寄って治癒魔法を施す。
 仄かな光に包まれてすぐに先生達は目を覚ました。
 俺の周りに居た人達は驚いた顔で俺を見ていたが、アルバン訓練官がホッと息を吐いて近づいて来た。


 俺はというと先生達が目を覚ました時点で安心して腰を抜かしてへたり込んでいた。
「クラウス? 何が起こったのか説明してもらえるか?」
 アルバン訓練官の目が明確に「逃がさない」と訴えていた。
 

 どうしよう、前世のバラエティでやってた妖怪の仕業といわれていた現象を検証する番組で、山で「ひだるい」という妖怪に襲われて死んだとされる人達が実は沼地とか腐敗した物から発生したガスが窪地に溜まった時に、そこを通った人が呼吸困難だか酸素欠乏症だかになったのが原因と判明したって…どう説明する?


「え~と…ですね。 どの本か忘れたんですけど、いるかいないかわからないエレメント系の魔物の存在を検証している物がありまして…、それで沼地や生き物の腐敗で発生するガ…有毒な魔素みたいなものが窪地に集まって命を落としたんだろうという記述を思い出しまして…」

 きっと水族館の魚並みに泳ぐであろう眼を隠そうと、思い出すフリをしながらこめかみを押さえる様に目元を手で隠す。

「森に入る前に先生方が沼地もあると言っていましたし、ちょうど先生が倒れた所が窪地だったのでもしやと思って咄嗟に空気を浄化できるかと清浄魔法クリーンを…」


 そう、咄嗟に清浄魔法クリーンを掛けた理由はができるかと思って掛けたのだ。
 もしもダメだった場合の保険としてガスを散らす為に風魔法が使えるアルバン訓練官にお願いして風を起こしてもらったのだ。


「凄いな! 偉いぞクラウス!! お前の知識が先生達を救ったんだ!」
「うわっ」
全力で喜びながらサミュエル先輩が頭や頬を撫で回して褒めてくれる。
 びっくりしたけど、こんなにも自分の事みたいに喜んでくれて嬉しい。


「なるほどな、そういう事だったのか…。 お陰で助かったよ、ありがとうな!」
 さっきまで倒れていた先生二人が話を聞いていた様で、サミュエル先輩から奪う様に高い高い状態に抱き上げられた。
「専門部の奴らに検証させて証明されたら大手柄だぞ! ハハハハ」
 いくら俺が小柄で軽いといってもリュック背負ったままだぞ!? 
 持ち上げられたままグルグル回されてかなり恥ずかしい。


「あ、あの…っ、恥ず、か…しいっ、のでっ、ヤメて…っ下さっ…いっ!」
 下ろしてもらえた時にはかなりグッタリしてしまったので、リュックをマジックバックへ入れる許可を貰った。
 二人の先生はヘンリックとアルノーと名乗り、改めてお礼を言われた。
 とりあえず俺を完全な子供扱いするヘンリック先生とは距離を置いて接する事を心に決めた。


 その後、無事に岩場に着いて調理経験の無い者は見学やちょっとしたお手伝いをしながら昼食の準備に参加し、副料理長のヴォルフとその部下達の確かな腕前のお陰で美味しい昼食を済ませた。


午後は夜の見張り役の顔合わせと、狩や採取する者は班行動で出掛けて行った。
 俺は今日の報告書を書くために先生達にドナドナされる事となった。
 調書を取る時に名乗るとアドルフ様とカール様の弟なら優秀なのも頷けると兄様達の事も褒められて嬉しくなった。
 あれ…? もしかして俺が学校入った時のハードル自分で上げちゃったりした?
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