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13.特訓
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部屋に戻ると既にサミュエル先輩は学校へ行った後だった。
身体を動かす度にここの筋肉を使っているぞ、と教えるかの様に痛みが走る。
ベッドにゴロリと寝転がって昼寝をして身体を休めながら魔力を循環させて操作性を高める訓練をしていると、部屋にノックの音が響く。
この時間ならアルフレートかライナーだろう、身体起こすと腹筋が悲鳴をあげた。
「誰? 鍵は開いてるよ」
「アルフレートだ、邪魔するぞ」
そう言ってドアを開けて部屋に入って来た。
「清浄魔法のイメージの仕方とコツを図解で教えると言ってたから聞きに来たんだ」
気まずそうに目を逸らしながら訪問理由を告げられた。
「昼食までは特に予定も無いしちょうどいいかもね、サミュエル先輩の椅子借りようか、こっちに座って」
窓際に二つ並べて置かれた勉強机に向かって座り、引き出しからペンと紙を取り出してサラサラと簡単な汚れた布の繊維の拡大図と汚れが浮き上がるCGを手本にした絵を描く。
「こっちが汚れが付いてる布の絵で、俺のやり方だと水を糸の隙間にギュッと押し込んで汚れを押し出す感じ。 そのあと布から水を全部引き剥がす感じかな? それを水を出さずに空気中の水分を使ってやる…みたいな?」
アルフレートが眉根を寄せて黙っている、正直ちゃんと伝わってるのか不安になる。
「空気中の水を想像し辛いなら最初は水を出してもいいと思うよ?」
魔法の家庭教師にひと通り四大元素の事とか習ってるはずだから話は通じてると思うんどけどな。
「うん、何とかイメージ出来そうだ。 ちょっと練習してみたいんだが付き合ってくれるか?」
「わかった、裏庭へ行こうか。 ハンカチとか何枚か持って行って土かなんかで汚して練習してみよう」
タンスから二枚のハンカチとタオルを一枚を取り出してヒョコヒョコ不格好な歩き方で裏庭へ向かう。
「クラウス…、どう歩いても結局痛いんだから我慢して真っ直ぐ歩け、かなり情けない姿だぞ?」
グサリとアルフレートからの言葉が心に刺さった。
心を決めてグッと姿勢を正す。
「ぐっ…ぁ…ぅ」
各筋肉の「今、俺が使われてますよ!」の主張が激しい。
暫し呼吸を整えて痛みを逃し、涙目ではあるが表情は平静を装いスタスタ歩いて裏庭に向かう。
この痛みを今朝からずっと我慢していたアルフレートの事をちょっとだけ尊敬した。
裏庭に着いてペイっとハンカチを地面に落とし、上から踏んで汚れを付けてから軽く土を払う。
「さ、やってみて」
躊躇いなくハンカチを汚した俺に戸惑いながらも手を突き出してハンカチに集中する。
「清浄魔法」
仄かな光がハンカチを包む、しかし光が消えた時に残されたのは汚れは落ちたが湿度高めのハンカチだった。
「さっきの説明のおかげで汚れを落とすまではできるが、水を引き剥がして乾いた状態までイメージするというのが…追い付かない感じがする」
ガックリと肩を落とすアルフレート。
俺が乾かすまでの一連のイメージの参考はコインランドリーの洗濯から乾燥までやってくれるやつなので説明は難しい。
何とか良い説明がないか考える。
「あ、わかった!」
ポンと手を打つとアルフレートが訝しげに俺を見る。
「例えば俺の名前はクとラとウとス、だろ? 今のアルはそうやってバラバラにイメージしてるって事だろ? 繰り返し練習すれば一連の流れを〈クラウス〉というひと塊として認識できる様になれば成功するはずさ!」
「一連の流れをひと塊に…か」
ブツブツと言いながら目を閉じて何やら考え込んでしまった。
イメージトレーニングをしてるのかもしれない、暫くして目を開けると頷いて。
「よし、これなら多分出来るだろう。 清浄魔法」
汚れたハンカチと、さっきの湿気った状態のハンカチが仄かな光に包まれて綺麗な状態になった。
「成功だ…!」
ほぅ、と安堵のため息を吐いた。
「やったじゃないか! おめでとう!」
思わずバシバシと肩を叩いて祝福した。
「ああ、ありがとう。 クラウスのおかげだ」
照れ臭そうにはにかんでお礼をいわれた。
そんな風に照れながら言われたらこっちも照れるだろ!
「これで明日からアルも洗浄係だな! 午後の訓練の時にアルバン訓練官に報告しないとね」
こっちも照れた事を悟られない様にわざと意地悪気にニヤリと笑ってやった。
その後昼食の時間まで練習をしてから合流したライナーと三人で食事をし、午後の訓練に悲鳴を上げる身体に鞭打って向かった。
アルバン訓練官に清浄魔法が使える様になった事を報告すると、パウルが使える様になるまでは二人で交代で洗浄係をする事になった。
「今日はさぞかし身体中の筋肉が悲鳴を上げている事だろう、だからと言って全く身体を動かさないのも良くない…って事でゆっくり走るからな」
こっちの状態をわかった上で凄くイイ笑顔で言われた、正直ムカついた。
何とかランニングを終え、今日の訓練が終了した。
三人で風呂へ向かい身体を洗っていたら全員が筋肉痛の為、背中を洗うのに苦戦したので並んで前の人の背中を洗って回れ右をして洗うという伝統(?)の背中の流し合いをした。
午前中は交代で洗浄係か休息を取って午後はランニングという残りの二日間を過ごしたら筋肉痛も殆どなくなり、洗浄室に置かれる洗濯物も半分以上になっていた。
明日は見習いは休みの日なので何をして過ごそうか、そんな事を日記に書きながらサミュエル先輩が夕食から戻るのを待った。
身体を動かす度にここの筋肉を使っているぞ、と教えるかの様に痛みが走る。
ベッドにゴロリと寝転がって昼寝をして身体を休めながら魔力を循環させて操作性を高める訓練をしていると、部屋にノックの音が響く。
この時間ならアルフレートかライナーだろう、身体起こすと腹筋が悲鳴をあげた。
「誰? 鍵は開いてるよ」
「アルフレートだ、邪魔するぞ」
そう言ってドアを開けて部屋に入って来た。
「清浄魔法のイメージの仕方とコツを図解で教えると言ってたから聞きに来たんだ」
気まずそうに目を逸らしながら訪問理由を告げられた。
「昼食までは特に予定も無いしちょうどいいかもね、サミュエル先輩の椅子借りようか、こっちに座って」
窓際に二つ並べて置かれた勉強机に向かって座り、引き出しからペンと紙を取り出してサラサラと簡単な汚れた布の繊維の拡大図と汚れが浮き上がるCGを手本にした絵を描く。
「こっちが汚れが付いてる布の絵で、俺のやり方だと水を糸の隙間にギュッと押し込んで汚れを押し出す感じ。 そのあと布から水を全部引き剥がす感じかな? それを水を出さずに空気中の水分を使ってやる…みたいな?」
アルフレートが眉根を寄せて黙っている、正直ちゃんと伝わってるのか不安になる。
「空気中の水を想像し辛いなら最初は水を出してもいいと思うよ?」
魔法の家庭教師にひと通り四大元素の事とか習ってるはずだから話は通じてると思うんどけどな。
「うん、何とかイメージ出来そうだ。 ちょっと練習してみたいんだが付き合ってくれるか?」
「わかった、裏庭へ行こうか。 ハンカチとか何枚か持って行って土かなんかで汚して練習してみよう」
タンスから二枚のハンカチとタオルを一枚を取り出してヒョコヒョコ不格好な歩き方で裏庭へ向かう。
「クラウス…、どう歩いても結局痛いんだから我慢して真っ直ぐ歩け、かなり情けない姿だぞ?」
グサリとアルフレートからの言葉が心に刺さった。
心を決めてグッと姿勢を正す。
「ぐっ…ぁ…ぅ」
各筋肉の「今、俺が使われてますよ!」の主張が激しい。
暫し呼吸を整えて痛みを逃し、涙目ではあるが表情は平静を装いスタスタ歩いて裏庭に向かう。
この痛みを今朝からずっと我慢していたアルフレートの事をちょっとだけ尊敬した。
裏庭に着いてペイっとハンカチを地面に落とし、上から踏んで汚れを付けてから軽く土を払う。
「さ、やってみて」
躊躇いなくハンカチを汚した俺に戸惑いながらも手を突き出してハンカチに集中する。
「清浄魔法」
仄かな光がハンカチを包む、しかし光が消えた時に残されたのは汚れは落ちたが湿度高めのハンカチだった。
「さっきの説明のおかげで汚れを落とすまではできるが、水を引き剥がして乾いた状態までイメージするというのが…追い付かない感じがする」
ガックリと肩を落とすアルフレート。
俺が乾かすまでの一連のイメージの参考はコインランドリーの洗濯から乾燥までやってくれるやつなので説明は難しい。
何とか良い説明がないか考える。
「あ、わかった!」
ポンと手を打つとアルフレートが訝しげに俺を見る。
「例えば俺の名前はクとラとウとス、だろ? 今のアルはそうやってバラバラにイメージしてるって事だろ? 繰り返し練習すれば一連の流れを〈クラウス〉というひと塊として認識できる様になれば成功するはずさ!」
「一連の流れをひと塊に…か」
ブツブツと言いながら目を閉じて何やら考え込んでしまった。
イメージトレーニングをしてるのかもしれない、暫くして目を開けると頷いて。
「よし、これなら多分出来るだろう。 清浄魔法」
汚れたハンカチと、さっきの湿気った状態のハンカチが仄かな光に包まれて綺麗な状態になった。
「成功だ…!」
ほぅ、と安堵のため息を吐いた。
「やったじゃないか! おめでとう!」
思わずバシバシと肩を叩いて祝福した。
「ああ、ありがとう。 クラウスのおかげだ」
照れ臭そうにはにかんでお礼をいわれた。
そんな風に照れながら言われたらこっちも照れるだろ!
「これで明日からアルも洗浄係だな! 午後の訓練の時にアルバン訓練官に報告しないとね」
こっちも照れた事を悟られない様にわざと意地悪気にニヤリと笑ってやった。
その後昼食の時間まで練習をしてから合流したライナーと三人で食事をし、午後の訓練に悲鳴を上げる身体に鞭打って向かった。
アルバン訓練官に清浄魔法が使える様になった事を報告すると、パウルが使える様になるまでは二人で交代で洗浄係をする事になった。
「今日はさぞかし身体中の筋肉が悲鳴を上げている事だろう、だからと言って全く身体を動かさないのも良くない…って事でゆっくり走るからな」
こっちの状態をわかった上で凄くイイ笑顔で言われた、正直ムカついた。
何とかランニングを終え、今日の訓練が終了した。
三人で風呂へ向かい身体を洗っていたら全員が筋肉痛の為、背中を洗うのに苦戦したので並んで前の人の背中を洗って回れ右をして洗うという伝統(?)の背中の流し合いをした。
午前中は交代で洗浄係か休息を取って午後はランニングという残りの二日間を過ごしたら筋肉痛も殆どなくなり、洗浄室に置かれる洗濯物も半分以上になっていた。
明日は見習いは休みの日なので何をして過ごそうか、そんな事を日記に書きながらサミュエル先輩が夕食から戻るのを待った。
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