【全59話完結】転生騎士見習いの生活

酒本 アズサ

文字の大きさ
上 下
10 / 59

10.筋肉痛は治癒魔法禁止です

しおりを挟む
 朝、サミュエル先輩と共に食堂へ向かう。
 何度も何度も心配そうな顔で振り返り、とうとう見ていられなくなったのか
「クラウス、抱き上げて連れて行こうか?」
 俺を気遣ってくれているのはわかるが、その優しさがツライ。


 何せその原因が持久走と使い慣れない武器を扱ったせいなのだから。
 そう、完全なる筋肉痛である。


 知らなかった、こんな子供の身体でも筋肉痛になるなんて。
 前世で小学生が筋肉痛になったってあんまり聞いた事ない、大体中学生くらいからのイメージだ。


「ありがとうございます、大丈夫なので先に行ってもらっていいですよ?」
 一歩歩く度に色んなところが痛むのでヒョコッヒョコッと変な歩き方になってしまう。
 心配そうにしながら俺の速度に合わせて歩いてくれるので申し訳ない。


 食堂に着くとアルフレートが食事をしていた、普通に動いている様に見えるがよく見ると歯を喰いしばってるのがわかる。
 あ、スプーンを持つ手が震えてスープが飲みにくそうだ。


 周りの目が生温かい、昨日点呼の時に半分眠っていたせいかと思ったがそれだけではない様だ。
 なぜなら後からプルプルしながら現れたライナーも同じ様な視線を向けられている。


 朝の挨拶を交わして二人共プルプルしながらトレイに食事を乗せてテーブルに向かう。
 サミュエル先輩もライナーと同室のゲルト先輩も苦笑いしながら待っていてくれた。


「いただきます」
 ポソッと呟いて食事を始める。
 アルフレートみたいにスプーンを持つ手が震える、周囲の生温かい視線がツライと思っていると。


「二日目の筋肉痛はこの時期の風物詩なんだよ。 学校で少しずつ体力つける十二歳以上はともかく、お前らみたいに早くから見習いになる奴らは必ずそうなってるから懐かしく思ってる奴も多いだろうな」
 クックッと喉を鳴らして笑いながらサミュエル先輩が教えてくれた。


 という事は来年は俺が生温かい視線を送る立場になるのか…。


「僕もライナーと同じ十一歳で入ったから同じ様になったよ。 筋肉痛が痛いからって治癒魔法掛けてもらっちゃダメだよ?」
 ゲルト先輩が可哀想だけど、と前置きして教えてくれる。
「筋肉痛は筋肉の繊維が部分的に切れてるから痛いのは知ってる? 痛みが無くなった時点で切れる前より強い筋肉になってるんだけど、治癒魔法かけちゃうと繊維が切れる前の状態に戻るから筋肉が育たないんだよ」


 サミュエル先輩がゲルト先輩の言葉を聞いて力強くうんうんと頷いている。
「ゲルト先輩は俺の一つ上だから色々教えてもらえるぞ」
 

 青い髪で緑の眼をした優しいゲルト先輩は
「僕に教えられる事ならいつでも聞いて」
 と、穏やかに微笑んだ。
 ライナーの同室の先輩も良い人で良かった。


「ああ、この腕で洗濯しないといけないかと思うとキツイなぁ。 昨日あんまり上手に汚れが落とせなかったんだよね…、だから今日も自分で洗濯しなきゃ」
 しょんぼりしながらライナーが零した。
「クラウスはもう清浄魔法クリーン使えるから筋肉痛は関係ないよね、いいなぁ」
 はぁ、とため息を漏らす。


「ヘェ、クラウスはもう清浄魔法クリーンが使えるのかい? 優秀なんだね。 僕も今日は洗浄係だから一緒に洗浄室へ行こうか」
「はい、わかりました」
 コクリと頷く。
 どうやらゲルト先輩も水魔法が使えるらしい。


 朝食を食べ終わりゲルト先輩と二人で洗浄室へ向かう、変な歩き方をしているのを見かねたのか、さりげなく手を腰に回して補助をしてくれた。
 百八十センチ近くありそうなゲルト先輩には小さい俺を支える体勢がキツそうに見える。


「ありがとうございます」
 お礼を言うと
「僕にも身に覚えがあるからね」
 と、笑って言ってくれた。


 洗浄室の中には入団年別になった棚があった。
「こっちがクラウスが担当する棚だよ、一段で衣類籠が十並べられるようになってるんだ。 まだ洗濯が上手に出来る子は少ないから楽だね、クラウス以外に一人だけだよ。 数日後には十人全員分に増えると思うけどね」


 そう言うとゲルト先輩は自分の担当の棚の籠に手際よく清浄魔法クリーンを掛けていく。
 俺も昨日と同じイメージを思い浮かべる。
清浄魔法クリーン
 仄かな光に包まれて衣類が綺麗になった。
 

「お見事! 凄く綺麗になってるじゃないか、馴れれば身体にも使えるから遠征や野営の時に便利だよ」
 野営で身体が清潔に保てるのはありがたい。


「ありがとうございます、早く出来る様に頑張ります!」
「うん、優秀な後輩が居ると先輩の僕達が楽になって助かるんだよね~。 じゃ、僕は学校へ行くからもう行くね」
 ヒラヒラと手を振って洗浄室から出て行った。


 よし、午前のノルマは終わったし、昨日午後からランニングするような事をアルバン訓練官が言っていたから身体を休めておこう。


 綺麗になった自分の分の服を持って部屋へとゆっくり歩いて戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

処理中です...