上 下
4 / 6

知らぬは本人ばかりなり

しおりを挟む
「まぁ! それは宜しゅうございました、食事と睡眠以外全て必要な事を学ぶ時間にすれば5年以内にきっとご結婚できますわ。ソフィー嬢でしたか? 頑張って下さいね、応援致しますわ」


 にっこりと笑顔を向けるとソフィー嬢は真っ青になって後ずさりました。
 笑顔を保ったまま王子の方を向いて言葉を続けます。


「お勉強ばかりでお会いできないとやる気も出ませんものね、ガブリエル様もあと2カ国の言葉が手付かずですのでご一緒に学べばよろしいかと。そうすれば定期的に会えますわね」


「そ、そうだな…」


 あらあら、本気で5年間ソフィー嬢を勉強漬けにする気でしょうか、わたくしなら百年の恋も冷めますわ。
 一度お隣のソフィー嬢のお顔を見ればよろしいのに、側近の皆様に縋る様な目を向けておいでですよ?


「それにしてもガブリエル様はお心が広ぅございますね、いくら側近の皆様と仲がよろしいとはいえ…」


 そこで言葉を切ってチラリとガブリエル様を始め側近の3人に視線を向けると3人は顔色を変えた。


「ガブリエル様? 側近の皆様はガブリエル様の予定や行動をほぼ把握しておりますわね?」


「ああ…、側近だから当たり前だ」


 いきなり話題を変えた事に戸惑いながらも素直に答える王子、結構なヒントですのに気付かない様です。


「ガブリエル様はどうしてわたくしの予定を確認していたのでしょうか?」


「は?」

 先程わたくしが言いましたよ、鉢合わせしない為だと。
 まさかこの短時間で忘れる程残念な頭では無いと思いたいのですが。
 数秒考えてサッと顔色が変わりました、えらいえらい、ちゃんと気付きましたね。


「人の目というのは思っているより多いものでしてよ? 図書室で宰相の御子息と、訓練場近くの四阿で騎士団長の御子息と、裏庭の花壇前の片隅で魔導師長の御子息と、生徒会室でお兄様の(膝の)上に自ら乗って来たとも耳にしましたわ」


 うふふ、ソフィー嬢ったら今にも倒れそうな程真っ青になって震えていらっしゃるわ。


「恋人を共有して将来的に自分の子でなくても我が子として養育されるのですね、ガブリエル様の博愛精神には頭が下がりますわ」


「な、な、何を言って…」


「わたくしとの婚約破棄については個人の問題ではございませんのでその旨を王宮に伝えましょう。数年前から婚約そのものを破棄ではなく白紙に戻すという案が出ていたそうですし…」


 実は王太子殿下が3歳の頃から婚約していた公爵令嬢が奔放な方に育ってしまったらしく、王妃に相応しく無いと言われており、困った両陛下がいっそ王族教育が終わっているわたくしを婚約者に挿げ替えたいと内々にお父様に打診があったとか。


 しかしそうしてしまうとガブリエル王子の立場が無くなるという事で解決案を模索している最中にこの出来事、案外陛下は歓迎するかもしれませんね。
 会場内はシンと静まり返っており、誰もが息を詰めて成り行きを見守っています。


「皆様、折角の卒業パーティーに大変な余興をお見せする事になって申し訳ございません。若気の至りという事でガブリエル様をお赦し下さいね」


 ニコリと淑女の笑顔を振り撒き、遠い目をして壁際に立っていたお兄様に目で合図するとハッとなってエスコートする為に側に来て下さいました。


「わたくしが居ては落ち着かないでしょうからこれにて失礼致します。では皆様、ごきげんよう」


 優雅に見える様、渾身のカーテシーをして会場を後にしました。
 係の者が閉じた扉の向こうから王子の大きな声が聞こえましたが放っておきましょう、それより王宮に遣いを出さなければ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は先手を取ってあげますわ

浜柔
恋愛
パーティ会場に愛人を連れて来るなんて、婚約者のわたくしは婚約破棄するしかありませんわ。 ※6話で完結として、その後はエクストラストーリーとなります。  更新は飛び飛びになります。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶
恋愛
 伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。  しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。  翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。

処理中です...