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第一章

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トボトボと保健室の方へと向かうタバサの心の中は、何故か私への感謝と、お花畑が顔を引き攣らせて見ているだけだった事を呪ってやるというものでいっぱい。

そうよね、ゲームでは完璧な王太子様がだったけれど、現実はアレだし夢が壊れるって本当に辛いわよね。

タバサを見送りながらそんな事を考えていると、リオンとショーン殿下が私の隣に立ったの。本当にそつがないわね。

周囲からヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あの方、ダイアクロスの公爵令嬢よね?」「どうしてあのお二人と一緒にいらっしゃるの?」と困惑している様子が伺える。

それは私も聞きたいわ。

心の中で溜息をつきながら、心配する二人に愛想笑いを返してホールへと向かう。
お花畑は私達を見て目を見開いているけれど、そんな事に構っている暇も時間もないわ。

ホールに着くと、リオンとショーン殿下は名残惜しそうに王族の席へと向かい、私は友人達を軽く睨んで適当な席に座った。

「アリス、怒ってますわよね?」

「あら、プリシラ様。ドリカム状態に入っていける令嬢はいませんわよ」

「どり?何状態ですの?」

「な、何でもありませんわ。オホホホホ」

きっと、前世の話をなのでしょうね。
プリシラもそう思ったのか、それ以上聞くのをやめたわ。

「私はアリスの隣に座る。コーラルバイン公爵から守るように頼まれているんだ」

「お父様ったら・・・アンナ、ごめんなさいね。父は心配症なのよ」

「ま、あの双璧を越えられる男はいないだろうが、一応頼まれた身だしな。私もアリスといるのは楽しいから嬉しく思うよ」

「ありがどう、私もアンナが大好きよ」

目を合わせて微笑みあう私達を見て、周囲の男子生徒達が頬を赤らめているけれど、アンナが可愛らしいからでしょうね。

「アリスは自分の事には鈍感よね」

「この中で一番目を引くのはアリス様ですのにね」

「・・・アリス、好き。可愛いし綺麗だから」

3人のヒソヒソ話を聞き逃した私は、聞き返してみたけれど、何でもないと言われてしまったわ。
ノーマのおしゃべりは珍しいのに、どうして内緒なのかしら?

友人に対して心を読むような事はしないし、したくもない。心を読むのは必要がある時だけと決めているから、こういう時もそれはしない。


学園長が壇上に上がり入学式が始まると、その場はシンと静まり返って学園長のよく通る声だけが響く。
でも、その視線の先に私がいる事には気付いているようで、チラチラとこちらをみる生徒も多い。

私も何故見られているのか知りたいわよ・・・。

そんな事を思いながらも、目を逸らさず令嬢らしい笑顔を作り見返す。まるで睨み合いのように話が終わるまで見つめあっていたのよ。

先に逸らしたのはあちら、勝ったわ。


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