最初からバッドエンド!?~イベントスチルが見たかっただけなのに!

樹林

文字の大きさ
上 下
1 / 3

前編

しおりを挟む
今日は中盤のイベントがある日だと朝からウキウキしていて、早めに学園に登校しようと思っていたのにどうしてこの人がここにいるの?

「おはよう、スカーレット王女」

目の前で爽やかな笑顔を見せるのは龍人族の王太子であるエアネスト殿下で、たっぷり30秒は呆然とした後にやっと思考が動いたわ。

「おはようございます·····エアネスト殿下。誰かお待ちですか?」

「私は貴女を迎えに来たのですが」

「ご冗談を」

間髪入れずに言うとピキッと空気が凍る音がしたけど、ここは聞こえないフリをするのが得策ね。

「では、私は用事がございますのでこれで失礼致します」

にこやかに言ってカーテシーをしてから脇をすり抜けようとしたんだけど、がっしりと腕を掴まれて動けない───龍人って力強すぎ!

「離して頂けませんか?」

「私は貴女を迎えに来たんだと言いましたよね?」

「私には迎えに来て頂く理由がございませんので」

それでも王女然とした顔は崩さず、にーっこりと微笑んでやると·····エアネスト殿下は何故か頬を染めたのよ。

いや待って?

この世界は乙女ゲームの『愛、狂わせて~魔族達の夜~』の世界で、攻略対象4人と特異体質を持つ人間のヒロインとの恋の物語よね?

1人を選ぶも逆ハー狙うもOK!だって私は特異体質だもん!な、どういうものなのか最後まで説明のない特異体質を持つヒロインに恋しないでどうするの。

私はスカーレット・ユベール。

前世の記憶を持つモブ王女よ。

吸血鬼族の第2王女で「こんな子、ゲームにいたっけ?」というのが第一印象だから、きっと影が薄いんだろう·····鏡で見てもぼんやりしか見えないし。

でも、悪役令嬢じゃなくて本当に良かった!
だってこのゲームはバッドエンドと悪役令嬢の断罪の多さがウリ。
悪役令嬢は4人いるけど婚約者ではなく、ファンクラブの過激派令嬢達よ。
人間以外には番がいるし、その方が現れるまで夢をみたいという所ね。

まぁ、番が見つかる確率は10パーセントにも満たないから、あわよくばという所もあるんでしょうが。

私はそんな夢は見ないの。

だって、だって私は、あの大量のスチルを間近で見たいだけなんだもの!

なのに·····なんなのかしらこの状況。

「離して頂けませんか?」

「無理」

む、敬語どこ行った。
このヤンデレ腹黒絶倫王太子が敬語じゃなくなるのはヒロインの前でだけで、その他大勢の私にそんな口調で話す筈がない!

「いい加減にして下さいませ。このような所を見られてはお困りになるのでは?」

「私は困らないが·····貴女は困るのかな?」

「そうですわね。(ヒロインが悲しむし、そうなるとスチルが見れなくなるし)困ります·····って痛いです!」

腕を掴む力がどんどん強くなり、骨が折れるんじゃないかと思う程に痛い!こいつ、か弱い王女に何してくれてんだ!

パッと霧に変化してその場から逃げると、後ろから「逃がさないよ」というエアネスト殿下の声がして全身に悪寒が走ったんだけど·····たった1日で何があったのよ!

大体、私はあんたなんか推しじゃないし!
ヤンデレ腹黒絶倫野郎は苦手なの!

影の薄さを利用して逃げまくってやるわよ!

大体、ヒロインと散々ベタベタしておいて今更こっちに来られても迷惑だし、私は1人で萌えを求めて生きていければ幸せなのよ。

お父様達も認めて(諦めて)下さっているし、学園を卒業したら王女なんてやめて記者になるの。
そうすれば、色んな国を巡りながら萌えを求める事ができるもの。

その野望を叶える為には、あんなヤンデレ腹黒絶倫野郎には捕まらないんだからね。


そうして、エアネスト殿下と私の追いかけっこが始まった───。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...