終わりのはじまり

momiwa

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第一章 サキの話

クリスマス③

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 メイク直しを終え手ぐしで髪を整えていると、再び携帯が鳴った。

「ごめん。ちょっとドア開けてくれる?」

「うん、分かった」

 小走りで玄関に向かい扉を開けるが、ユウジはいない。

「ユウジ?」

「下だよ。下」

 玄関を出て、手すりから道路を見下ろす。

「ちょっと……なにやってるの」

 近所迷惑にならないように、サキは必死に笑いを堪えながら電話越しに囁く。

 電柱の明かりの下にサンタクロースの格好をしたユウジが立っていた。

 ユウジが大声で叫ぶ。

「メリークリスマス」

「今何時だと思ってるの」

 怒るフリをしながらも、サキの顔はほころぶ。嬉しさを抑えきれず、ユウジの元へ駆け出した。

「ユウジがこんなことするなんて驚いた」

「いや……俺も驚いた」

「なにそれ」

 と言って、二人で笑う。

「おしゃれな店のじゃなくて悪いけど」

 そっけなく差し出したその手にはコンビニの袋が握られていた。サキは中をのぞく。

「ケーキ、買ってきてくれたの?嬉しい。すごく、すっごく嬉しい。ありがとう」

『グウゥゥゥ』

 サキのお腹が盛大な音を立てる。

「おでんの方が良かったか?」

 ユウジが意地悪そうに笑う。

「だって、晩御飯食べてないんだもん。お腹ペコペコなんだから仕方ないでしょ」

 顔を真っ赤にして必死に説明するサキの頭にユウジはそっと手を乗せた。

「いつも寂しい思いさせてごめん」

 その優しい眼差しと言葉に、時が止まったかのように吸い込まれる。

 10歳年上のユウジはいつもクールで大人びていて、一生懸命背伸びして大人の女性のフリをしていた。自分の心がほどけていくのを感じ、サキは瞼いっぱいに涙をにじませ言葉を探す。だが、言葉を発するよりも先に、鼻水が垂れる。

「本当面白いヤツだな。早く部屋に帰って、ケーキ食べるぞ」

 部屋に帰ろうとするユウジを追いかけそっと手を握り、サキは喜びをかみしめながら歩いた。
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