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1章 

14芽‘頼みの綱は

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 これが全ての始まり。

 目を開けるとバルコニーから差し込む太陽の光に目を隠しながら起き上がる今日は生を謳歌おうかできる最後の日。ヒュドールの事だから最後の最後まで稽古をさせられるのかと思っていたがこの数日のんびりと過ごせている。アニスと交わしたあの日魔法やリゲイトの代わりに力を見せなければ殺されてしまう。だがこの世界の人間でもない俺があらがったても仕方がないそう思っていたんだけどな、

 コンコンコン

 扉を叩く音が聞こえたので翔はベットから起き上がりそのままその音のなる場所まで足を運ぶと扉を開けた。

 「おはようございます!勇者様!」

 その扉を開けた先に立っていたのは先日翔の貴重な休日を共にしたアビケの姿があった。

 「先日は申し訳ございませんでした!!!」

 「うるさいよ。何だよ急に人の部屋に来て土下座なんかするなよ。」

 その小さな体で地面にひれ伏すアビケはびくとも動かない。

 「あー、もう分かったよ。ってゆうかアビケも悪い事なんてしてるわけじゃないんだからこの国のルールを守っただけだろ?だから頭をあげてくれ朝から気分が悪いよまったく。」

 アビケはゆっくりとその重い腰を上げとると話し出す。

 「先日の一件からわからなくなってしまいました。この国のルールが全て正しいのか果たしてあの可弱い少女に剣を向けて良かったのかとあろうことか私が尊敬しているあなた様にも剣を向けてしまう形になってしまいました。私は何を信じたらいいのかと、」

 「何をってこの国の王様の言う事を信じたらいいんじゃないのか?」
 
 「それは‥‥‥」

 「じゃあアビケが崇高する俺の言う事を全て信じるのか?」

 「それは‥‥‥」

 この狭くもなく広くもない部屋で沈黙が顔を出す。
 
 「わからないだろ?なら自分を信じたらいいさ、どうせみな他人さそんな奴らの言うことにしたがって群れてしがみついたってラチが開かない。いつだって独りだ、だからこそ自分を信じてあげたらいいんじゃないか?」

 その言葉を聞きアビケの目は色を取り戻していくと、姿勢を整えて翔の目の前まで駆け寄ると

 「そうですね!では私自身を信じる事にします!と言う事で私は考えたんです。」

 「何だよ。近いってもうキスする距離だよ。全く。離れろって」
 
 自分自身で考えて決める事を立派な事だがこの流れは嫌な予感がする。頼むから面倒な事は言わないでくれよ。

 「あなた様が使うあの特別な力を私奴わたくしめにもご指導願いたい!!」

 あぁ、予知能力でもあるのかもな俺は特別だなんてたいそうなもんでもないし、

 「アビケには剣があるんだろう?腐ってもこの国の王国騎士団なんだから、わざわざこんな‥‥」
 
 「剣を握れないんです。私は」

 「そうか!なら指導してやろうではないか!」

 笑顔でそう答える翔を疑問を浮かべる顔つきのアビケ

 「理由は聞かないのですか?」

 「理由?何だっていいよ。そんな事。めんどくさい」

 アビケはその顔つきのまま「変わった人ですね」と呟くと

 「誰にだって向き不向きがある。この世界にとっては当たり前のことができない奴だっている。‥‥そんな不器用な人間を俺は知ってるからな」

 そのまま翔はアビケを手招きすると自身の部屋にあるソファーに座らせる。

 「さて、じゃあ何から教えようかな。教えてあげる事なんてそんなにないんだけど。」

 頭を抱える翔の前で座り込むアビケは目を輝かせ見つめていると。

 「そういえば、今日はヒュードルさんとの稽古は大丈夫なんですか?」

 「あぁ、大丈夫だと思う。」

 昨日から俺は稽古などしていない、ヒュードルを昨日から見ていないのだ。どこで何をしているんだ?どうせまた剣でも降っているのだろうけど

 考え事をしている翔にアビケは何かを思い出したように手を叩くと地蔵とかした翔に声をかける。

 「なら!今日は私がこの国を案内させていただきます!この前の無礼もありますし!」

 「はは、人気者だな俺は。」

 扉の向こうから少し早めの足踏みの音がかすかに耳から入り込んでくる。

 「残念だけど、先約がいるんだ。」

 「え?」

 「おはようございます!!翔さん!」

 扉の向こうから勢いよく出てきたのは、その長く艶のある白い髪の毛を結滞な紙紐で結んだ美女がやってきた。

 「えぇ!!ヘレン様!」

 驚いて腰を抜かすアビケを不思議な顔で見つめるヘレンとベットで胡座あぐらをかいている翔。

 「今日はヘレンとこの国を回る約束をしてたんだすまんな。それはそうと何を教えようか?」

 頭を捻ってベットの上で考えている翔にヘレンは自然に横に座ると

 「何かしていたのですか?お邪魔なら引きますが‥‥」

 「いやいや、大丈夫。アビケにも合気道を教えようと思って何を教えたらいいのかと。んんーー」

 「では、最初に教えてもらった瞑想からやってはどうでしょうか?」

 何の躊躇もなく喋る2人に口をポカンと開けたままじっと見つめているアビケ

 「あー、あれか。じゃあ早速やってみるかアビケ?」

 え?はぁ、と何もわからないままアビケはその『瞑想』と言うものをする事に

 翔に言われるままその2人ほど座れるソファに靴を脱ぎ胡座を掻き、翔とヘレンを真似るように目を瞑るも‥‥何も起こらない。

 「これの何の意味が‥‥‥‥って、あれ?」

 先程まで呑気な顔をして座っていた翔も笑顔で喋るヘレンもただ無心で目を閉じている。先程まで窓際から流れ込む風は止み、この部屋一帯が無音になる。手を叩くも反響すらしない。アビケがその光景に気付くのにはそう時間は掛からなかった。気を取り戻して同じ事を見様見真似するも、何も起こらない。

 ただ一つだけ確かなことがあった。

 目の前にいる二人は自分とは何か違う存在、人間に近い何か。胡座をかく女性も去る事ながら美しい風体。ただそれより異様な空気を放ち重く、目の前に座るのは翔のはず目線は余り変わらない筈なのに見上げる程の大きな何か、飲み込まれてしまいそうになる、それが額から出る汗が物語っている。

 「よしっ」
 「ふぅぅ」

 二人が同時に瞑想を終えたのか呼吸を漏らすと

 「ん?黒?白?何色だアビケは?」

 「翔さんは見えるのですね。私にはまだ何も見えないですと言うより翔さんの色が強すぎて、ふふふ」

 いつも通りの手順で精神統一をしてみたもののアビケからはうっすらでしか色が認識出来なかった。黒の様な、でも少し白色にも見える湯気の様なものが体から流れている。ヒュードルもヘレンもしっかり見えるんだけどな。‥‥

 「ごちゃごちゃしてるな。アビケは」

 「唐突なダメ出し!」

 アビケは膝から崩れ落ちてしまう。

 「アビケさんは何か見えましたか?」

 何か?と言いながら周りをキョロキョロする。それもそのはず前にいる理解不能な会話をしている二人は以前と変わらずそのまま周りでは一度止まったのかと思ってしまった空間も今は全て元通りである。

 「やっぱりそうだよな。それが普通だから大丈夫だよ。ヘレンが少し変わってるだけいい意味でな。」
 
 横ではヘレンが自慢げな顔をしているとアビケは気になっていた事を聞いてみる。
 
 「お二人様は御知り合いだったのでしょうか?」

 「いいや」
 「いいえ」

 ん?と困惑しているアビケ

 「どういったご関係で?」
 
 さっきから何が聞きたいんだ?アビケははっきりと聞けばいいものを見たらわかるだろ。友達だろ?普通に考えて
 
 「まぁ友達かな」
 「お師匠様です!!」

 「ん?」

 被らせて喋る2人、状況が飲み込めないでいるアビケと思っていた言葉ではないものが一つ飛び交い聞き返してしまう翔。

 いつ俺はヘレンの師匠になったんだ。そんな覚えもないし、

 「と言うことは僕と同じですね!ヘレン様!」
 
 何がだよ。いつお前まで弟子になってんだよ。言ったか俺?お前を俺の弟子にする!なんてそれに俺が誰かの目標になるなんて柄じゃない。正直に言ってやめてほしいところだ。

 「あら。アビケさんでしたっけ?ではあなた様は2番目ですね。」

 ニッコリと微笑みながらアビケにそう放つヘレン。

 「ぐぬぬぬ、ですが私は先日翔さんとこの国を二人で回っておりしたからね~」

 自慢げに語るアビケ

 「ふふ、そんな事ですか。それなら私は今日翔さんとこの国を回るので一緒ですね。」

 ヘレンも同じ顔つきでその言葉を返す

 「いやでもでも——————」
 「それなら私も——————」

 ああ、何で騒がしくなってるんだ?さっき俺は起きたところだぞまったく。俺の周りには騒がしい奴らしか集まらないのか?

 そう思っている翔に追い討ちを開ける様にすごい勢いで足音が聞こえてくると同時に

 「翔くん!!!煙草を俺に恵んでくれぇぇ」

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは目の下に隈を作ったルドルスであった。

 「おはようもなしかよ」

 この小さくも大きくもない部屋で個々に大声を挙げては主張するもの笑っているもの懇願してくる者どれもが騒がしく耳が痛くなるものであったがそう思ってる本人はと言うと。

 「あー!うるさいなぁ。」

 口ではそういっているものの彼の顔は自然な笑顔が出来上がっていた。

 
 短い間ではあるけど随分と顔見知りができた。みんな曲者揃いだけど。それにうるさいしでも


 でも‥‥悪くない。

 
 「アビケ!最後に一つだけ教えとくよ」
  
 「はい!何でしょうか?」


 
 ——————————————————



 このレンガの道、いつもとは違い上を見上げるときらびやかにほどこされた飾りに周りでは屋台が立ち並ぶ行き交う大勢の人間に、笑い合う子供たち。今日はこのスイレ王国の国王であるレカン=スイレ=セドウス国王殿下の誕生祭である。

 「今日は本当に賑やかだな。」
 「仕方ありませんよ。王様の誕生日ですから」
 
 そんな人混みに紛れ込み肩を並べて歩く翔とヘレン。

 「ヘレンが住む国でもこんな事してるのか、たかが誕生日だぞ?」
 「私の住むフリーシア王国でも誕生祭とゆうものはありますが、知人だけを招待して場内で軽い招宴をあげておしまいですから。ここまで
大勢の人間がいやこの国の民の皆さんがこうやってお祝いするのは聞いたことがありません」
 「まぁ祭り事が好きなのかね。悪い事じゃないし。いいか!」
 
 それはそうと!と言いながらヘレンは目を輝かせて翔に

 「これはどこに向かっているのですか?」
 「ん?あぁ本当は花を見て終わりにしたかったんだけど、生きれるかもしれないからな。なら!この世界について少しは勉強しないとな」
 
 アニスとの約束、9日前この場所に呼ばれ俺は勇者では無かった。当然だ。ならば元いた場所に戻してくれるのなら話は早かったのだが戻せないらしいと言うより元いた世界では死んだかもしれないのだから戻ると言う選択肢もないのだけど、色々と言われた後挙げ句の果てには殺されかけた。ヒュドールのおかげで少しの猶予をくれたのだ。何か特別な力をアニスに見せつければ生かせしてくれると。

 正直に言って不可能に近い。この世界での大事な魔法、剣術そしてリゲイト何も持ち合わせていないのだ。‥‥諦めたよ。本当に諦めた。そっちの方が楽だし、でも‥‥でも

 「何か私の顔についてますか?」

 笑顔でそう答えるヘレンをじっと見つめる翔。
 
 「いいや、何も‥‥考え事。」

 ?、首を傾げているヘレンを横切る様に大勢の人間が歓喜をあらわにしている。

 「王様!!」
 「王様だ!かっこいい!!」
 「やはりこの国の王様は格が違うよな。」

 後ろでは大きな馬車に乗り、ふんぞり返って座っているセドウスの姿。満更でもない笑みを浮かべ高笑いし、偉そうに手を振っている。その横ではアニスが立っており何か口をモゴモゴと動かしている。

 頭でもやられたのか?あんな奴のどこがいいんだよ。大丈夫か?この国は?

 アニスがパンパンと手を鳴らす芯が通った声量で、

 「これはこれは!この国の勇者様ではありませんか!」

 大勢の兵士を引き連れてこちらに不適な笑顔でやってきては、余計な事ばかりを話す。その勇者とゆう言葉が耳に入ってしまったのか周りを囲む民主が

 「え?勇者様?」
 「この国に勇者様がいたのか?」
 「そんな話聞いた事ないけど?」

 困惑の渦である。

 「おっとと、失礼致しました。私とした事が先日、私たちは勇者の召喚に成功いたしました。そして何とこの国を守っていただけると!!」

 「まじかよ!すげぇぇ」
 「あの黒い髪の男の人が勇者様何だよな。」
 「どんな魔法使うんだろ?リゲイトも気になるな~」
 「それに見てみろよ!横にいるのってフリーシア王国の!?」

 次第にその空虚な戯言が街全体を染めていく。周りからは賞賛の嵐である。何も力など持っていない何の取り柄もない自分に「勇者」とゆう嘘の肩書を着せらては、周りの大人たちは憧れの眼差しと握手を求めてくるもので絶えない。こんなに虚しいことなどない。

 周りを囲む大人達でヘレンとはぐれてしまう。「キャ!!」とゆうヘレンの叫び声だけが聞こえてくるが視界には映らない。見当たらないのだ。それまでに人が群がり過ぎている

 かき分けようとするも次から次へと寄ってくるのだ。そんな時。

 「コッラァァァァ!アンタ達そんな道のど真ん中で何してんだよ!通れないだろ!!!オッラァァァァ!!」

 その人混みの中、声の主は場所を引いて怒鳴りながらこちらに衝突する勢い

 「うぁぁ!!引かれる!」
 「にげろにげろ!!」

 衝突ギリギリの寸前で急ブレーキをかけると群がっていた人の波は次第に消えていく。やっとの思いで立つ事に成功すると倒れかかったヘレンの元へと詰めるよ。

 「大丈夫か?」
 「いえいえ。お気になさらず怪我はないですよ。」

 ニコッと笑っているものの先ほどまで髪をくくっていた髪紐が詰め寄る人間に巻き込まれてキレてしまったのか長い髪の毛が解けてしまっている。

 「仕方がないです。古いものですから」

 彼女は切れた髪紐を手に持ち悲しそうに眺めている。

 「あんた達大丈夫だったかい?ほんといい大人が何をしてるのかと思えば、ったく、‥‥ハァァ」

 先ほど怒鳴りを挙げて馬車で突っ込んできた女性の姿がそこにはあった。こちらの女性も髪は長く目はあまり見ることのない赤い色をしているもののその空の様な青さをした髪の毛から目が離せないでいる翔。

 「アンタも男ならしっかりと女の子の手を掴んでおく事だね。カッカカ!」
 
 「説教をありがとよ。」

 その女性は下品な笑い方をしてるがその目は悲しそうに髪紐を眺めている女性へと視線が向く。

 「お嬢ちゃん。それは大切なものだったんだね。」

 座り込んでいるヘレンの横へと寄っていくと同じ高さになる様に腰を下げる。

 「すごい使い込んだね。私は見たらわかるよそれぐらいの愛を私は感じた‥‥‥そうだ!これでも食べな」
 
 彼女はそうゆうと馬車に戻るとその後ろにある荷台からあるものを取り出し綺麗に磨きヘレンに差し出した。

 「これは‥‥‥?」

 「これかい?これはね私が畑で作っている梨だよ。食べてみな」

 「!?美味しい!」

 彼女は少しではあるが笑顔を取り戻していく。

 「美味いものを食えば大抵は元気になるからね。人間は単純さ!カッカカカ!」

 その光景を横で見ている翔は腹を鳴らしてしまう。起きてから今まで何も口に運んでいないのだ。そして翔の好物である梨が目の前にあるとゆう事ならば腹がなって当然の摂理だろう。

 「腹減ってんのかい?」

 「あぁ、だいぶ。金貨を払うから俺にもくれないか?」

 彼女は笑いながら「これも何かの縁だよ」と言いながら馬車から梨を一つ投げてきた。

 「いいのかよ?」

 「いいさいいさ!あんた勇者なんだろ?宣伝にもなるだろうし、勇者がうまいと言った梨!共なれば大繁盛よ。」

 じゃあ。と言いながら彼もその梨を口に運ぶ

 「アンタ名前は?」

 「俺か?俺は翔だ。よろしく」

 彼女は翔に名を聞くとゆっくりと馬車に戻り

 「私の名前はシフォン。またどっかであったらよろしくね。」
 
 シフォンはそうゆうと馬を叩きそそくさとこの場所を後にした。

 その光景を眺めていたこの国の王様セドウスは頭を真っ赤にして

 「ムキー!!何だあの女は私が通る道を断りもなしに突っ切るとは奴を捉えて打首だぁ!!」

 まぁまぁと宥めながらアニス

 「いずれ殺しますから。今日は楽しみましょう陛下。」

 沸点が低すぎる人間と物騒すぎる人間の会話を聞いていると笑けてくる。と言うより俺らもこの場所から少し離れよう。またさっきみたいになられても困るしな

 「ヘレン!!」
 「え!?」

 翔がそう言い放つと彼女の手を取り走り出す。走っている最中彼女の手は熱くそして下を向いたままである。

 離れた距離まで走って来るとようやく足を止めて後ろを振り向くとヘレンは息を切らしていた。

 「すまんすまん!大丈夫か?」

 「翔さんは体力がすごいのですね。あと‥‥」

 「ん?」
 
 手を握ったままである。翔自身も慣れていない、女性と手を繋いだことなど無かったため我に帰るとあたふたとしてしまっている。彼女の方はと言うとずっと顔が赤いままである。そんな二人があの大通りから抜けてきたのは以前アビケに連れて行かされそうになっていた図書館が近くにある噴水広場までやってきたのだ。やはり人は多いものを先ほどではない。

 「この人の量なら安心だな。」
 
 「‥‥そうですね。」

 少し二人は不思議な感情によって支配されている中。

 「にぃちゃん!何だい?デートかい?羨ましいなぁこの野郎!よかったらそのお嬢様にプレゼントでもどうかな?」

 雑貨を並べている屋台の男が声をかけてきた。

 ったく何だよ。もっと呼ぶ言葉ならいくらでもあっただろうにヘレンも大丈夫か?こんな俺が彼氏だなんて見られて機嫌を損ねていないかな。

 彼女はまた下を向いてしまっている

 あぁ、ほらだから言ったじゃないかこやハゲタコは何してくれてんだよ。ってあれ?

 「これは?」

 翔が何かに気になり手に取ると

 「にぃちゃんお目が高いね。それはね不思議な花の茎で編み込まれて作られた髪紐だよ。」

 綺麗な黄色いをした髪紐だ。しかも花で作られたなんて花好きのヘレンにもってこいじゃないか?機嫌を損ねてしまったお礼にプレゼントでもしてやろうかな

 「ったく。商売上手だよアンタは」

 「へへ、褒め言葉だな!毎度あり!」

 翔はヘレンの後ろに立つと「ちょっと動かないでね」と言いその長い髪の毛を研ぎ綺麗に一纏めにする。

 「これは?」

 「さっきので髪紐切れただろ?俺のせいでもあるしな。プレゼントだ」

 「嬉しい。ありがとうございます」

 今までにないほどに満遍な笑顔を見せられた翔は胸がグッと締め付けられる感覚に陥ってしまう。

 「似合っていますか?」

 彼女はご機嫌に聞いて来る。

 「あぁ似合ってるよ。じゃあそろそろ行こうか」

 二人はゆっくりな足並みで図書館へ向かう途中。

 「そういえばこの世界の事を知りたいとおっしゃっていましたよね?」

 「ん?あぁそうだけど。」

 「なら!髪紐のお礼に私がこの世界に伝わる昔話を教えてあげましょう!」

 「はは、じゃあ頼むよ。」

 彼女はご機嫌斜めで指を縦に振りながら口を開ける。

 「昔々、この場所はあたり一体を埋め尽くす程の無色な花たちが存在していました。」

 ヘレンは笑顔で語り続ける。

 「そんなこの世界に、何とある一匹の‥‥‥」

 
 (ドカァァァァーーン!!!!!!!!)


 彼女の声を遮るように後ろの方で爆発音が聞こえた瞬間、その方角から爆風と共に翔とヘレンは飛ばされてしまう。

 「キャァァァ!!」

 「何なんだ!!」

 尻餅をついてしまった翔。空から何かを感じ取り見上げると無数の火が空から降り注いでくる。この国信と全てを覆う様に小さな火の玉が降り注ぐと落下した直後その火の玉は爆発を起こす。その爆発の威力と風圧で翔はまたもや飛ばされてしまうと。

 「翔さんはここにいてください!!私は少し彼方を見てきます!」

 「え?あぁ」

 ヘレンはそうゆうと腰に入れていた剣を抜くと大きな爆発が起きた方角へと走り出していってしまった。取り残された翔はと言うと

 「クッソ、何がどうなってるんだよ。」

 腰が抜けて立つのに苦労するもやっとの思いで立ち上がると。そこには先ほどの春先に浮かれた風景など何処にもなく。目の前に映る光景家は崩れ、あたり一体は炎に包まれ空を見上げると火の雨が降り注ぐ事と人が叫び声助けを呼ぶ声で蹂躙している。

 「何だよ‥‥これ‥何なんだよ」

 息が上がっているのがわかる。元いた世界でなど見た事がない光景。まさに地獄。今も尚降り注ぐ日の雨が地面にあたり爆発を繰り返している。当たれば即死であろう

 「クソ。俺も逃げないとな。どこに逃げる?逃げ場なんてあるのか?あぁぁもういいとりあえず走るか!」

 運がいい事に彼が走る道には丁度その爆発する火は降って来ず無事走れているものの

 「きぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 「助けてくれ!!死にたくない!!」
 「パパァァァ!!」

 どこからともなく叫び声に助けを求める声が聞こえて来る。

 何がどうなってるんだよ。意味がわからない本当に敵国が攻めてきたのか?ヒュドールが言っていた事が本当なら攻撃されのはおかしはずだけど一帯全体どう何ってんだよ。と言うよりヒュドールはどこに行ったんだ?王国騎士は何をしてるんだよ。国の危機じゃないのか?とりあえずヘレンが向かった方向に向かおう!

 ヘレンが向かっていった方角に走っていると

 「何だよ‥‥‥あれは?」

 彼が見つめる先、それは間違いなく人間としてはおかしな形。どちらかといえば動物に似ている顔つきにツノが2本生えており、爪はそんなもので刺されれば即死であろうと思うほどに鋭く尖った大きな爪。全身は真っ黒で背中には不気味な形をした羽がついている。その化け物目の先には、泣きじゃくる足を汚した少女の姿がそこにはあった。

 「おいおい、何だよ。クソ、クソ!」

 その涙を流す少女と目が合ってしまった。

 「助けてーーー!!」

 この爆発の音にあらゆる人間の叫び声が混在する中、その少女の助けを求める声と泣き声が鮮明に聞こえてくる。

 助けてって言われてもどうやって助ければいいんだよ。見たところ殺されそうになっているのだろうか?でも、でも。どうする?俺は‥‥‥どうしたらいいんだ。助ける?何で?俺がこの世界の人間を助ける義理なんてあるのか?俺は勝手にこの世界に呼ばれたんだぞ?助けて欲しいのは俺の方だ。そうだ‥‥‥そうだよ。




      逃げよう。




 あの女の子に悪いが、あんな所に助けに行ったって無駄死にするだけだ。

 翔はその少女の目を逸らすと目を閉じで走り出す。だが

 俺だって死にたくなた。そうだよ俺はヘレンとの約束もあるんだ。死ぬ訳には行かないんだよ。逃げたっていいじゃないか。生きていれば何度だってやり直しが効くんだ。次から出会う人たちにはあの女の子を見殺しにした事なんて黙っておけばいいじゃないか。相手が知らなければ俺は善人として生きていけるじゃないか。俺だって助けたいさ、でも魔法も使えなければ剣術だってダメダメだ。リゲイトもないし、唯一できる武術だって何の役にも立たないんだ。仕方ないだろ。そうだよ!何にも悪い事なんてしてないんだよ俺は!

 どんなに耳を塞いでも目を閉じていても

 「クソクソクソクソクソォォォォォ!!」

 彼女が涙を流す姿が頭から消えてくれない。彼女が放つ泣き声が耳から離れない。

 走ろうとしていた足はいつの間にか止まっている。

 はは、あの世界にいた時の自分が今の俺を見たらどんな表情するだろうな。滑稽だよな。つくづく思うよほんと俺は頭が悪いくせして言い訳を吐く時だけは、頭の回転が何倍も早くなる。はぁぁ、そういえば‥‥えー、敦紫!アイツはちゃんと助けれたのかな?それに‥‥結朱華と‥‥‥零花ちゃんは無事かな?ちゃんと俺は役に立てたのかな?

 こんな時に何を考えてんだよ俺は!クッソォ大事なことを忘れていたよ。どうせ俺はあの時一回死んだんだ。ならもう怖がる事なんて一つもないよなここは死んだ後の世界なのかもれないし、前の世界よりかは随分と居心地が良かった。天国だったのかもな。ならば同じ事だ

 
 ———————————————

 
 その建物は焼き崩れバタバタと倒れていく中、一人の少女が泣いている。そんな少女の目の前に立つのは巨大な体の羊の様な顔をした化け物その大きな腕を上げて今尚すぐにでもその鋭い爪が彼女の頭上から振り下ろされそうになる瞬間

 「おら!!こっちだこっち」

 ある一人の青年がその化け物に石を投げつけた途端

 「ぶぉぉぉーーーん」と雄叫びを上げながらこちらに猛突進して来るではないか。

 「ほら!今のうちだ早く逃げろ!!」

 彼女は涙を拭くと足を引きずりながらも逃げていった。

 はは、助ける事はできたけどどうするよあれ?間違いなく人間じゃないよね絶対に死んだよね俺は

 そんな事知る由もない化け物は、ものすごい勢いで翔の方に迫っていく。

 よし、俺はお前の事など知らない。お前にも何かあるのかもしれない理由なんてなくこんなことをやってるなどとは思いたくない。だが俺は死にたくないないんでね。今からやる事がお前にも通用するかは知らない。

 自身の身長の三倍はある化け物は唸りをあげて爪を立てこちらに突進して来る。

 ここでお前を倒して、この状況を何とかすれば生きれるかもしれない。あの日この世界に呼ばれた日勇者ではなかった。でも勇者に今なれるかもしれない。甘い考えなのは重々承知の上だ。でも今できる事を全力で本気でするつもりだ。今まで散々連れ添ってきては嫌っていた合気道に縋ってみようと思う。

 「はは。来いよ!俺はさっきの女の子とは一味違うぞ!」

 もうそこまでやって来る化け物。その鋭い爪は彼の額を貫かんとする距離まで近ずく、その瞬間‥‥翔は深呼吸をし、


   目を閉じた。

 

 

  

 
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随時連載予定 台湾の世界的人気女優 蔡志玲(サイ チーリン)はあることがきっかけで芸能界から姿を消す。 逃避行の末辿りついたのは日本最西端の島 与那国島から程近い「美波間島」という孤島であった。 チーリンはそこで震災で妻子を亡くした真田諒太と出会う。 島で暮らす個性豊かな人々との触れ合いでチーリンは徐々に変わってゆく。 厳しい孤島の環境の中で人間が生きるということ、そして人生の終わりに行き着く先… 絆…友情…親子の愛…男と女の真実の愛… そして島に迫る大きな黒い力。 チーリンと諒太に立ちはだかる試練… 二人の恋の行方はどうなってしまうのか? 美しい海を舞台に繰り広げられる長編恋愛小説

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