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プロローグ  お花しの種

3種’必然とその光景

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 「敦紫!わりぃ俺煙草!結朱華を見といてやってくれ!」
 君は煙草じゃ無いだろ。少し言葉が足りないんだよな、翔はいつも
 「あぁ!」
 彼はそう返事し、物静かになった部屋に1人の青年と目を閉じて寝ている女性の姿がそこにはある。そこでふと部屋の電球が一つ消えている事がわかり、周りを見渡すと、先程とは打って変わって動物園の様な騒々しさは、まるで無い。ベットの横には本棚がありそれを敦紫は徐《おもむ》ろに手に取り、読み出した。
 

 どれくらい経っただろう。天上の陽は以前と真上にいる、先程読み進めていた本も余り頭に入ってこない、翔が居ないと本当に暇だなぁ。敦紫はベットに肘を置きその手に顔を乗せながら
 「結朱華もまだ眠ったまんまだし、君の大好きな翔君が来たってゆうのに‥‥‥」
 少し口角を上げながら返答がないのを知っている上で、彼女に声を掛けてみる。予想通り応答はない。飛び上がって起きると思ったのに、残念。手に持っていた本を閉じ本棚に直す際少し揺れ上に置いてある花の飾り物が動く、窓越しから下を眺めてみる。この病院の外には少し大きな庭があるのだ。そこに沢山の花があり翔はいつもその庭を見ると目を輝かせている。僕はと言うと花が沢山あるな‥‥その程度だ。人それぞれ価値観あるのだ仕方がない。それなのに翔は、喉がカラカラになる程に‥早口過ぎて聞いている僕は聞き取れない程、どうしても自分の好きな物を語りたい彼を見て‥‥僕はまた笑ってしまう。
 「あれ、あそこにいるのって」
 庭の前に煙草を咥えたまま仁王立ちしている青年の姿がある。この景色を見出した途端、目の形相を変えて言葉責めしてくる彼の姿だった。何であんな固まってるのだろう?そう彼を観察していると。
 「あ、やっと歩き出した、戻ってくるのかな。え?」
 彼はこの病院の入り口ではなく先程見ていた方角に歩み進める。その先には、花が沢山咲いている庭園がある場所だ。この前彼が夜になっても居座るから先生が入り口の小さな門に鍵を閉めたと言う話を翔に聞いたことがある。ただし彼の先は門ではなく柵を飛び越える勢いでそのまま真っ直ぐ歩いている。遂には飛び越えてしまった。
 「あーあ、やっちゃったまた先生に怒られるね」
 そんなに気になる物があったのかな?そんなに綺麗な花が?翔が見ている方角の先を同じ様に見たいのだが、丁度そこには大きな樹木があり何も見えない。翔も前ばかり見て歩いていると花を踏んでしまうんじゃないのか?それに気付き翔が歩《あゆみ》終えた後を凝視するも何一つ花は無傷だ。
 「ハハハハ!どう言う芸当なんだよ。前しか向いていないのに」
 正直、翔が綺麗に花を避けているのではなく、花が道を譲ってる様にも見える。また一本取られたよ。そんな事を思いながら翔を目で追っていると先程の樹木に翔が隠れてしまう。そして後ろではベットが揺れる音がした。
 「あれ‥‥‥ここは?うぅ‥痛い。」
 頭を抱えながら赤い瞳を開け天井を見つめている結朱華に、本棚の上に飾られて傾いている黄色い花を直して、座れば音を立てる年季が入った椅子に腰をかけると敦紫はニコッと口角を上げながら声を掛けてみる。
 「あはよ。ここは病院だよ。ぐっすり眠れたかい?」


 彼の時間は少しだけ止まったかの様に動かない、見つめる先は一面に咲く花たちより一際目立っている少女を、もう少し‥もう少しだけ近くで見てみたい、彼は無我夢中で歩みを進める煙草の火は消えシケモクとなっている事にする気づかない。そうするとその少女は気配に気付きこちらと目が合う、その少女の顔は少し驚いた様子をしていた。
 「あの‥‥」
 「あぁ、すまん怪しいやつじゃないんだ」
 口元を開いたせいで、咥えていた火が消えた煙草を地に落としてしまう。その煙草を見て気が付く、しまった怪しい物じゃないなんて、怪しい物が言うセリフじゃないかそれに、直線でここまで来たと言うことは、庭の花がぐちゃぐちゃじゃないか、怪しい物と言うか、もう犯罪者じゃないか!翔は急いで後ろを振り向く
 「あれ‥‥‥何とも‥‥なってない?」
 庭に目をやるが、先程と何ら変わりない様に花が風に揺られ笑顔を向けてくる。通った形跡すらない、じゃあ俺はどうやってここまで来たんだ。遠回りして来たのか?いやありえないこの時間は俺がすぐ忍び込むから先生が門の鍵を閉めたのだ正規では入れるわけがない。じゃあ空を駆けて来たのか俺は、そう思うと翔は徐にその場でピョンピョンと飛び跳ねてみるも浮かない。浮けるはずがない、そんな事知ってるよ、気になっただけだし。
 「あの‥‥‥」
 微かな声が聞こえまた後ろを振り向くと少女がポカンとしたまま座っている。やってしまった!怪しい物じゃないとか言っておいて名も名乗らず目の前で無心にジャンプしておいて、鍵が閉まっているこの庭に侵入してもうただの変質者じゃないか!‥‥鍵が閉まってるのに?あれ
 「大丈夫ですか?」
 それはどっちの意味だろ?頭がかな‥‥
 「ごめんごめん、急にびっくりしたよな。俺は羊に羽と書いて翔ってゆうだ、君は?」
 「‥‥私は零花‥‥‥ゆきみ れいかです。」
 そうか名前に雪が付くのかやはり俺の感性は正しいな、まったくおれを天才と言ってくれて構わないぞ、何かが腑に落ちたのか翔は首を上下に振りふむふむと口ずさむ。少女はそれをまた眺めている。
 「‥で、君は何故ここに?この時間は確か誰かが入り込んで出て行かなくなるから鍵を閉められている筈何だが?」
 彼女は俯き小声で話す
 「えっと‥‥その‥‥アレです!‥‥鍵がたまたま開いていまして!」

 ———私はまた何かに怯えて嘘を吐く———


 「あー、そうなのか!ラッキーだったな君は!」
 「私は、花が好きなのでこうやってたまに病室を出てここに来ているんです。」
 「何!君も花が好きなのかね!そうかそうか、ここは良いよな」
 そのセリフを聞いた途端、翔は淡々と口を動かしながら零花の座るベンチには空きがあるので自然に横に座ると、謳い出す。
 「零花ちゃんはどんな花が好きなんだい?俺はねぇ‥‥‥」
 一輪の花に指を刺しながら上機嫌に話す彼を横目で見ながら零花は疑問を問いかける。 
 「翔さんは、可笑しいと思わないのですか?」
 翔は、指を止め口を止め疑問を疑問で返す。
 「え、何が?」
 「いえ、この髪の毛の色を‥私は生まれつき髪が白いんです。だから周りの人間は、怖いだの、髪を染めていきがってるだの、呪われてるだの‥‥呪いなんてそんな物この世にあるわけがないのに‥‥ちょっと人と違う髪の色をしてるだけなのに‥‥‥」
 彼女は、少し怒った表情にも、悲しい表情にも見れる顔つきで下ろしている両の手は、拳を握りしめて微かに震動している。下に目をやりながら翔は謳ってみせる。 
 「え、何、白いだけじゃん、俺は綺麗だと思ったよその髪の毛。俺を見てみろよ。黒か茶色かわかんない様な色をしている髪の毛を‥‥」
 笑いながら喋りながら彼は話す。
 「うちの婆ちゃんが言ってたんだ‥‥人の些細な違いを否定の対象にするなど言語道断!ってな‥だからさ言ってやれそんなアホみたいな‥‥クソみたいな奴らには‥‥‥クソがお似合いだ!って」
 そう告げた後、2人の間には下から抉《えぐ》る様な大きな風が吹いてきた。椅子の周りに咲いてある小さな花は宙を舞い、どこか遠くに飛んで行ってしまうほどの風。翔の前髪は顔を振っても上を向いたまま降りてこない。まぁいっか。どうせそんな変わらないだろうし、それに零花の瞳は少し会った時より色付いている。‥‥でも何故だろうな自分が虚しくなる。


 ———自分は言えないくせに自分の事を棚に上げて淡々と語る自分に怒りすら覚える———


 そう思うと徐に煙草を探してしまう。駄目だ駄目だ、こんな少女の前で煙草を吸うなど、この服装を見るからに患者さんだろそれにこんな女の子の前で副流煙なんて吐けるか、とゆうかここは病院だから煙草を咥えて歩いているのがバレたら雷を落とされる。てか歳はいくつなんだろう?気になるな、
 「君は何歳?」
 「私ですか、女性に訊きますか?普通?」
 「え?」
 「もう良いです。24歳ですよ私は」
 「‥‥‥え、‥‥‥‥‥えええぇぇぇ!!」
 いや嘘だろ、24歳だと?てっきり俺は高校生ぐらいだと思っていた。しかも年上じゃんさっきなんか偉そうな事言ってなかった俺、先輩に向かってやばいじゃん、それもそうなのか言われてみれば話し方にも落ち着きがあったし、嘘を言っている様な顔つきでもない。翔は地面に頭を擦り付けて跪《ひざまず》く
 「すいやせんでした!!!俺23っす!!」
 「良いよ良いよ頭上げて、別に歳がそんなに離れてる訳じゃないしこう言うことよくあるから慣れてるよ‥‥‥‥それに‥‥‥‥これが最後の私の歳、貴方にはすぐ追い抜かれてしまうから‥」
 「ん?」
 最後何か言っていた様な気がしたのだが小声でしかも俺の周りにはいつも大事な時に限って強い風がふくのだ。その風の音で聞き取れなかった、嫌われてる?俺。気になり彼女に聞き直そうとするも何か凄い勢いで足音が聞こえてくる。
 「コッラァァァァ!また入ったな!翔くん!!」
 少し焦って何かに怯えている?様子で走ってくるのは、いつかの俺が結朱華の病室で殺してしまった先生ではないか。仕方がないがここで捕まる訳にはいかないんだよ、
 「先生には悪いけど」
 翔はそうゆうと、座っていたベンチから立ち上がり、呼吸を整え左足を数歩後ろに下げながら腰を落とす両手は剣を持つイメージで構える。先生が突っ込んでくる際、翔も右足の親指の付け根に体重を乗っけて前進する。先生ごめんね。って嘘だろ?クソ遅かったか
 「オッラァァァァクソガキ!!その可愛い女の子に何してるだーい!!!そんな犯罪者に育てた覚えはないよ!!」
 そこには、年の功とは思えないほど全力でダッシュしてくる老人の姿。うちの祖母だ、いや違うよなあれは多分鬼だよ鬼、うん、じゃないと説明つかないもんね。ってか何あれ何持ってんのあの人ハリセン?じゃないよね刀!?あれ真剣じゃないよね俺真っ二つにならないよね、まだ死にたくないよ。‥と言うか目の前に走ってくる鬼がいるのだからここは地獄か。
 「アンタは等々やってしまったね、言い訳もつけようがないよこの状況、見てみなそこの女の子の怯える顔を!」
 いや、アンタに怯えてんだよ。冤罪にも程があるぞ。
 「待て待て待て俺はただこの人と‥‥‥」
 その鬼は刀の模型をブンブンと振りまして近寄ってくる。聞く耳を持たない。まったく歳をとると孫が吐く言葉すら届かないなんて、先生も横から応戦してくる。
 「八汐さん?それ私の部屋に飾ってる奴ですよね。何してるんですか?駄目でしょ。」
 「黙っとれ!小僧!!」
 「だから、僕ももう歳です!あとその飾り物返してください」
 デジャブだ。また騒がしくなってるぞ、ちなみに今回は何にも悪いことしてないからね俺、気がつけば何故かその怒りの矛先を変え蛍先生の体をビシバシ叩く祖母の姿。とんだとばっちりだ、見てて呆れるよ。
 「あの‥‥‥」
 小さな妖精の声が聞こえたので後ろを振り向くと、そうだ忘れてた零花さんの事を、
 「ちょっと一回落ち着けよ!」
 「オッラァァァァ」
 「痛い痛い翔くん助けてーー!!」
 やばい収拾がつかなくなってるぞ、そばにいる女性は慌ててその様子を見ている。傍らでは、大人がひと周り年上の大人に滅多打ちにされている。どうしてこうなったんだ。
 「翔ーーー!!!」
 どこからともなく聞こえてくる声にため息を吐く。病院の入り口から走ってくるのは、容姿端麗な青年が笑顔で手を降りながらやってくる。あいつ何で笑ってるんだ、この状況で?やっぱり怖いなあいつ。敦紫が庭園の柵の前までやってくると
 「結朱華が目を覚ましたよーー」
 満遍なく手を降り喋る敦紫。それを聞いてのことかうちの祖母もその手を止めて刀を納めてる。良かった良かった結朱華も起きて、うちの祖母も落ち着いた様だし、蛍先生はとゆうと‥‥大丈夫そうだしまた敦紫に助けられたな、‥‥無力な自分では、この状況を止めることができなかったから‥‥敦紫は続けて喋り続ける。
 「と言うことなので、僕は仕事をやめてきました!!」
 「え?」
 「えぇぇぇぇ!!!!」
 1人を除いてその場にいた全員が一斉に驚いてしまう。ここが外だとは言え病院だと言う事を忘れて
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