テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

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第九章: サバンナ・ハバンナ

第十一話

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「これからどうするんです?」
さっきまで殴り合ってた喧嘩相手が聞いてきた。二人とも倒れて、今は仰向けになっている状態だ。

「これから?」
すっとぼけたような声で俺は返事を返す。

「まさか、神の子を集めてそれで終わりという訳じゃないでしょう?」
カイトは呆れながら言った。少しバカにしてるようにも聞こえる。

「そうだな。まずはトップを変えることだな。ノースエンドにも古風な考えを持ってる奴がいるからな」
俺の返答が意外と真面目だったのか、カイトの目は見開いていた。

「なんだよその反応は」
そう言った直後、後ろで俺を呼ぶ声がした。

その声に反応するかのように、カイトはすくっと立ち上がり、『それでは、またどこかで会いましょう』と言い飛び去って行った。サウス軍の一員として、俺以外のノース軍に顔を合わせたくなかったんだろう。

「ハジメ!大丈夫!?」
倒れたのを心配して、カンナが駆け寄ってきた。ああ、久々にカンナの顔をちゃんと見たような気がする。

栗色の瞳に淡いピンク色の薄い唇、腰まで届きそうな黒い長髪。それを束ねてポニーテールにしている。

やっぱり可愛いわ。俺の彼女が一番だわぁ。

「何まじまじと見てんの?」
流石に見すぎたか。ちょっと引き気味だ。

カンナを見てると、さっきまで敵軍のトップと戦ってたのが嘘みたいに感じる。また一緒に出かけてえな。一回しかちゃんとしたデートしてないからな。

「立てる?」
ああ、立てますとも。違うとこが勃っちゃいそうだけど。って最近忙しすぎて下ネタもあんま考えなくなったな。俺も死後の世界に来てから変わったもんだ。

カンナに引っ張ってもらい立ち上がり、俺は皆んなの下へと向かった。

「お疲れさま、ハジメ君」
「アーロンもな。ビーストと戦ってボロボロじゃねえか。また温泉に入りたいな」
「そうかい?ご希望ならば、丹精込めてクラフトするよ!」

疲れてるだろうに、でもいつものアーロンで少しほっとする。

「あまり下ネタばかり言っているとフラれるぞ」
「心を読むなと言ったろ、ノア」
相変わらず心を読んでくる奴だなコイツは。ってか俺のしか読んでない気がするぞ。差別だろそれ、差別!

ギロッとノアが睨んできたので、俺は脳内で黙った。

バッ。
気付いたらアナとヴァンが抱きついていた。アナはともかく、ヴァンはこういうキャラだったか?

「ハジメ、喧嘩強いんだね!」
「か、カッコよかった、です」

「そうだろー。昔はブイブイ言わせてたからな」
まあ嘘なんだけどな。そうです、俺はただの平凡野郎です。

アナたちの相手をしていると、サバンナが目に入った。

「ちょっといいか、二人とも」
そう言いアナとヴァンから離れると、俺はサバンナの方へと行った。

「ありがとな、助けてくれて」
土色の髪の頭をくしゃくしゃっと撫でた。サバンナは急なことに驚いたのか、叩かれると思ったのか、目をぎゅっと閉じていた。

「ごめんなさい……」
「なんでお前が謝るんだよ」

そう聞くとサバンナの目は潤み始め、大玉の涙が次から次へと流れ出した。

「だって、だって、私があの人を止めれなかったから!止めれなかったからハジメがボロボロになっちゃった!うわああああん」

こんな小さい子にそこまで思わせてしまうとは。完全に俺のせいだ。

「サバンナ。良く聞いてくれ」
俺はサバンナの目線と同じになるよう、跪いた。

「さっき助けてくれたのはとても勇気のいることだ。俺やミナミさん、皆んなを守るためにやってくれたんだろ?」

コクン、とサバンナが頷く。

「だったら誇りを持つんだ。自分がやったことがどんだけ凄いか、自信を持て。そしたらもっと強くなれる」

サバンナに言ってるつもりだったが、自分に言い聞かせてる様に感じた。キルティを守れなかったことに対する自分の行動を正当化しようとしているのだろうか。

「お前は凄い、凄いよ」
またサバンナを撫でたが、今回は目を閉じてなく、しっかりとこっちを見ていた。

全てが終わったと気付いたのか、家からミナミさんとタミさんが出て来た。ミナミさんは他の何にも目もくれず、サバンナの下へと走った。

ボフッと音を立てながら、サバンナの顔はミナミさんの胸に埋もれていった。言葉が無くとも二人はお互いの気持ちを伝えているように見えた。

–––––––––

「それでは行って参ります」
アーロンの声と共に、俺たちはアカツチ村を出た。

ミナミさんとタミさんは悲しそう表情をしていたが、事情を理解してくれたのか悲しさの中に期待や希望の感情が垣間見えた。

一応サウスエンドにいるので警戒を避けるため、最初は陸で移動することにした。

「ノア。最後の神の子についてなんだが」
俺はノアに尋ねた。

「エイプリルのことか。心配は無用。居場所なら把握出来ている。それより、先客が居るみたいだ」

敵かと思ったが、ノアの口調からしてどうやらそうではないらしい。ただ、ノアの表情は強張っていた。

すると前方から一人の影が近付いて来た。その影は少しずつ大きくなり、段々顔が見えるようになったとき、俺は『あっ!』と声を上げた。

そこにいたのは、ノースエンドの伝達係の天使だ。

天使殺しやアナの時もそうだったが、コイツが来るとロクなことが起きない。そしてそれは今回も的中することとなる。

「み、みなさん、急報です」
いつも通り息が上がっている。今度は何だ?でもわざわざサウスエンドまで来るってことは、相当なんだろう。

「コーヘン様が誘拐されました」

伝達係の言葉を聞いた瞬間、一瞬場の空気が凍った。









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