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第九章: サバンナ・ハバンナ

第六話

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サバンナ、ミナミさん、タミさんを家に入れ、良いと言うまで出ないようにと頼んだ。

「ノア、敵は何人だ?」
「今のところ確認出来るのは一人だ」

サウス軍が一人で行動するとは珍しいな。よっぽど強いか、変人かのどっちかだな。

「いや、待て」
ノアの様子がおかしい。いつもの冷静さは無く、見たことのないような物を見たような表情をしている。

「増えている‥‥‥」
「何が?」

目を見開き、ノアは口を動かした。

「敵が増えている」
「どういうことだよ。結局何人なんだ。二人か?」

素早くこっちを向き、ノアは首を横に振った。

「十、百、今も増え続けている」

嘘だろ。そんなの仮にビーストだとしても、相当な量の魂とエレメントが必要になるぞ。いや、サウス軍幹部ならあり得るか。

「カンナ、アナ、ヴァン!今すぐ住民を皆んな避難させるんだ!家から一歩も出ないように言うんだ!」

「待つんだ!今からでは間に合わない。私が全員の頭に直接伝える。皆んなは敵襲に備えておけ!」

あのノアが冷静さを失っている。それだけ今回の敵は脅威だということなのか。

だが、引っかかることが少しある。大量のビーストを創るのなら、アニマンデスで見たエマの蚊型ビーストのような小型ビーストじゃないと、いくらエレメントの量が多くても創るのは難しいだろう。

だったら何かの能力なのか?ビーストを創る能力を持つビースト、だったらあり得るかもしれない。でも、もしそれが事実だとしたら、太刀打ち出来るのか‥‥‥?

「アナ、ヴァン。お前たちは広範囲な攻撃の準備をしといてくれ。カンナとアーロンは俺と一緒にビーストを創った本人を倒しに行くぞ」

アナとヴァンが広範囲な攻撃をしてビーストから村を守っている中、俺たちは創作者を倒す。それでビーストたちが消えるかは分からないが、これが一番いい方法だろう。

白濁の剣を握りしめ、戦闘態勢に入ると、遠くの空から影がぽつぽつと見えた。最初に見えたのはほんの僅かだったが、その後ろからは大群が来ていた。

遠くからは見えなかったが、近くになるにつれ、その姿が露わになった。ビーストだが人型。しかも、気味が悪く、人型というよりかは人形という方が相応しい感じだった。

「これは流石に多過ぎだな」
驚きや恐怖という感情を通り過ぎ、俺は呆れていた。ここまで来ると呆れるしかないだろ。

ビーストの大群は、村とある程度距離を保ち進行を止めた。その中から、一つの影が地上へ降りて来た。

黒いローブを被った者は地に足をつくと、フード部分を取り、顔を見せた。

フードの下にあったのは、青年の顔だった。少年の幼さは少し残っているが、どちらかと言うと青年に近い顔立ちだ。

「神の子を引き取りに来ました。引き渡して下さい」

一瞬ヨハンみたな平和的な奴かと期待したが、そういうタイプではないみたいだ。

「断ったら、この村を破壊します」

この状況は困ったな。取引をしようにも、相手はビーストを百体以上連れてるんだ。下手な交渉をすると、全員消されちまう。それにコイツのエレメント、やけに静かだ。村を破壊するのがハッタリじゃないことが分かる。

俺らの全戦力をかき集めても、この大群には勝てっこないし、賭けになるがいつものをやるしかないか。

「少しの間、時間を稼げるか?」
俺は皆んなに聞いた。

「うん、任せといて!」
「出来るよ」

まず最初に、アナとヴァンが了承してくれた。

「いつものだね?頼んだよ、ハジメ君」
いつもの定番みたいに言うなよ、アーロン。

「大丈夫よ。でも、無理はしないでよね」
俺に怒っているカンナも、少しのツンデレを見せつつも賛成してくれた。

そうと決まれば、一丁やるか。

こんなこともあろうかと、ズボンのチャックを少し下ろしておいて正解だったぜ。

今回はアカツチ村ということもあって、モグラ型ビーストを創ってみた。土を掘って敵の足元まで行かせ、攻撃といった寸法だ。

これまでの経験上、俺が能力を使ってる間は現実の時間は止まっている。そうでないとゴンゾウやコンスタンティンと戦った時、俺は殺されていてもおかしくなかった。

ってことは、俺の能力さえ発動出来れば、少しの時間稼ぎにはなる。それに、コイツの過去が分かるなら、それも使えるかもしれない。

エレメントで作ったモグラに魂を注入し、俺はモグラビーストを創った。そして土に潜らせ、アナたちの攻撃に気を取られていた敵に、モグラの攻撃は見事に当たった。

ジジジジジ‥‥‥

目の前にはアパートが密集した、団地のような建物があった。

この中からアイツを探さないといけないのか?相当骨が折れる作業になりそうだな。

どうするべきか少し考えていると、建物の一つから男の子が出て来た。ランドセルを背負い、手には紙飛行機を持っていた。

「カイト!弁当忘れてるわよ!」
母親か?家のベランダから少年に向かって叫んでいる。それにしても紙飛行機は持ってるのに弁当箱を忘れるとか、とんだドジっ子だな。

うん?カイトとかいう少年、あの敵と似てるな。もしかして、この子がアイツなのか。

「飛ばしてー」
「何言ってんの、取りに来なさい!」

アハハと言いながら弁当を受け取りに戻ってる姿は、普通の小学生そのものだ。戻って来たカイトの左手には弁当、右手には相変わらず紙飛行機を持っていた。

こんなに普通な、幸せそうな家庭なのにサウス軍にいるのか。

この時の俺には、これからカイトに起こる壮絶な出来事を知る由もなかった。

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