テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

文字の大きさ
上 下
72 / 86
第九章: サバンナ・ハバンナ

第四話

しおりを挟む
入って来たのは、馴染みのある面子だった。

「ハジメ!」
飛び付いて来たのはアナだった。俺は押し倒され、サバンナと初めて会った時と同じで仰向けに倒れた。

アナは相変わらず元気で、いつも通り、思い立ったらすぐ行動って感じだ。

「痛えよ、アナ」

俺の声には痛みと喜びが混ざっていた。久々に会えたんだ。俺が体験したことや、皆んなが体験したこと、話したいことが色々ある。

「会いたかったよ、ハジメ~」
仰向けの俺にのし掛かりながら、アナが抱きついて来た。如何わしい気がなくても、少し緊張してしまうな。

急にアナが押し倒して来たので見えなかったが、アナの後ろにはカンナを始めとした皆んなが揃っていた。

俺はアナの両脇に手を入れ、持ち上げ、立たせた。俺も立ち、カンナたちの場所へと向かった。

「おかえり、ハジメ君」

そう言ってくれたのはアーロンだ。いつも通り落ち着いていて、全員をまとめる母親的雰囲気を醸し出している。

そして、その横に居るのがノア。

「やっと来たか」
減らず口を叩いているが、根はいい奴だ。

「そ、そんなことはない」
勝手に人の考えを読むのもコイツの癖だ。でも、自分が褒められて少し恥ずかしがっている。

「恥ずかしがってなどいない!」
ほらな。コイツもいつも通りだな。何だか懐かしいぜ。

「久しぶり、ハジメ兄ちゃん‥‥‥」

そのツンデレ男の後ろに隠れているのがヴァン。物静かな男の子だが、姉であるアナの真似をしたりと、弟らしい一面を持つ。最近では兄姉のだけでなく、自分の意見も言えるようになって来たみたいだ。

しかも、俺のことをハジメ兄ちゃんって呼んでくれている。ずっと弟か妹を欲しかった俺にとって、こんなに嬉しいことはない。

そして最後は俺の恋人、カンナだ。

うん?何か不機嫌そうな顔をしているように見える。一体どうしたんだろう。

「久しぶり」
何も言って来ないので、俺から話しかけてみた。

プイッ。カンナは腕を組んだまま、そっぽを向いた。

何でだよ。こんなの初めてだ。まさか、これが恋人同士の喧嘩ってやつなのか?

「何で無視すんだよ」
今度は違う方向にそっぽを向いた。数週間会えない間に飽きられてしまったのか?

「アーロンさん。サバンナちゃんも見つかったことですし、話を進めましょう」

「そうだね」
俺の方をチラリと見て、アーロンは『うーん』と悩んでいたが、最終的にカンナに賛成した。カンナが俺を無視しているから気を遣ってくれたのか?

「戻って来て早々で悪いんだけど、今の状況を話させて貰うね」

「ああ、頼む」

アーロンは深呼吸をし、話し始めた。

「今の所、神の子を見つけることは出来ていない。ただ、そのような能力を持つ子は見つけた。それがサバンナちゃんだ」

やっぱりそうなのか。皆んなが揃ってサバンナを探していた理由が分かった。

「でも確定じゃないのか?」

「うん、そうなんだ。彼女は人のエレメントを臭いで判別出来るみたいなんだ。でも、それがエレメントを見る方法の一種なのか、はたまた神の子としての能力なのかがまだ分からないんだ」

そう言うことか。だからサバンナはあの不良たちを見て『臭い』って言ってたのか。つまり、あれは実際に臭かった訳ではなく、あくまでエレメントのことだったのか。

「それに、サバンナちゃん自身も自覚がないみたいなんだ」

「自覚?」

「うん、自分が神の子なのかが分からないんだ。それに、自分の能力に気付いてないみたいなんだ」

「お前たちは元々分かってたのか?」
俺はアナ、ノア、ヴァンの神の子トリオに聞いた。

「分かってたし、能力もちゃんと把握してたよ」
そうだな。最初会った時、アナは自分から神の子だと教えてくれたんだからな。

ノアとヴァンもそうだ。コイツらは自分が能力を使っていると自覚していた。

「それによ、サバンナはミナミさんの娘なんだろ?じゃあ、神の子路線は無くなるんじゃないのか?」

「でも彼女の能力は特殊だと思うわ」
カンナが初めて俺に話してくれた。任務に関しては良いみたいだ。

「ノア、サバンナの頭の中が見えるか?」

「ダメだ。聞こえるには聞こえるが、我々が探している情報に関しては一切ない」

ノアでも分からないなら、本人に聞くしかない。

俺はサバンナの所まで行った。母親の腕から逃れることが出来た彼女は、ソファでくつろいでいた。

「なあ、俺は臭いか?」
何を言ってるのか理解するまでに少し時間がかかったみたいだ。

「ううん」

「そうか。じゃあ、ここに臭い人はいるか?」

サバンナはまた考え始めた。

「いないよ」

そうなのか。これで分かったことが一つある。この子は十中八九、神の子だ。

「サバンナが神の子でいいと思うぜ」

「え、それはどういう」

アーロンを含めた皆んなが目を丸くしていた。神の子だと思っていたカンナでさえ、驚いていた。

「アーロンは最初、サバンナの能力がエレメントを判別するための物だと言ったが、それは違う。もしそうだとしたら、サウスエンドの住んでるミナミさんと、えーっと」

「タミだよ」

俺が名前を聞き忘れたことに気付いたのか、老婆が教えてくれた。

「そう。それが事実だとすると、サウスエンドに住んでるミナミさんとタミさんも『臭い』ってことになる。でも、サバンナはさっきここに臭い人は居ないって言った。じゃあ、サバンナの能力は何を基準にしているのかって話しだ。俺の予想では、人の心だと思う」

「心?」

ノアは俺の頭の中を読んで理解したみたいだ。

「この世界では、エレメントが基準となっている。光エレメントが多い人はノースエンド、闇エレメントが多い人はサウスエンドに住むと決められている。でも、光が闇より多いからといって、皆んなが皆んな良い人ではない。その逆も然りで、闇が多いからって悪い人ばかりではない。サバンナは、人の純粋な善悪を『臭い』で把握することが出来るんじゃないかと思っている」

「そう言うことか。それなら特殊な能力だと言えるね。ただ、何で記憶が無いのか、そしてなぜ家族が居るのかという疑問が残るね」

「それは本人たちに聞けば分かるでしょう」

そうは言ったが、サバンナをノースエンドに連れて行くことが一番大変だということに、俺は気づき始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...