テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

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第九章: サバンナ・ハバンナ

第二話

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少女の髪は濃い茶色で、土のような色をしていた。目の色も同じ土色だった。服装はお世辞にも綺麗とは言えず、所々汚れていたり、破れたりしていた。

身長はアナと同じくらいか、それより少し小さいくらいだ。

「お兄ちゃん、助けて!」

誰が誰のお兄ちゃんだって?
確か、俺は一人っ子だったと思うんだが。

「人を押し倒しておいて、助けてって何だよ」
俺は、腹の上に乗っている女の子を持ち上げ横に置いた。

「助けてよ!」
何だよ、コイツ。全然引かないじゃねえか。座りながらずっとこっちを見て、助けて助けてうるさい。

「何の話だよ!」
俺は立ち上がり、少女を見下げながら反論した。

すると、土色の髪を風になびかせながら彼女も立ち上がり、こう言った。

「悪い奴らに追われてるの。だから、助けて!」
「え、そうなの?」

つい、勇者らしからぬ声を出してしまった。誰かに追われてる人に『え、そうなの?』は無いだろう。

ガサガサガサ‥‥‥

二人で話していると、草むらから音が聞こえた。少女は、俺の後ろに隠れてしまった。

「おい、餓鬼。そんな所に隠れてねえで出て来いよ」

出て来たのは三人のゴロツキだった。後ろにはデブとノッポ、そしてそいつらの前に立っていたのは筋肉質な男だった。

真ん中のコイツがリーダー格か?
それにしても、絵に描いたようなモブキャラだな。しかもデブとノッポとマッチョ。どこにでもいそうな不良グループじゃねえか。

「こんな奴らに追われてたのか?」

うんうん、と女の子は首を縦に振った。まあ、小さな女の子には、不良でも怖いか。

「悪い奴らなの、コイツらは!」
さっきから同じことしか言ってないな、この子は。

「僕たちが何をしたって言うんだ」
うわあ、話し方までデブキャラだ。デブキャラには一人称が『僕』ってのが多いような気がする。

「そうですよ。私たちは何もしていません!」

ノッポって感じの話し方だ。ちょっと賢そうな感じ。でも、残念ながらコイツはメガネを掛けていない。中途半端なキャラ作りだ。

「コイツらの言う通りだ。俺たちは何もしてねえ!」

はい、熱血マッチョリーダーが来ました。学校の制服みたいな上着を着ていて、その下はもちろん何も着ていない。コイツが一番キャラ作りをしっかりしてるな。

「お前ら、キャラ作り微妙だな」
いつものツッコミ癖が出てしまった。アルバッドとかと一緒にいると、自然と突っ込んでしまう。この癖何とかしないとな。

『何のことを言ってるんだ!』
不良三人組からもツッコミが入った。

って待てよ。

「おい、コイツら何もしてないって言ってるぞ。お前は、何でコイツらが悪い奴らって言ってんだ?」

後ろにいた少女に尋ねたが、彼女は少し俯き、暫くしてから答えた。何かを躊躇してるみたいだった。

「だ、だって、臭うんだもん!」

俺も含め、この時の不良共の顔はキョトンとした物だっただろう。人の体臭で悪い人と認定されるとはな。

「そんなに?」

三人とも気になって、自分の臭いを嗅ぎ始めっちゃたぞ。年頃の兄ちゃん達なんだろう。そりゃ年下と言っても、女の子に臭うって言われるのはショックだろう。

俺は三人に近付き、軽く一人ずつ嗅いだ。普通に臭かったが、敢えてそれは言わなかった。俺には、コイツらを傷付けることは出来ない。他人事じゃないからな。俺も通った道だ。コイツらの年頃の男は大体臭いもんだ。

「ああ、大丈夫だ、大丈夫。お前らそんなに臭わないから」

「そ、そうか?良かった」

「おう、自信持てよ。俺からも注意しとくからさ、今日の所は許してくれねえかな?」

早く帰そう。長時間、至近距離でこの臭いはちょっとキツい。

「分かった。兄ちゃんに免じて許してやろう。じゃあな!」

そう言い、三人は仲良く横並びになって歩いて帰って行った。

「マジでモブキャラだったな」
独り言を呟き、俺は女の子の方を向いた。

「実際に臭かったけどよ、何で人に臭いなんて言ったんだ?怒られるの分かってただろ」
「違うもん」
「何が違うんだよ」

「身体の臭いじゃないもん」

何言ってんだ、コイツは。

「どういうことだ?」
「私にも分かんない!」

土色の目を持つ子は、俺の足を思いっきり踏み、走り去って行った。

痛えええええ。

何だったんだ、あの子は。
俺は踏まれた足を抑えながら、思った。
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