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第八章: プレイング・ウィズ・ダークネス
第十二話
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カドの身体はバラバラに切断されていた。それに加え、判別が難しい程に切り刻まれていた。カドでない事を祈ったが、髪の色や手の大きさなどはカドの物だった。
兄であるサドには、これがカドだとすぐに分かっただろう。
「‥‥‥なんで」
弟の頭を抱きしめているサドを見て、胸が痛くなるのと同時に、胸騒ぎが強まった。それは、カドを殺した犯人が、誰だか気付いたからだ。
「アイツか‥‥‥」
カドを抱きしめている、サドが呟いた。サドも気付いたみたいだ。
犯人がシドウだってことに。
まだ確かではないが、真っ先に疑われるのはシドウだろう。歪んだ表情やサドへの嫉妬。サドが次期局長になることへの不満を、弟であるカドにぶつけたと考えると、十分過ぎる動機がある。
サドは急に立ち上がり、外へと出た。どこに向かっているのかは明白だった。
「局長」
サドの声に局長は振り向いた。顔は強張っていて、恐怖心も混ざっているように見えた。そして、その片手には手紙のような物を持っていた。
「サド、これを‥‥‥」
手紙を受け取ったサドの表情からは、怒りそのものが滲み出ていた。手紙の内容は、単純かつ明快だった。
『殺したのは私だ。これを持って、責任を取るため、私は暗殺部隊を辞任する。
シドウ・アハレン』
一枚の紙には、そう書いてあった。シドウがカドの殺人を認め、その上での辞任。つまりは、全てから逃げるってことだ。
「彼がいる場所が分かりますか?」
局長に聞いたサドの口調は落ち着いていた。丸で、何かを決心したかのようだった。
「すまない、私には分からない。自宅に居るかもしれん。サド、すまない。私がもっとシドウを監視しとくべきだった」
「局長は悪くありません。これは、彼の弱さと、私の弱さによって起きた惨事ですので」
自分のせいとも思っているのか、サドは。でも、この感じ、最悪な結果になる予感しかしない。
サドは局長の助言により、シドウの自宅へと向かった。刀を持って。
家の戸は開いていた。それは、招き入れられているようでもあった。居間の襖は全て開いており、シドウが部屋の中央にいるのが確認出来た。
「シドウさん」
声に気付き、シドウはこっちを振り向いた。
「何であんなことを?」
サドの問いに、シドウは顔を俯かせた。
「自分の感情を制御出来なかった。ただそれだけだ」
「あなたがやったのか?」
「いや、私はジュウモンジ一派にお頭を殺した相手を教えただけだ」
そういうことか。暗殺者に報復することを望んでいるジュウモンジ一派に、サドの情報を教えればカド、若しくはサド本人が狙われるのは当たり前だ。それをシドウは狙っていたんだ。
「殺せ、サド」
サドは既に刀を抜いていたが、それを握る手は小刻みに震えていた。
サドは持っていた刀を鞘に戻し、シドウの目を真っ直ぐに見た。
「今にでも、あなたを殺したい。ですが、あなたを殺しても、私の気は済みません」
「じゃあ一体、どうすれば」
「心配しないで下さい。あなたは殺します。その前に、何故あなたはカドを殺すように命じたのですか?」
「感情的になってしまったのだ、済まぬ、サド‥‥‥」
「あなたの感情を理由に、私の弟は、カドは死んだ」
サドの声は震えていた。そして目に涙が溜まり、頬を伝った。
そう言われたシドウは絶望に満ちていた。それに追い打ちを掛けるように、サドは続けた。
「私は今からジュウモンジ一派を全員殺して来ます。それがどういう意味だか、分かりますか?」
おい、それって‥‥‥
バシュッ。ゴトン。
一瞬の出来事だった。畳には血の海、そしてシドウの頭が落ちていた。
フッと笑みを浮かべ、サドは夜の村へと消えた。
ジジジジジ‥‥‥
俺はジュウモンジ一派の屋敷内にいた。中では、サドが暴れている。宣言通りに一派を壊滅させる気だ。
サドの猛攻、迎え撃つ一派の人間、逃げ惑う人々。様々なことが起きている中央で、俺は何も出来ずに立っていた。
「お前が最後か‥‥‥」
ヒィ!と怯えた最後の一派の人間にサドは刀を向けた。
「死後の世界があるならば、覚えておけ。お前らを何度でも殺してやる」
そう言い、最後のジュウモンジ一派の頭を落とした。
全員を殺すことは出来たが、サド自身の傷も深かった。無茶をしたんだ、このままだとコイツも‥‥‥
傷だらけの身体を引きずりながら、サドは自宅へと向かった。
「ただいま、カド」
サドは、カドの居る部屋へと入り、カドの亡骸の側に寝転んだ。
「もっと早くに稽古を付けるべきだったな。そしたら、お前も死なずに済んだかもしれない」
目を抑えている腕は震えていた。
「私の人生は後悔ばかりだ。父上と母上を亡くしてから、私はお前を守ると決めていたのに、この様だ」
ふう、と大きく息を吐き、サドは刀を置いた。
「死後の世界など信じないが、今は、あると信じたい。私は地獄行きだろうが、また会ってくれるか、カド」
そう言い終えると、サドは目を抑えていた腕を退けた。いや、もう力が入ってないんだ。目も閉じていて、息もしていない。
俺には、見届けることしか出来なかった。この、悲しい結末を。
兄であるサドには、これがカドだとすぐに分かっただろう。
「‥‥‥なんで」
弟の頭を抱きしめているサドを見て、胸が痛くなるのと同時に、胸騒ぎが強まった。それは、カドを殺した犯人が、誰だか気付いたからだ。
「アイツか‥‥‥」
カドを抱きしめている、サドが呟いた。サドも気付いたみたいだ。
犯人がシドウだってことに。
まだ確かではないが、真っ先に疑われるのはシドウだろう。歪んだ表情やサドへの嫉妬。サドが次期局長になることへの不満を、弟であるカドにぶつけたと考えると、十分過ぎる動機がある。
サドは急に立ち上がり、外へと出た。どこに向かっているのかは明白だった。
「局長」
サドの声に局長は振り向いた。顔は強張っていて、恐怖心も混ざっているように見えた。そして、その片手には手紙のような物を持っていた。
「サド、これを‥‥‥」
手紙を受け取ったサドの表情からは、怒りそのものが滲み出ていた。手紙の内容は、単純かつ明快だった。
『殺したのは私だ。これを持って、責任を取るため、私は暗殺部隊を辞任する。
シドウ・アハレン』
一枚の紙には、そう書いてあった。シドウがカドの殺人を認め、その上での辞任。つまりは、全てから逃げるってことだ。
「彼がいる場所が分かりますか?」
局長に聞いたサドの口調は落ち着いていた。丸で、何かを決心したかのようだった。
「すまない、私には分からない。自宅に居るかもしれん。サド、すまない。私がもっとシドウを監視しとくべきだった」
「局長は悪くありません。これは、彼の弱さと、私の弱さによって起きた惨事ですので」
自分のせいとも思っているのか、サドは。でも、この感じ、最悪な結果になる予感しかしない。
サドは局長の助言により、シドウの自宅へと向かった。刀を持って。
家の戸は開いていた。それは、招き入れられているようでもあった。居間の襖は全て開いており、シドウが部屋の中央にいるのが確認出来た。
「シドウさん」
声に気付き、シドウはこっちを振り向いた。
「何であんなことを?」
サドの問いに、シドウは顔を俯かせた。
「自分の感情を制御出来なかった。ただそれだけだ」
「あなたがやったのか?」
「いや、私はジュウモンジ一派にお頭を殺した相手を教えただけだ」
そういうことか。暗殺者に報復することを望んでいるジュウモンジ一派に、サドの情報を教えればカド、若しくはサド本人が狙われるのは当たり前だ。それをシドウは狙っていたんだ。
「殺せ、サド」
サドは既に刀を抜いていたが、それを握る手は小刻みに震えていた。
サドは持っていた刀を鞘に戻し、シドウの目を真っ直ぐに見た。
「今にでも、あなたを殺したい。ですが、あなたを殺しても、私の気は済みません」
「じゃあ一体、どうすれば」
「心配しないで下さい。あなたは殺します。その前に、何故あなたはカドを殺すように命じたのですか?」
「感情的になってしまったのだ、済まぬ、サド‥‥‥」
「あなたの感情を理由に、私の弟は、カドは死んだ」
サドの声は震えていた。そして目に涙が溜まり、頬を伝った。
そう言われたシドウは絶望に満ちていた。それに追い打ちを掛けるように、サドは続けた。
「私は今からジュウモンジ一派を全員殺して来ます。それがどういう意味だか、分かりますか?」
おい、それって‥‥‥
バシュッ。ゴトン。
一瞬の出来事だった。畳には血の海、そしてシドウの頭が落ちていた。
フッと笑みを浮かべ、サドは夜の村へと消えた。
ジジジジジ‥‥‥
俺はジュウモンジ一派の屋敷内にいた。中では、サドが暴れている。宣言通りに一派を壊滅させる気だ。
サドの猛攻、迎え撃つ一派の人間、逃げ惑う人々。様々なことが起きている中央で、俺は何も出来ずに立っていた。
「お前が最後か‥‥‥」
ヒィ!と怯えた最後の一派の人間にサドは刀を向けた。
「死後の世界があるならば、覚えておけ。お前らを何度でも殺してやる」
そう言い、最後のジュウモンジ一派の頭を落とした。
全員を殺すことは出来たが、サド自身の傷も深かった。無茶をしたんだ、このままだとコイツも‥‥‥
傷だらけの身体を引きずりながら、サドは自宅へと向かった。
「ただいま、カド」
サドは、カドの居る部屋へと入り、カドの亡骸の側に寝転んだ。
「もっと早くに稽古を付けるべきだったな。そしたら、お前も死なずに済んだかもしれない」
目を抑えている腕は震えていた。
「私の人生は後悔ばかりだ。父上と母上を亡くしてから、私はお前を守ると決めていたのに、この様だ」
ふう、と大きく息を吐き、サドは刀を置いた。
「死後の世界など信じないが、今は、あると信じたい。私は地獄行きだろうが、また会ってくれるか、カド」
そう言い終えると、サドは目を抑えていた腕を退けた。いや、もう力が入ってないんだ。目も閉じていて、息もしていない。
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