テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

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第八章: プレイング・ウィズ・ダークネス

第四話

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「ハジメ、君には今から実際に戦場に出てもらう」

どういうこと?小隊に戻るとかじゃなくて、戦場に出るってことか?

「戦場ってどこだよ」
「戦場は戦場だ。未だに戦は終わってないからな」
「いや、そう言う意味じゃなくて、どこで戦ってんだよ。それに、何で俺が出て行かないといけないんだよ」
「天獄橋を知ってるだろう?我々とサウス軍の戦争は、主にその下にある土地で行われている」

あの橋の下でやってるのか。前スイたちと戦ったときは夜だったから、兵士たちは休んでいて、俺は気付かなかったのか。それに、天獄橋は地上からかなり距離がある。それも気付かなかった要因の一つだろう。

「さっきも言っただろう?君の光エレメントの回復力は、十分ある。だが、それは私たちが闇を注入した場合の話だ。実際に戦場に出て、純度の高い闇を受けても尚、光エレメントを回復することが出来なければ意味がないのだ」
「それで、戦場で経験して慣れろってことか」
「その通りだ」

——————

そんなわけで、今俺はノースエンドの入り口に来ていた。つまり、天獄橋の上にいるって訳だ。これからここを降りて、戦争に参加する。

周囲の兵士が死んでも、敵を殺しても、増える闇を光で押しのけなければならない。闇を感じないとか、負の感情を押し殺せ、とは少し違うかもしれないが、俺に出来るだろうか?

さっきは何とか闇を抑えられたが、実際の現場に出ると抑えられるかは分からない。

それより、ここで待っとけって言われたが、いつまで待てばいいんだ?

「待たせわね」
この綺麗だが力強く、芯の通った声。この声の主は‥‥‥

「マーガレットさん」
「さん付けなんかしなくていいわよ。あなたはカンナの彼氏なんだから。その時点で、私たちは家族みたいなもんよ」

アンタも知ってんのかよ!軍の誰かに伝わったら、軍全体に伝わると考えた方が良さげだな。

そして、マーガレットの後ろにもう一人の姿が見えた。

「おお、エリーじゃねえか。久しぶりだな」
エリザベスことエリーは、気恥ずかしそうにマーガレットの後ろから顔を覗かせていた。そう言えばコイツは緊張しいだったな。エリーは、前見たときとは違い、今日はメガネを掛けていた。しかも丸眼鏡にお下げ髪。昔の女学生って感じだ。

「こ、こんにちは」
エリーってこんなに恥ずかしがり屋だったか?前普通にトランプで遊んだと思うんだが。

「この子もあなたと一緒に訓練させるから、よろしくね。今日は私が指揮するから頼むわよ」

そう言い、三人で橋の下へと降りた。その途中、マーガレットが俺に話しかけて来た。

「エリザベスが、恥ずかしそうにしてるのが気になる?」
気になる気になる。また俺の顔に出てたか?

「あの子ね、あなたがケダモノだと思ってるのよ」

はい?ケダモノって獣ってこと?オレノ、ドコガケダモノナンデスカ?

「何でだよ!」
死後の世界に来てから、俺のツッコミは上達したんじゃなかろうか。ここではボケる奴が多すぎる。ここにいたら、自然とツッコミ力が上昇する。

「それにしても、ハジメもやるわねえ。あのカンナに許可無しでキスするなんて」

そう言うことか!俺がカンナを襲ったみたいな情報が回ってるのか!だから、エリーは俺のことをケダモノだと思ってるんだ!

「それは違う!いや、違くないけど、違う!とにかく襲ってはない!!!」
「必死ねえ」
「エリーも信じてくれよ!」

前にいたエリーの肩に触れると、お下げ髪の少女は、頰を赤らめ、少し涙目になった。やばい。俺、犯罪を犯してるみたいだ。

「私の大事なエリザベスを泣かせないでよお」
エリーを抱きしめながら、ケタケタと笑うマーガレットからは、アルバッドに通ずる物を感じた。

橋の下へと降り少し歩くと、丘があり、そこには運動会で放送係などが使うような大きなテントがあった。ここが戦場の司令塔って訳か。

「遅いぞ」
「いやあ、ごめんごめん。つい話し込んじゃって」
「ここは戦場じゃ。軽々しく話すな」
「はーい」
「はい、は短く」

何だよ、この会話。丸で爺ちゃんと近所の子供じゃねえか。この爺ちゃん、大天使の一人、ゼンがマーガレットに説教をしていた。

「では、後は頼んだぞ」
東洋の老師のような男はそう言い、俺を横切っていった。その時、微かにだが、ゼンが舌打ちをする音が聞こえた。あれは俺に向けてだったのか?

「ゼンはもう場を離れるのか?」
「ええ、そうよ。戦線の指揮を取るのは交代制よ。流石にずっと一人でするのは無理があるものね」
「それより、ゼンって奴、嫌な感じだな」
「まあ、間違ってないけど、彼には彼なりの正義があるみたい」
「正義?」
「ゼンはね、絶対的に神を信じているの。だからサウス軍を許せないし、さっきみたいに真面目にやらないと怒っちゃうの。まあ、簡単に言えば頑固オヤジね」

ゼンは、神の子たちのことを神様だと考えていて、キルティが死んでしまったことに関して怒っている。さっきの舌打ちも、きっとそれが原因だろう。ゼンにとって、俺がキルティを殺したも同然ってことか。

「ちょっと質問いいか?」
「はい、ハジメ君」
ボケ方がアルバッドそっくりだ。本当にお前らは神様から創られたのか?って聞きたくなるくらいだ。

「兵士たちってどうなってんだ?」
「どうなってるとは?」
「普通はリーダーである大天使たちがそれぞれ、隊を持ってるんじゃないのか?でも、見た限り、変わってるのは隊長だけで、隊自体は変わってないよな」
「そうね。大天使それぞれに属してる隊はいないわ。でも、たまに兵も変わってるわよ?今日はたまたまゼンだけだったのよ。それに、毎度変えていると、戦況にも影響するの」
「そうなのか?」
「ええ、大いにね。まず、戦争って言うのは、どんな理由であれ、闇よ。正義と悪がいても、両方やってることは闇なの。ということは、お互い闇が増える。でも、相手はもともと闇の住人」
「じゃあ、俺たちには‥‥‥」
「そう、デメリットしかないの。相手は闇が増えてもへっちゃらだもの。一方私たちは、増えた闇を光に変換しながら戦わないといけない。だから出来るだけ戦線には、戦場における『闇』に慣れた兵に居てもらいたいの。交代したら、慣れがリセットされる可能性が大きいものね」

思ってた以上にちゃんとした理由があったんだな。でも、俺たちのデメリットが大きすぎる気もするな。戦場に出るには、光エレメントの回復術は必須ってことか。

「あなたは、光の回復力を高めたいらしいわね。驚異的な回復力を見たいなら、このエリザベスが見せてくれるわよ!ほら、エリー!」

首をクイっと動かし、マーガレットはエリーに合図をした。合図を受けたエリーは丘の上に立ち、下で戦っている兵士たちに向けて両腕を開いた。

すると、一昔前の女学生にしか見えないエリーの両手が光り出した。そして、黒い液体のような物が、兵士たち全員の頭から出てき、エリーの両手へと吸収された。何事だ?最初はそう思ったが、次第に何が起きているかを理解した。

エリーは兵士たちの闇を吸い取ってるんだ。それもノース軍だけじゃなく、サウス軍のもだ。

「はい、ストップ!前よりはマシになったけど、まだピンポイントで標的を選べてないわ」
「今ので十分だろ。ノース軍の闇を吸い取れたし、サウス軍の闇も弱まったなら一石二鳥じゃねえか」
「そうね。でも、エリザベスを見てごらんなさい」

俺はエリーの方を向いた。何だよ、これ。二の腕まで真っ黒じゃねえか。それに加えて、エリーの表情は青ざめていて、ぜえぜえと息が荒くなっていた。

「闇を吸収したらこうなるのよ。ちゃんと闇を吸い出す相手を選べないと、大量のターゲットから吸収しちゃうの。だから、良いことだらけじゃないのよ」

そういう理由で、エリーを訓練に連れて来たのか。だが、エリーが能力をコントロール出来るようになったら、兵たちは戦いやすいことだろう。

「次はあなたの番よ、ハジメ」
「俺は何をすればいいんだ?」
「そうねえ」

『こうよっ!』と言いながら、俺はケツに蹴りを入れられた。俺は何でこういつも殴られたり、蹴られたりするんだろうか。そういう役回りなんだろうか?

そんなことを考えながら、俺は丘から転げ落ちた。地上に着くと、目の前は戦線で、目と鼻の先でノース軍とサウス軍の兵たちが戦っているのが見えた。

『彼らを助けなさい!万が一の時は、エリーも居るから大丈夫よー』
蹴りを入れた張本人の大天使様から、指令の叫びが下された。

こうして、俺は戦場デビューを果たした。


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