テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

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第七章: ロスト・イン・ライトニング

第八話

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「こっちだな」

壁の傷は一つだけじゃなく、続いていて、随所に付けられていた。印を辿れってことだな。そうしたら、カンナたちがいる場所に辿り着けるって訳だ。

うわ、何だこれ。傷を頼りに道を進んでいると、床に銀色のグニャグニャの何かを見つけた。

「棘の罠だな」

キルティに言われ、再度確認すると、確かにそうだ。言われてみれば、俺たちの場所にもあった鉄の棘のトラップだ。ただ違うのは、これがグニャグニャで原型を留めていないこと。

俺の口許は自然と緩んでいた。
これはアナの仕業だろう。炎で棘を溶かしたってとこだな。ちゃんと皆んなを守って偉いじゃねえか。

炎は消えてるが、まだ熱を感じる。ってことは、近くにいるってことか。

「早く行こうぜ、キルティ」

アイツらと合流したら、こんなダンジョンすぐにクリア出来る。そしたら、オニオンズとか言うナルシストなダンジョンマスターに一発殴りを入れてやるんだ。

早歩きで動き始めたとき、目の前に扉が見えた。その眩しいほど白い扉は、ゆっくりと開き、扉の動きとは裏腹に、何かが素早い動きで出てきた。

出てきた『物』をキャッチした俺は、その正体に気付いた時、思わず声を上げてしまった。

「ノア!?」
何と、受け取った『物』の正体はボロボロになっていたノアだった。服は破れ、身体の至る所に傷や痣が見える。どうなってんだよ、これ。

「遅いぞ、二人とも」
ボロボロのノアは、息を上げながら言った。

「何があったんだ」
「十字架の男があの部屋で暴れている。早く行って助けろ」
「相変わらず口が悪いな。その調子だと大丈夫そうだな。後でお前も来いよ」

十字架の男ってコンスタンティンのことだな。アイツは完璧に武闘派。キルティが能力を使えればいい勝負をすると思うんだが、さてどうしたものか。ここで考えてても仕方ないな。戦いながら考えよう。

俺とキルティは、ノアが出てきた扉を開き、部屋へと入った。

中では壮絶な戦いが繰り広げられていた。空を飛び交うカンナとアーロン。そして下ではアナとヴァンが能力を使って応戦している。敵はコンスタンティン一人のようだが、正直言って、俺たちの方が苦戦しているように見えた。

「ガハハハハハ!大天使も神の子も大したことねえな!もっと強い奴はいねえのか!」

『うん?』
入ってきた俺たちに気付いたみたいだ。

「お前は、勇者様じゃねえか!ちっとは、強くなったみてえだな。丁度いい。全員まとめて相手してやるぜ」

コンスタンティンはただ戦闘を楽しんでるだけだ。敵でもゴンゾウやヨハン、ミラとかは嫌いじゃないが、コイツはどうも好きになれない。

「ヴァン!天井目掛けて攻撃出来るか?」
戦闘中のヴァンに注文を付けた。成功するか分からないが、これに賭けるしかない。

いつもヴァンは返答せずに行動に移す。それは今回も同じだった。ヴァンは何も言わずに天井に氷柱を撃った。

巨大な氷はハンマーの役割をし、コンスタンティンの頭上にあった天井は崩れ落ち、十字架男の上に落ちた。

これで倒せたら良いんだが、そう上手く行く訳がない。案の定、瓦礫の中から勢いよくコンスタンティンが飛び出てきた。瓦礫はこの男の力で飛び散り、砕けた。

「おい、勇者様はこんな姑息な手を使うのか。あのタマネギヘッドと同じじゃねえか。正々堂々と戦いやがれ!!!!」

タマネギヘッドって何だよ、と言いたくなったが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。コンスタンティンが怒り狂ってこっちに走って来ている。

「正々堂々と戦うぜ。俺じゃなくて、コイツだけどな!」

キルティが俺の前に出た。そう、天井をヴァンに開けさせたのには二つ理由があった。一つはコンスタンティンを足止めさせるため。皆んなも回復しないといけないからな。そして、本命はキルティ。天井を開けたことによって、能力を使えるようになったキルティは、もう誰にも止められない。

目にも留まらぬ動きで、キルティの蹴りが何発も入った。しかも、ただの蹴りじゃない。電気を纏った蹴りだ。これは、いくらコンスタンティンでも効くだろう。

『うががががががががががが!』
感電してる人はこう言う声を上げるのか。地味に怖いな。

少し焦げたコンスタンティンは、笑っていた。

「ガハハハハハ!コイツはたまげた!おま」

ビリビリ、ドスン。コンスタンティンが文章を終わらせる前に、キルティの攻撃が炸裂した。だが、今回は何やら様子がおかしかった。キルティの動きが止まっていた様に見えた。

いや、コンスタンティンが攻撃を止めたのか?

「兄ちゃんの蹴り、早えな。けどよ、もう慣れちまったぜ。だからよ、もっと早く出来ねえか?」

そう言い、コンスタンティンはキルティの右脚を捻り潰した。

『うがああああああああああ』
潰された脚を持ったまま、キルティは放り投げられた。脚を押さえ、苦しんでいるキルティを見て、俺たちが今、絶望的な状況にいることを認識した。

「キルティ!大丈夫か」
大丈夫な訳がない。右脚はもう使い物にならないんだ。

「大丈夫だ。俺の本来の力は雷を落とすこと。纏って力を増幅するのはオマケみたいな物だ」
「なに強がり言ってんだよ。お前はここで休んでろ」
「いや、それは選択肢にない。戦わせろ、ハジメ」

初めて名前で呼ばれた辺り、キルティの本気度が伝わってくる。

「分かった。お前は後ろから雷を落として、援護してくれ。カンナとアーロンも行けるか?」
「いつでもオッケーだよ」
「私も大丈夫」
「アナとヴァンは?」
「元気だよー」
「僕も元気‥‥‥」

よし、反撃開始だ。







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