テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

文字の大きさ
上 下
46 / 86
第七章: ロスト・イン・ライトニング

第一話

しおりを挟む
次の目的地、ヌメル・ヌメロに向かうには、サウスエンドに入る必要がある。だが、正式に入国しようとしても、戦争をしてる相手国の軍人など入れてくれるはずがない。

つまり、簡潔に言えば、潜入する必要があると言うことだ。潜入任務は隠密行動が必須で、お互いが協力をし、息が合っていることが不可欠なんだが、今の俺たちは全く波長が合っていなかった。

まあ、俺とカンナだけなんだがな。メトロポリスでキスをしてから、俺たち二人はギスギスしていた。お互いのことを嫌いになったとかではないが、カンナに話そうとしても無視されたり、どことなく、よそよそしく感じる。

俺もそうだが、カンナを意識してしまい、上手く話せなかった。こんなので、敵陣に潜入なんて出来るのだろうか。先が思いやられるな‥‥‥

「サウスエンドへは飛んで入るよ。でも、国境には射撃隊がいる場合があるから、撃たれないようにね」
アーロンからの忠告だ。俺たちの中には、スイのようなエレメントを隠す力を持っている者はいない。だから飛行能力を使ってそのままサウスエンドに突っ込むのが一番良い方法なんだろう。

「そんな簡単にいくのか?」
「大丈夫だよ。前も潜入したことあるし、ちょっと遠回りだけど、射撃隊に見つからないルートを通って行くからね」

いつもアーロンのことを、母さんとかフェミニンだとかイジっているが、潜入ルートを知っているあたり、コイツが出来る軍人だと言うことは認めないといけない。まだちゃんとした戦闘を見たことないが、相当強いんだろうな。

「ここからスピードを上げるから、しっかり付いて来てね!」

もう少しで、ノースエンドとサウスエンドの国境に入る。二つの国を結ぶ天獄橋は非常に長く大きいが、正式な方法で入国するのは、両国王の会談などでしか行われてないそうだ。それも、最近はあまり使われていないらしい。最近使われたのは、アナがスイたちに誘拐された時か。

アーロンに付いて行くのに必死だったが、俺以外の皆んなは平然とやってのけた。さすが神の子と軍のトップだ。って一応俺も軍のトップか。全く自覚が湧かないな。

万が一のために、雲の上を飛び身を隠しながら、俺たちはクネクネと飛んでいた。正直これが本当に潜入ルートなのか疑問に思ったが、意外とあっさりとサウスエンドに入ることが出来た。

「こんな簡単に入れるもんなのか?」
俺の言葉にアーロンは首を傾げた。

「いや、前はこんなんじゃなかった。でも罠があった形跡もない。神の子を保護しに来ることが分かっているなら、逆に罠を張ると思うんだけどな」
「私も同感です。道中に罠がないのは、この先に罠があるのか、それともよっぽどの自信があるかのどちらかだと思います」

久々にカンナの声を聞いたような気がする。いつも通りの声だが、少し疲れている風に聞こえた。

「ここで止まっていても仕方ないから、罠に気を付けながら、ヌメル・ヌメロに向かおう。でも、その前にちょっと休憩を挟もう」

ここからは徒歩で向かうことになる。ここには背の高い木などが無く、飛んだら相手にバレやすくなるらしい。

「ハジメ、ちょっといいか」
ノアが俺を呼んでいる。どうしたんだ?

「さっさとカンナに話せ」
え?何のこと?何で?どうして?ホワイ?

「ふざけるな。昨日からずっと話してないじゃないか。お前たちのせいで、雰囲気が悪くなってるのが分からないのか」

まさか、ノアに正論を言われるとはな。でも実際にそうだ。俺がやったことで、俺の恋愛事情でチームの空気がギスギスしている。このままだと、任務に支障が出ると思ってノアは言っているんだろう。

「わかった。ちゃんと話すよ」
後で話してみるか。

「今だ。今から話せ」
また声を聞かれてたのか。まあ、いいか。どうせいつかは話さないといけないんだからな。

「分かったから、声を読むんじゃねえよ」
「早くしろ!」
いつも以上に当たりが強いな。何をそんなに怒られることがあるんだ。

カンナは、木に凭れながら休憩していた。どことなく、黄昏ているように見えた。

「よお」
俺に気付き、どこかへ移動しようとしたが、『待ってくれ』と言いカンナを止めた。

「な、何でしょうか‥‥‥」
メチャクチャよそよそしいじゃねえか!まず何から言うべきだろうか。

「あの、その、この前はごめん!」
謝られることを想定していなかったのか、カンナは驚きを見せた。

「あれはワザとじゃなくて、カンナが可愛かったからやっちゃったと言うか、お前のことが好きなんだ!」
「え?」

うわあ、完全に引かれただろこれ。どうしよう、益々気まずくなってくぞ。カンナはそのままどこかへ走って行ってしまった。

「ノアくぅぅぅん、俺どうしたらいいんだよ」
俺はノアに助けを求めた。腕を組んでいたノアは、俺の方を見て笑っていた。

「あれで良かったと思うぞ、良くやったな、ハジメ」
あれのどこが良いんだよ。ドン引きされてたじゃねえか。

「お前は何も分かってないのか。彼女もお前のことが好きなんだぞ」

今なんて?今あり得ないこと言っただろ。カンナはショックで走ってどっか行ったんだぞ?

「察してやれ。カンナも初めてなんだからな」
どういう意味だよ、それ。

「本当に察しが悪いな。お前が急に接吻などするから、彼女は自分がそういう目でしか見られていないと思ったんだ。つまり、遊ばれてたとな。カンナにとっては接吻などの行為は、もっと親密な関係になってからするものだと言う認識だったんだろう」
「じゃ、じゃあ、どうなるんだよ」
「さっきも言っただろう。あれで良かったと。走り去った彼女の顔は赤くなってたぞ。本当に自分のことが好きなんだと気付いた証拠だ。ほら、噂をすれば」

ノアの言っていた通り、カンナがゆっくりとこっちに向かって来た。ノアは空気を読んだのか、アナたちの所へと戻って行った。

「さっきは、何も言わずにどこかに行ってごめんね」
「いや、それは別にいいんだけどよ」
「でね、さっき言ってたことって、本当‥‥‥?」

ここはチキってはいけない場面だ。俺の生前、死後含めた人生で一番重要な場面だ。

「俺、カンダ・ハジメは、カンナさんのことが好きです!だから、だから、俺と付き合ってください!」
「え、え、えっと、こちらこそお願いします‥‥‥」
戸惑っていた感じが否めないが、カンナの返事を聞くことが出来た。待てよ。お願いします、ってことは、オッケーってこと?付き合うってこと?俺とカンナが付き合うってこと?

「よっしゃあああああああ!!!!!」
俺はつい叫んでしまった。それを聞き、カンナはビックリし、気付いた他の皆んなも何事かと見に来た。

「何叫んでんのよ!」
俺、カンダ・ハジメは、付き合い始めて最初のスキンシップに、頰にビンタを食らった。だが、喜びのあまり、あまり痛みを感じなかった。ビンタをした当の本人であるカンナも、俺の喜び方を見て、最終的には笑い始めた。

この出来事によってチームは再び一丸となり、絆は深まった。そして、俺には守るべき存在が出来た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...