テクノブレイクで死んだおっさん、死後の世界で勇者になる

伊藤すくす

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第五章: アイスブレーカー

第七話

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ゴンゾウの創ったビーストは、巨大な手だった。手は二本あり、見た目はどっちも同じ。漆黒で、掌の中央にはこれもまた巨大な目が付いていた。

こんなのに掴まれたり、ビンタされただけでも殺されそうだ。見たら分かる。これはヤベえやつだ。

それに対する俺のビーストは熊。あの温泉の時以来、俺は魂を出す方法を模索していた。何せ、今は俺のチ◯コからしか出せないからな。そこで考案したのが、『魂ニョロニョロ作戦』だ。

聞こえは悪いかもしれないが、これが一番成功率の高かった方法だった。方法は割と簡単で、ただズボンのチャックを少し開けとくだけだ。そしてその隙間から魂をニョロニョロと出していく、という訳だ。

この『魂ニョロニョロ作戦』で頑張って俺は熊を創ったわけだが、相手がこんなに大きなビーストを出してくるとは聞いてないぞ。せっかく頑張っていつもより大きいビーストを創ったのに、これじゃ太刀打ち出来やしない。

「お前、変なとこから魂出てんな」
一番近くにいたゴンゾウには見えてたみたいだな。俺の魂がズボンのチャック部分から出てくる所を。だが、他の誰にも見られてないはずだ。魂をニョロニョロと少しずつ出したのには、人に見られないようにすると言う意図も兼ねているからな。

「フフフ、魂を出した所、見られたら、殺すしかないな」
「急にキャラ変わりすぎだろ、オメェ」
困惑気味でゴンゾウがこっちを見ている。

ズボンから出てたとは言え、『コイツの魂、チ◯コから出てんじゃね?』と仮説を立てられるのは時間の問題だ。こうなったら、殺るしかないだろ!

「面白れぇ。やるってなら、俺も全力で行くぜ!」
ヤバイ。殺される。あの大きな手の怪物に握りつぶされる。逃げねえと。

追って来る手を、チラチラと振り返り確認しながら逃げ惑っていたが、目の前からもう一つの手が来た。俺は見事に挟み打ちされた訳だ。

こんなの、逃げようがない。横に避けようにも手のサイズが大き過ぎて、走っている間に潰されちまう。こうなったら、一か八かの勝負に出るしかない。ゴンゾウの考えていることを全て読んでやる。そしたらきっと、アイツの恥ずかしい部分も出て来るだろう。そして、赤面して両手を止めている時に逃げる!頼んだぞ、俺の熊さん!

俺は逃げる準備をしながら、能力を発動した。

『これで終わりか?オメェなら逃げれるだろ。やってみろよ、ヒョロ男』

やっぱりコイツ、いい奴だな。俺を殺すとか、終わらせてやる、とかの感情がゴンゾウからは一切
感じない。コイツもヨハンも、本当にサウス軍か?ただ訓練で闇エレメントを増幅させてる、実はいい奴らなんじゃねえか?実際は分からないが、そう思わざるを得ない。

ジ‥‥‥ジジジジジ
何だこの音。前に能力を使った時はこんな音しなかったぞ。

次の瞬間、俺は別の場所にいた。さっきまで居たゴンゾウ、それに皆んなもいない。どこだよ、ここ。しかもこの世界、何か色が薄く見える。丸で夢を見ている感じだ。

今、俺は森の中にいた。少し進むと、家が見えた。煉瓦で造られたその家からは、どことなく温かみが感じられる。いったいどんな人が住んでるんだろうか?俺は茂みに隠れながら見ていたが、ゆっくりとバレないように、家に近付き、窓から中を覗いた。

だが、ここで俺は驚くこととなる。そこに居たのはゴンゾウだった。いつも通り上半身は裸だったが、何やら胸部に包帯を巻いていた。

怪我をもろともせず、ゴンゾウはガツガツと食卓で飯を食っている。そして一番気になったのが、その向かいに座っていた女性だ。お淑やかでおおらかな感じに見える。ゴンゾウの奥さんか何かか?

「飯までご馳走になっちまって、悪ぃな」
ガッツリ食ってるくせに、今更謙虚さを見せて来やがった。

「いいんですよ、ゴンゾウさん。私にはこのくらいしか出来ませんので」
「いや、怪我の手当てから飯まで、沢山やってくれてるじゃねえか。本当に助かった。ありがとな、レイア」

夫婦じゃなかったのか。レイアさんが怪我したゴンゾウをたまたま見つけて、手当てをした感じか。それにしても、ここはサウスエンドなのか?いや、それにしてはおかしい。レイアさんのエレメントを見ても、明らかに光エレメントの方が強い。そしてこの家はレイアさんのだ。ってことは、ここはノースエンドか。

ゴンゾウは戦線離脱して、ここに迷い込んだのか?まあ、何かしら事情がありそうだな。考え耽っていると、正面の扉が開く音がした。

「もう行くんですか?」
「ああ、世話になったな」

ゴンゾウがそう言うと、レイアさんは頰を赤らめ、少しの間を置きこう言った。

「また、来てくださいますか?」
ゴンゾウの目は驚きで見開いていたが、すぐに元に戻り、今度は笑顔を見せた。

「勿論だ!また必ず来る!」
そう言い、ゴンゾウは森の中へと消えていった。いったい、俺は何を見せられてるんだ。

ジジジジジ‥‥‥
またこの音か。次は何だよ。あれ?またレイアさんの家だ。また覗いてみるか。

え!!!
人が増えてる。それも赤ん坊だ。もしかして、ゴンゾウとレイアさんの子供か?どう言うことだよ、これ。

レイアさんはノースエンドの住民、そしてゴンゾウはサウスエンドの住民。その二人が子供を持つことなんて可能なんだろうか。

いや待てよ。この二人が最初に出会った時も、ゴンゾウは戦線を離脱していた。じゃあ、戦争に出るたびに戦場を離れて、レイアさんに会いに来てたってことか?それに子供まで居るとか、やる事やってるじゃねえか。

「ジリアン、パパでちゅよ~」
なっ!ゴンゾウの顔が溶けたチーズのようにとろけてるだと!ゴンゾウの濃さを残しつつ、娘に完全にデレデレになっている。ついさっきまでデカい手の怪物で、俺を潰そうとしていた奴と同一人物とは思えない。

「そろそろ行かねぇと」
「行ってらっしゃい、ゴンゾウさん」

「あのっ!」
行こうとするゴンゾウを、レイアさんが引き止めた。

「また、来てくださいね」
「当たりめぇだ!ここが俺の家だからな!」
カカカと大声で笑うゴンゾウを見て、レイアさんと抱っこされていたジリアンは微笑んでいた。

ヤバイな。こんなの見せられたら、ゴンゾウと戦うことなんか出来ねえ。この世界、ヨードではどんな理由があっても、ノースエンドとサウスエンドの者が一緒になることは出来ない。もちろん、面会なども許されていない。そんな中でゴンゾウとレイアさんは出会って、家族になった。そしてジリアンという娘を授かった。

そんな、そんな良い親父と、俺は命を賭けてなんて戦えない。

ジ‥‥‥ジジジジジ
今度は何を見せてくれるんだ?

目の前には巨大な手。振り返っても巨大な手。俺は状況を理解した。元に戻って来たんだ。もう時間がない。気付くと、俺は叫んでいた。

「レイアさん!!!!!ジリアン!!!!!」
すると、俺を潰そうとしていた手が動きを止めた。

「お前、何で‥‥‥」
ゴンゾウの顔には困惑と驚嘆が表れていた。その隙に、俺は両手の攻撃が当たらない距離まで移動した。何とか死ぬことは免れたが、本番はここからだ。

「俺の能力をやっと理解した」
未だに混乱しているゴンゾウだったが、俺は放っておいた。

「最初に能力を使ったとき、俺はビーストの周りにいた人の『声』、つまり心の声が聞こえた。だが、本当はそれは声じゃなかったんだ。それは、エレメントだったんだ」
「どう言うことか説明しろ、テメェ」

あれ?何か怒ってる様子だな。もしかして、ノース軍に家族が人質に取られてるとか想像してる感じか?

「だから、俺の能力は相手のエレメントの内容を見ること、なんだ」

そう。さっきのも、俺の能力で実際にゴンゾウが体験したことを見ただけだ。後にゴンゾウのエレメントを形作るエピソードの場に、俺が居合わせたんだ。

「お前、本当は光エレメントの方が強いだろ。だったら何でノースエンドに移らなかったんだ?」

「テメェに何が分かんだ。軍のトップが敵対する国に行ける訳がねぇだろ!俺だって居たくてサウスエンドにいるわけじゃねぇ。毎日毎日、アイツらのことを考えて光エレメントが増えれば、それを補うために闇エレメントを増やす。この繰り返しの辛さがテメェに分かんのかよ!」

ゴンゾウの叫びはこの場にいた全員に届いていた。

「俺はお前の辛さを理解することは出来ない。俺とお前じゃ背負ってる物の重さが違いすぎるのも事実だ。でもな、お前が悪い奴じゃないってことは分かったぜ」
出来るだけ爽やかな笑顔で言ったつもりだったが、皆んなの反応はイマイチだったみたいだ。

「ププッ。アーッハハハハハ」
急に笑い出したゴンゾウに少し驚いたが、俺の言いたいことが伝わったのだろうか、ゴンゾウの強張っていた表情が和らいでいる。

「止めだ、止め!帰るぞ、ヨハン!」
背を向け、ヨハンの方に向かったゴンゾウだったが、一瞬俺の方を向き、

「会いたくなっちまったじゃねぇか、クソ野郎が」
と言い残し、行ってしまった。

「ゴ、ゴンゾウさーん」
ヨハンはズンズンと前に進むゴンゾウの後を必死に追いかけた。だが前と同じで、俺の方を向き、深々と礼をした。

「終わった‥‥‥」
これは、俺が勝ったのか?それとも、どっちも死んでないから引き分けか?

「ハジメ!」
うお!アナが飛び付いて来た。その時、自分が勝ったことを確信した。守れたんだ。俺がヴァンを、皆んなを守ることが出来たんだ。

そう思った途端、疲れと安堵を感じたのか、急に眠気が襲って来た。
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