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39話 条件
しおりを挟む「日帰り?」
「はい。必ず出発したその日のうちにクエストを終えて帰りたいのです」
それは……厳しいんじゃないか?
僕たちのパーティーはCランクまでランクアップした。
Cランクになると行けるクエストやダンジョンの幅が大きく増える。
その結果、より遠方のダンジョンに挑戦したり、時には数日以上かけてクエストに挑むこともざらにある。
エマとカリンも僕と同じことを考えたようで困惑の表情を浮かべる。
「……やっぱり厳しいですよね」
そんの僕たちの表情でトワは察してしまったようだ。
確かに厳しい条件だ。
それに、この条件を受けるパーティーはCランク以上にはほとんどいないだろう。
そして、その事をトワ自身理解しているようだ。
だからこそ、諦めに似た表情をしているんだろう。
「その条件は絶対なんだよね?」
「……はい」
「何か事情があるってことでいい?」
「……はい」
「その事情も、今は僕たちに説明できないよね?」
「……はい」
「分かった、いいよ。その条件を飲むよ」
「はい……えっ!?」
「だから、いいよ。トワとクエストを出かける時は日帰りでこなせそうなクエストだけを選ぶね」
「その……自分から提案しといて聞くのもおかしいですけど、本当にいいんですか? 我ながらめちゃくちゃな条件だって思いますけど」
トワは心底驚いたといった表情で聞いてくる。
「うーん、そうはいってもトワは一時加入だから、お互いの条件が被った時にパーティーに入ってくれれば十分だし。僕たちとしても、追放者しかいないパーティーに条件付きでも回復役が入ってくれるだけでも助かるよ」
それに、日帰りのクエストしかできないのにも事情があるって教えてくれたしね。
いつか、トワが僕たちを信用した時に、その事情を話してくれればそれでいい。
人にはそれぞれ事情があるし、その中で自分ができることを精一杯やればいいと思う。
それに、僕には頼れる仲間が二人もいるからね。
エマとカリンがいれば、日を跨ぐようなクエストでも何とかなるさ!
……って、しまった!!
二人の意見を聞かずに返事をしてしまった。
「エマ、カリン、ごめん!! 相談もせずにトワの条件のんじゃったけど……いいよね?」
「……はぁ。別にいいわよ。ノロワがこういう人間だって分かってるし」
「そうだな。だけど、そんなノロワだから私たちは仲間になったんだろ?」
「わかってるわよ。……だ、け、ど!!」
「っ!?」
エマが言葉を強めながらトワに詰め寄る。
まさか、喧嘩か!?
「いつか、アタシ達のことを信用したらちゃんと説明しなさいよ!! 追放された理由とクエストが日帰りしかダメな理由も!!」
「は、はい」
エマの迫力に圧倒されながら、トワは返事をする。
「よし、それならいいわ。よろしくね、トワ!」
「私からも……改めてよろしく頼む」
「えっと、その……よろしく、お願いします」
どうやら二人ともトワの条件を飲んで仲間になることを認めてくれたらしい。
いやー、よかったよかった。
「さて、それじゃあトワが一時的とはいえ仲間に入ったことだし、早速クエストに行かないか?」
親睦を深めるなら、やっぱり一緒に冒険やクエストをするのが一番だよね。
「今から!? もうお昼過ぎてるじゃない」
そうだね。
僕とエマが二日酔いだったから、こんな時間だ。
「大丈夫。今からでも受けられる簡単なクエストを選ぶからさ」
思いついた時に即行動に移すのが冒険者としての鉄則だからね。
それに、トワの実力もはやく見てみたい。
「しょうがないわねー……カリンとトワはいい?」
「ああ。少し体を動かしたかったから丁度いい」
「わたしも大丈夫です! 頑張りますね!」
よし、それじゃあトワを加えた新生『灰狼』の出発だ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここはCランクダンジョン『茸筍ノ里』。
キノコやタケノコなどが大量に群生しているダンジョン。
名前は可愛らしいダンジョンだけど、植物型のモンスターが多く生息しているのが特徴だ。
特にキノコ型のモンスターは状態異常を発生させる胞子を放出してくるから、本体の戦闘能力以上にやり辛い……はずなんだけど。
「よっと……これで、目標の素材は回収完了かな?」
カリンが前線でキノコ型モンスターを撃破して素材を回収する。
今回受注したクエストは、『キノコ型モンスターの素材回収』といったもの。
このダンジョンならキノコ型モンスターは大量に発生するし、ダンジョンの入り口付近で討伐できるから時間もあまりかからない。
その上、ダンジョンのランクはCランクだから、新しくCランクに昇格した僕たちにとって腕試しにはちょうどいいレベルのクエストだ……と思ったんだけど。
「トワの神聖魔法によるバフのおかげで体が軽くて戦いやすいな」
「結界魔法で後衛のアタシ達の護衛もしてくれるしね」
「ああ。そのおかげで後衛を気にせず前に出られたよ」
「いえいえ、そんなっ! わたしなんてまだまだ出すよ……っと、危ない!」
カリンが一体仕留め損なった魔物が隙を見て襲い掛かろうとしていたが、トワはそれを素早く察知して、手のひらから光弾を発射して、その魔物を仕留める。
「すまない、油断していた。助かったよ」
「気になさらないでください。……あっ、カリンさんの右腕に怪我がありますよ!」
「ああ、こんなのかすり傷だ。放っておけばすぐ治るさ」
「そういう訳にいきません! すぐ治しますね」
トワはカリンの腕をとり、『治癒魔法』をかけて治療する。
……うん、この一連のやり取りでしみじみと思う。
「いや、なんでトワは追放されたの!?」
ビックリするくらい優秀すぎませんかね!?
回復魔法に防御魔法、強化魔法を使えるだけじゃなく攻撃魔法まで使えるとか……なんでもできるじゃん!!
チートだよ、チート!
しかも、常に周りに気を配っている上、優しいとか……無敵かよ!
「そんなことないですよ。わたしなんて、本当に何もできなくて……足手まといにならないよう頑張っているだけです」
さらに謙虚とか……もう、お腹いっぱいなので、これ以上属性をつけないでください。
これで足手まといなら、デバフしかできない僕はなんなんだろう?
実際、今回の戦闘では何もできていない。
「Cランクダンジョンだけど、トワがいるおかげで、今のところ楽勝ね。クエストに必要な素材は集まったけど、折角だから、もうちょっと奥まで行ってみない?」
「帰り道の時間を考慮しても、まだ時間は余ってるしな。トワはどうだ? まだ行けそうか?」
「はい! わたしはまだ全然いけますよ!」
うーん、今日はトワを入れての初陣だし、もう帰ってもいいかなって思ったけど……トワが優秀だから、連携もとれてる。
パーティーの余力も十分だし、この調子ならもっと奥まで行っても危険はないだろう。
それにみんなやる気なようだし、それに水を差すのも気が引けるしね。
「よし、それじゃあもうちょっとだけ奥に進もうか」
「ええ!」
「ああ!」
「はい!」
こうして、僕たちはダンジョンの奥まで進んでみることにする。
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