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38話 聖女
しおりを挟む『聖女』……神に愛され、神の加護を使用できる神聖職。
回復魔法はもちろん、防御魔法、支援魔法、聖魔法に光魔法など、数多の魔法を高次元で使いこなせる。
『聖騎士』ですら比べものにならないほど、超が着くほどのレア職業である。
僕が知ってる限り、『聖女』の職業を持っている人は四人いるけど、その全員がAランク以上のパーティーに所属している。
しかも、全員冒険者の中では有名人だ。
それほどの素質を持った人が、なぜか僕たちCランクパーティーである『灰狼』に入ろうとしている。
「初めまして、わたしはトワっていいます。職業は『聖女』です。よろしくお願いします!」
「「……何だって!?」」
トワがエマとカリンに挨拶をするが、トワの職業を聞くなり、僕と同じリアクションをする。
「ちょっとノロワ、こっちにきなさい!」
「はい」
僕は呼ばれるがまま、エマとカリンの方へ歩いて行く。
「ちょっと、どういうことよ! なんで『聖女』なんて激レア職業がアタシ達のパーティーに入るのよ!」
「『聖女』なんて、AランクやSランクパーティーに所属するような有能職業だろ!?」
二人が一気に詰め寄ってくる。
うんうん、気持ちはわかるよ。
僕も同じことを思ったし、同じことをトワを紹介してくれたロゼさんに質問したからね。
「あ、あのっ! すいません!!」
二人の質問に答えようとしたら、トワが割って入ってくる。
「『聖女』ってことで期待させてしまったかもしれませんが、わたしはそんな大層な人間じゃないんです。むしろ、全くダメダメで皆さんの足を引っ張ってばっかりで……」
「「どういうこと?」」
「ううう……実は、わたし、前のパーティーをクビになってるんです」
「「ええっ!?」」
そう。
この『聖女』トワは、僕たち同様、前のパーティーをクビ……つまり、追放されたようだ。
そりゃあロゼさんもオススメしてくるはずだよ。
なにせ『灰狼』のメンバーは全員追放者だもんね。
ロゼさんは『僕たちにぴったりの冒険者を見つけた』って言ってたけど、確かに、追放者であるトワは、僕たち『灰狼』にとってぴったりの人選かもしれないね。
「ちょっと待って!? あなた、『聖女』なのよね!? そんな凄い職業持ちなのに追放されることあるの?」
「ううう……恥ずかしながら、そうなんです」
「何か理由があるのか?」
「そ、れは……」
エマとカリンの質問に対してトワは急に口を紡ぐ。
まあ、二人の気持ちも分かる。
僕もロゼさんから、トワが追放された経験があるって聞いたときは耳を疑ったからね。
だけど、この質問はダメだ。
「はい、ストップ。これ以上深く詮索するのはやめよう。それぞれ口にしたくない事情はあるよね?」
僕が止めると、エマとカリンはそれぞれ心当たりがあったのかハッとした顔をする。
「無神経な質問をしてすまなかった、トワ。別に傷つけるつもりはなかったんだ」
「謝らないでください! それに、追放理由なんて聞きたくなるのも当然ですよ。むしろ、話せなくてすいません……いつか、必ず理由を教えますのでもう少しだけ待ってもらえませんか?」
「うん、言いたくなったら教えてよ。それと、僕の追放理由はデバフは流行ってなくて無能だからだよ」
「また自分のこと、無能って言う! それはやめなさいよ。あ、アタシの追放理由は魔力コントロールができなかったからよ」
「そうだぞ、ノロワ。自分を卑下するのはお前の悪い癖だ。ちなみに、私の追放理由は戦闘後、酔い潰れて仲間に迷惑をかけたからだ」
「酔い潰……え?」
……まあ、戦闘後に酔い潰れるなんて意味わからないよね。
この辺の説明もおいおいしていかないとな。
「それに、みなさん追放理由を言っていますが、もしかして……」
「そういえば、まだトワには説明してなかったね。僕たち『灰狼』は追放された冒険者が集まったパーティーなんだよ」
「ええっ!? そうだったんですか!?」
「だからって訳じゃないけど、この中にはトワのことを追放者だからって偏見を持つ人も、邪険にする人もいないから安心してね」
むしろ、追放者ってだけで親近感も沸かし、追放されたことで大変な目にあってきたのも予想がつく。
僕たち以上に追放者に対して理解の深いパーティーはないだろう。
「それで、まずは一時加入ってことでウチに入ってみない? 実際に連携しないと分からないこともあると思うしさ」
いくら追放者といっても、『聖女』であるトワなら仲間にしてもいいってパーティーが他にあってもおかしくはない。
だからこそ、まずはお試しってことで、ウチに入ってもらおう。
みんな追放者なら、トワも引け目なく参加できるだろうしね。
それに、僕たちとしては回復役がいるだけで大助かりだ。
「他にいい条件のパーティーがあったら、僕たちのことを気にせず異動していいからね」
「そ、そんなっ! わたしなんかを誘っていただけるだけで嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします!!」
「うん、よろしく!」
「よろしくね、トワ」
「よろしく頼む」
こうして、『灰狼』に一時的だけど仲間が加入した!
これで戦力の幅が広がるぞ!!
「あっ、えっと……その、すいません。入れてもらったばかりでこんな事を頼むのは、図々しいと分かってるのですが……ひとつだけクエストの条件を出してもよろしいでしょうか?」
「条件?」
「はい」
クエストの条件って何だろう?
苦手なダンジョンとかモンスターがいるのだろうか?
「クエストは必ず日帰りでお願いします」
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