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33話 褒殺
しおりを挟む「カリンって酔ってた時の記憶なかったの?」
酔剣を使った後、カリンは必ずといっていいほど酔い潰れていた。
そのせいで、今まで泥酔中の記憶はなかったんじゃないだろうか?
だけど、今回は僕の呪いの効果で酔剣を使ったから、酔い潰れなかった。
その結果、戦闘中の記憶もバッチリ覚えていたんじゃないだろうか?
「……いや、全く無いって訳じゃないんだ。ただ記憶は断片的に覚えてるって感じだったから……。だけど、まさかあそこまで酷いとは思わなかった。……我ながら情けない」
うーん、そんなに気にする事かなぁ?
確かに、普段のクールなカリンとは真逆だけど、あれはあれで可愛いっていうか、愛嬌があるっていうか……むしろ、ギャップがあって泥酔してる時のカリンは個人的に好きだけどなー。
だけど、カリンからしたら醜態を晒し続けてきたようなものなんだろう。
落ち込む気持ちも分からなくもない。
「……ちょっと、ノロワ。慰めてあげなさいよ」
「ええっ!? 僕がやるの?」
横にいたエマが小さい声で言ってくる。
「こういうフォローは異性から言われる方が効果あるのよ」
そういうものなのだろうか?
だけど、女性経験がない僕なんかよりエマの言うことの方が正しい気もするし、変に意見せずに従うことにする。
さて……フォロー……フォロー……、だめだ、気の利いたセリフが思いつかない。
とりあえずカリンについて思ったことを正直に伝えてみようかな。
「大丈夫! 酔ってるカリンは可愛いよ!!」
「ふぇっ!?」
カリンが気の抜けた声を上げる。
勢いで恥ずかしい事を言っている気もするけど……、うん、深く考えずこの勢いで一気にフォローしまくろう。
「普段のカリンはクールビューティーって感じでそれもそれでいいけど、酔ってるカリンは無邪気な感じがして凄く可愛い!!」
「あっ、ちょっ……ま、待ってくれ……」
「なんだろう、ギャップっていうのかな? カリンがやるからこそ可愛いんだよね! もっとフニャフニャな姿を見たいまである!」
「うっ、うぅぅぅぅ……」
「しかも可愛い上に強いんだから控えめにいって最強だよね! 本当に僕の仲間はすごっぶごはぁっ!?」
なんという事でしょう。
カリンをフォローという名の誉め殺しをしていたら、横のエマから鳩尾に肘を入れられました。
い、息ができない……!?
あまりにも綺麗に肘鉄を喰らったため、僕は呼吸が止まり、腹を抱えて倒れ込んでしまった。
「慰めろとは言ったけど、口説きなさいとは言ってないわよ」
り、理不尽すぎる!?
「ふっ……ふふふ、ありがとう、ノロワにエマ。うん、なってしまったモノはしょうがないよな。それに酔ってる時の私も私自身である事に変わりがない。これからは酔った私も受け入れて……受け……い、れ……」
すっごい受け入れられなそうだ。
眉間に皺を寄せて、苦悶の表情をしているし……。
……はっ!
ここでフォローを入れてみたらどうだろうか!?
「今は酔剣を使っても酔い潰れなかった事を喜ぶべきだよ! これで『灰狼』に最強の前衛が入った訳だし、これからも頼りにさせてもらうからね!!」
「う、ん。そうか……そうだよな。ノロワのおかげで私は戦闘後もお荷物になる事も無くなった訳だもんな」
「そうだって! それに酔い潰れたカリンもそう悪いものじゃなかったよ。いつもは凛々しいカリンの弱々しい姿はそれはそれでいいものを見せてもらったと言うか何というか!!」
「うっ……ぐっ……」
「個人的にカリンの弱い一面を見れないのは寂しいって気持ちはあるしね! だけど、この先も酔剣を使ってる時はフニャフニャのカリンが見られるからそっちの方を楽しみにって、痛ったぁぁぁ!?!?」
カリンが酔い潰れていたのは迷惑なんかじゃないし、これからも頼りにしているねって意味も込めてフォローしようと色々喋っていたら後ろからエマに後頭部を全力で引っ叩かれた。
……確かに余計な事も言ったかもしれないけど、ここまで叩かれる必要はないんじゃないだろうか?
それに元々はエマが僕にカリンのフォローをするよう頼んだのに……。
よし、ここは男としてガツンとエマに言い返してみよう。
同じパーティーとして、立場は対等なはずだもんね!
「ちょっと、エマ!! 何すん……の……さ……」
「何よ。何か文句あるの?」
「イエ、ナニモアリマセン」
いやー、やっぱりパーティー内でケンカするのはよくないよね、うん。
決してエマの気迫に怖気付いた訳じゃないんだよなー。
微笑んでるのに目が一切笑って無い事にビビった訳じゃないんだよなぁー!
「……はぁ、もういいわよ。それじゃあさっさとバジリスクの素材を集めてギルドに戻りましょう? ……ノロワ、ナイフ」
「はい、喜んで!!」
僕はカバンから素材を回収するためのナイフを取り出して、速やかにエマに差し出す。
ここから先、エマの機嫌を損ねたら、このナイフが飛んできたりは……しないよね?
「何か失礼な事考えてない?」
「考えてません! すいません! 勘弁してください!!」
僕の浅はかな考えをエマに読まれていたようだ。
これ以上怒らせたらナイフどころか魔法が飛んできそうだ。
エマの魔法を喰らいでもしたら、僕なんか文字通り瞬殺だろう。
ここは誠心誠意、頭を下げて許しを乞おう。
「うーん……ま、いっか。よし、それじゃあ始めましょうか!」
こうして僕たちは三人でバジリスクの素材を回収し始める。
バジリスクの巨体を解体するのは中々骨が折れる作業だけど、以前いたパーティーでは解体作業をほとんど一人でやっていたから、それを考えると手伝ってくれる人がいるだけで大分楽になる。
こうして僕たちはバジリスクの牙や鱗、目など、武器や防具の素材になる物を剥ぎ取った。
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