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30話 試呪
しおりを挟む「よし、無事に着いたね!」
僕たちは『蛇村樹海』の最深部、ボスの間の目前に到着した。
ここにくるまでの道中の戦闘も危なげなく、実に順調に来ることが出来た。
「ふぅ……、いよいよボス戦か」
常に戦闘時に前衛で敵のタゲ取りをしていたカリンは少し疲労しているのか、額の汗を拭いながらボスの間への入り口を見上げている。
ダンジョンには未だに解明されていない事が数多くあり、ダンジョンの発生条件や発生場所なども不明で、ある日突然ダンジョンが出現したりする。
そして、ダンジョン内の最下層にはダンジョンボスと呼ばれる強力なモンスターが滞在している。
ちなみに、基本的にダンジョン内で最強のモンスターはダンジョンボスなんだけど、『始まりの洞穴』の新エリアで討伐した『アメアヲロン』の時のような例外もあるから、例え低ランクのダンジョン攻略……特に未解明のエリアでの攻略では油断ができない。
モンスターやボスは討伐しても一定期間経つと復活し、再び、元いたエリアやボスの間に出現するが、その理由や方法も不明なままだ。
ダンジョンの謎を解明することが冒険者としての永年の使命なのかもしれないね。
「それじゃあボス戦の前に『バジリスク』の情報を整理しておこうか。それと戦闘の陣形も念のため確認しておこう!」
ボス戦の前に休憩しようと提案してもカリンが遠慮してしまうかもしれないから、作戦会議の体で休憩することにする。
僕がその場に座り込むと、それに続いてエマとカリンが正面に向かって座り出す。
「それじゃあまずはこのダンジョンのボスである『バジリスク』についてだけど、二人は戦った事はある?」
「アタシはないわ。このダンジョンに来るのは初めてだし」
「私は、このダンジョンに来たことはあるが、このダンジョンのボス戦は初めてだ」
「オッケー、それじゃあボスの特徴を説明するね」
僕は近くにあった木の枝を拾い、即席ながら地面にバジリスクの絵を描きながら説明する。
「体調は十メートルをゆうに超える緑色の大蛇だよ。硬い鱗で身体を守っていておまけに素早い。しかも牙には猛毒があるから、バジリスクのひと噛みが致命傷になる」
一応解毒薬は持ってきているけど、その数も充分ではないため、あまり何度も毒の攻撃を受けるとパーティーの壊滅にも繋がってしまう。
「そして厄介なのが、バジリスクは対象を『石化』する眼を持っているんだ。だから、バジリスクと眼を三秒以上見つめ合わないよう気をつけてね」
『石化』もいわゆる『呪い』の一種だ。
発動すればほぼ勝てるほどの強力な呪いだけど、その分発動条件は難しい。
バジリスクの石化発動の条件は『石化させる対象と三秒間見つめ合う』といったもの。
しかも石化を発動する時は本来なら黄色いバジリスクの目が赤く輝くから発動する瞬間もすぐ分かる。
初見ならまだしも、対策をしっかり立ててさえいれば『石化』させられる事はないだろう。
……そういえば、『紅蓮の不死鳥』がDランク時代にこのダンジョンでバジリスクと戦闘した時、事前にあれだけ注意したのに前衛の二人はあっさりと『石化』させられたっけなぁ……。
しかも、なぜかその責任は僕の説明不足ってことになってしまったし。
あの時は、僕の火耐性低下の『呪い』がかかったバジリスクにアンナの炎魔法が命中したからたまたま勝てたけど、一歩間違えれば全滅の危険性もあったよなー……。
『灰狼』のパーティーの能力は高いといっても、前衛にはカリンしかいないし、今一度警告して、より注意してもらおう。
「特に前衛のカリンはバジリスクと目が合う機会が多いと思うから気をつけてね!」
「ああ、目が赤く光ったら目を逸らして距離をとるよ。 ……しかし、これだけ気をつけるよう言われて石化するような間抜けな冒険者もいないと思うけどな」
それが驚くことにいたんですよねー。
しかも、そいつら、今はAランクパーティーなんですよねー。
「分かってるなら大丈夫だね! ……よし、それならそろそろ行こうか!!」
僕の号令にエマとカリンが頷きで返す。
「あっ、それとカリンには、戦闘開始と同時に言っていたアレを試そうと思うけどいいよね?」
「ああ。こちらこそよろしく頼む」
カリンにはここに来るまでの間に僕がある事を提案していた。
カリンはそれを快諾してくれたので、いきなりの実戦になるが試してみることにした。
できれば道中の雑魚モンスターで試してみたかったかど、それを試す前にモンスターが弱すぎて討伐されちゃてたからなー……。
多少は耐久力のあるモンスターじゃないと実験もできないし、そう言う意味だと、このバジリスク戦は渡に船だったかもしれないね。
「うん、それじゃあ……入るよ!!」
僕は先頭に立ってバジリスクのいる『ボスの間』の扉を開く。
さあ、ボス戦だ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ボスの間に入ると半径百メートルほどのエリア中に密林が広がっていた。
「まずは打ち合わせ通りに!」
「うん!」
「了解!」
バジリスクは木々に隠れて、どこから現れるか分からない。
だから、僕たちは三人で背中合わせにしてそれぞれの死角をカバーする。
いきなり襲いかかってくる可能性もあるため、集中しながら周囲を探る。
さあ、どこからやってくる?
「っ!? ノロワ、カリン! 来たわよ!!」
エマの方からバキバキと木々の折れる音がする。
音の方を向くと、ゆっくりとバジリスクが地を這うように現れた。
「二人とも、下がれ!!」
前衛のカリンが剣を構えながら僕たちの前に立つ。
対して、バジリスクは襲い掛かってくることはなく、まるで僕たちを品定めするようにジリジリと間合いをとりながら周囲を旋回する。
警戒しているのか、それとも余裕なのかは分からないけど……すぐに攻撃してこないのなら都合がいい!!
「カリン……やるよ!」
「ああ、頼む!!」
僕は呪力を込め、カリン目掛けて呪いを放つ。
カリンにかける呪いの名は……。
「『酔朧ノ天』!!」
「っ……! くっ、うっ……あぁ」
『酔朧ノ天』は対象を酩酊状態にする呪い。
この呪いをカリンにかけることで……。
「ふっ……はははははは! 最っ高にハイににゃってきたー!!!! いっくぞぉー!!」
カリンをお手軽に酔っ払いにすることができるって訳だ。
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