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29話 快進
しおりを挟む「さて、準備は出来たかしら?」
「ああ、バッチリだ」
「こっちも出来てるよ」
カリンを『灰狼』に加えて翌日、僕たちはDランクダンジョン『蛇村樹海』の入り口に到着した。
新生『灰狼』としての最初のクエストはこのダンジョンの探索及び素材の回収だ。
このダンジョンは名前の通り蛇型のモンスターが多く出現する樹海型のダンジョンだ。
そして、当然ここのダンジョンのボスも『バジリスク』と呼ばれる蛇型のモンスターだ。
まあ今回のクエストではボスのいるエリアまで潜る必要はないけどね。
でも、ボス戦はないと言っても、このダンジョンの難易度はDランクの中では上位クラス。
前衛のカリンが仲間になったとはいえ、決して油断できるものじゃない。
僕たちの戦闘時の基本的な陣形は、カリンが前衛で敵のタゲ取りをしている間に、エマの魔法で一掃するスタイル。
そして僕が戦況を判断して適宜『呪い』でサポートをする形だ。
「それじゃあ……行きましょうか!」
エマも『灰狼』としての初めてのダンジョン攻略でかなり張り切っているようだ。
……正直僕もワクワクしてるけどね!
エマの号令で僕たちはダンジョン攻略を開始する。
よし……頑張るぞ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ふう、中々順調じゃない?」
「ああ。依頼に必要な素材もあらかた集まったしな」
ダンジョンの中階層まで潜り、僕たちは食事のため休憩している。
……うん、順調なんてものじゃない。
慢心に繋がるからあんまりこういう言葉は使いたくはないけど、正直楽勝といっても過言じゃないほどだ。
前回のクエストではカリンがソロでゴブリン相手に戦闘をしていたから、みんなで戦うのは今回が初めてだったけど、まさかカリンが入ったことでここまで戦闘が楽になるとは思わなかった。
『酔剣』を使っていない、カリンの素面時の実力はDランク上位からCランク下位程度だ。
『蛇村樹海』のモンスターと正面戦闘をすると苦戦するかもと思っていたけど、カリンは決して自分での討伐を目的とせず、あくまでタゲ取りとしての役割を撤退してくれていた。
そのおかげで、エマや僕はゆっくりと体勢を整えることができるので、十分に後方から仕事ができる。
……まあ、ほとんどエマの魔法で敵を蹴散らしていたけどね。
だけど、独断専行しない前衛がいるだけでここまで戦闘って楽になるんだなぁ……。
『紅蓮の不死鳥』時代は、ラッシュやスペースといった前衛職が討伐数を獲得するために、我先にと特攻を仕掛けていたせいで陣形もすぐ崩れたし、何やり後方支援がめちゃくちゃ大変だった。
それぞれがそれぞれの役割を全うし、連携する。
これこそがパーティーで戦う醍醐味だと実感した。
「それにしてもノロワの『呪い』は凄いな……。私もこのダンジョンへは何回か来ているが、これほど簡単に討伐できたことは無かったよ」
「ふふん、そうなのよ。ノロワは凄いのよね!」
僕がカリンから褒められたのに、何故かエマが嬉しそうに返す。
僕はここまでの敵に対して『斬撃耐性低下』の『呪い』をかけていた。
そうする事でカリンの剣での攻撃が通りやすくなっていたはずだ。
この『呪い』の副作用は、『術者の斬撃耐性低下』というものなので、後方にいる僕は副作用を気にせず使えたし、結果的にカリンの支援ができたのなら嬉しい。
ちなみに、ここまでの討伐比率はカリンが2に対してエマが8といったところだろうか。
……攻撃手段のない僕は当然の0だけどね。
だけど二人はそんな僕の事を責めたり、敵を倒せないならせめて囮になれとか理不尽な事も言わず、凄いと褒めてくれる。
……ああ、僕はなんて素晴らしい仲間に恵まれたんだろう。
「ねえ、提案があるんだけど、今日はこのまま最下層のボスに挑戦しない?」
僕が感動に打ち震えていると、エマがそんな提案をしてくる。
クエストのための素材は集まってそろそろ撤退でもしようと考えていただけに、その提案は意外だった。
「ボスへの挑戦って……。今回はそこまでしなくてもクエストは既に達成できてるんだよ? それにボス戦のための準備も今回はしてないし、危険じゃないかな?」
「ノロワの言うことも分かるわよ。でも、ボスの『バジリスク』を討伐したら追加報酬も貰えるわよね? カリンの借金を早く返済するためにも挑戦しない手はないんじゃない?」
「……そういう事ね」
確かに、依頼書の備考欄に『バジリスクの牙や鱗には追加報酬を出す』と書いてあった。
しかも、その額はDランクのクエストの中では比較的高額な報酬額だったし、カリンの借金のことを考えれば追加報酬を狙うに越したことはない。
「それにここまでかなり良いペースでクエストが進んでるし、回復薬とかもほとんど使ってないよね?」
エマの言う通り、あまりにも順調すぎて想定の数倍のペースでダンジョンを攻略しているし、道具のストックもまだ大量に残っている。
それに、ここまでの僕たちの戦力を客観的に分析しても、『バジリスク』相手なら難なく勝てると思う。
「……カリンはどう思う? 進むか戻るか。僕はカリンの判断に委ねるよ」
僕は最後の判断をカリンに任せることにした。
この中で一番疲弊してるのは常に前衛で剣を振るっていたカリンだ。
そのカリンがまだやれるって言うのなら、僕からこれ以上言うことはない。
「……そうだな。本音を言えば……ボスに挑戦してみたい!」
カリンは決意した目でハッキリと言い切る。
「報酬が上がるってのはありがたいが、それ以上に私はこのパーティーで戦うのを楽しいと思っている。『灰狼』の一員として、私たちの実力がどこまで通用するのか試してみたいってのが本音だ」
……そんな事言われたら、もう帰ろうなんて言えないじゃないか。
それにこのパーティーを最高だって思ってるのはカリンだけじゃなく、僕も思っているし、多分エマも思っているはずだ。
「……よし、それじゃあ『バジリスク』と戦うってことで決定だね! このままダンジョンの最深部にあるボスの間まで一気に行こう!!」
「「了解!!」」
思いがけずボス戦をする事になったけど、僕たちなら絶対に勝てる!
それに、ボス戦時にカリンについて試してみたかった事もあるし丁度良かったかもしれないね。
僕たちは意気込みながらダンジョンの最深部まで向かうことにした。
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