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23話 一時
しおりを挟む「……ということで、今日一緒にクエストを行う事になったカリンです」
「カリンという。よろしく頼む!」
「色々と待ちなさいよ」
カリンをエマに紹介するなり、エマは混乱したように頭を押さえる。
まあ、エマからしたら、いきなりの急展開に困惑するのも分かる。
だって、パーティーメンバーがクエストの受注に行って、帰ってきたらなぜな新しい仲間を連れてきたんだもんね。
しかも、昨日の話し合いで、新しい仲間はすぐに探す必要はないって方向性で決まっていたのにだ。
「カリンはちょっとそこで待っててもらっていい? ……ノロワ、顔貸しなさい」
「……はい」
僕はエマに襟を掴まれて少し離れたところまで引っ張られる。
「どういう事なのよ!? ちゃんと説明しなさい」
「いや、だからさっきも言ったけど、カリンはロゼさんからの紹介で……」
「その経緯を詳しく説明しなさいって言ってるのよ!!」
経緯って言われてもなぁ……。
僕はカリンをパーティーに一時加入させるまでの経緯をあらためてエマに説明する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「カリンはノロワ君の『灰狼』に一時加入しませんか?」
「「……え?」
ロゼさんの提案に、僕とカリンは同じリアクションをとってしまう。
一時加入というのは、文字通り、パーティーに冒険者が一時的に加入する事を意味する。
高難易度のクエストに挑む際の強力な助っ人や、足りない戦力の一時的な補助。
他にも、パーティーに正式加入するための見極めの際に使用される制度だ。
「えっと……どういう事ですか?」
いまいち状況が理解できず、ロゼさんに質問をする。
さっき、ロゼさんとカリンが揉めていた事と関係するのだろうか?
「あっ、説明不足ですいませんでした。実は、カリンは前に所属していたパーティーを抜けてフリーなんです。それに次のパーティー先もまだ未定の状態でして」
……へぇ。
僕の『呪詛師』みたいなマイナー職業ならまだしも、カリンの王道職業の『剣士』なら、すぐに次のパーティーも見つかりそうなのにな。
「それで、カリンはソロでクエストを受けたいって言ってきたのですが、ギルドとしてはカリンをソロでクエストに向かわせるのは許可できなくて……」
「なるほど……」
何となく話の筋が見えてきたぞ。
ソロでクエストを受注するにはギルドからの許可が必要になってくる。
これは冒険者の命を守ると共に、クエストの成功率を高めるための措置でもある。
そもそもクエストの難易度は複数人のパーティーで挑む事を前提に決められている。
ソロだと戦闘、探索、支援、回復……一人でやる事が多く、簡単なクエストでさえ難易度が跳ね上がる。
そしてクエストの失敗は結果ギルドの信用を下げる事になる。
そのため、冒険者がクエストをソロで受注するためには、ギルドがその冒険者の実績と能力を認めないとまず許可がおりない。
「ノロワ君とエマのパーティーは、ランクこそまだ低いですけど、私が自信を持ってオススメできるパーティーですし、カリンの事を安心して任せれると思ったんです。……どうでしょうか?」
伺うようにロゼさんがお願いをしてくるけど、ロゼさんの頼みを断るって選択肢は僕にはないんだよね。
それに、僕達『灰狼』は深刻な前衛不足だし、職業が『剣士』のカリンがパーティーに加入してくれるなら渡りに船だ。
エマの確認もとった方がいいんだろうけど……まあ、ロゼさんからの頼みって言えば断らないだろう。
「僕は構わないけど……カリンさんはどうですか? 僕のパーティーに入ることになっても構いませんか?」
「私にはタメ口でいいし、呼び方もカリンでいい。私としてもパーティーに入れてもらえるのは助かる。お世話になってもいいかい?」
「うん。一応仲間にもカリンの一時加入の確認はとるけど、多分反対はしないと思うし……それじゃあ、よろしくね、カリン!」
こうして、僕はカリンを『灰狼』に一時加入として受け入れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……という事があったんですよ」
「……そう。たしかにロゼの頼みなら断れないわよね。でも……、うーん……」
先程のやり取りをエマに詳しく教えたけど、エマは理解はしたけど納得はしていないような煮え切らない態度をとる。
そりゃあパーティーメンバーでもあるエマを置いて話を進めたのは悪かったと思うけど、カリンはあくまでも一時加入だし、それにカリンの参戦は僕たち『灰狼』にとっても悪い事じゃない。
待望の前衛職がパーティーに加入したことで、僕たちの戦略の幅が大きく上がるしね。
「エマはそんなにカリンの加入に反対なの?」
エマがどうしても嫌だっていうなら、カリンとロゼさんには悪いけどこの話は断らせてもらおう。
「そういう事じゃないのよ。戦力が増えるのはいい事だしね! ただ、その……何といえばいいか……。ノロワが連れてきたのが予想以上の美人だったというか……アタシとはタイプが違うから、ノロワはそういう方が好みなのかなというか……」
「……どういう事?」
そりゃあカリンは凄い美人だとは思うけど、それが何か関係するのだろうか?
それにタイプって……エマは『魔法使い』だし、前衛職のカリンとはタイプが違うに決まってるじゃないか。
それに僕の好みって意味もよく分からない。
「別に僕は前衛職とか後衛職に好みとかないよ?」
「そういう意味じゃないんだけど……。はぁー……、分かった、カリンの一時加入を認めるわ。……ただし、アタシたちと相性が悪いと思ったら次のクエストからは抜けてもらうわよ!」
「うん、了解!」
何はともあれ、エマからの許可も得た!
『剣士』カリンに『魔法使い』エマ。
そして、『呪詛師』の僕による三人パーティーが結成したわけだ。
とにかく、今回のゴブリン討伐、頑張るぞ!!
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