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22話 提案
しおりを挟む「うううう、酷い目にあった……」
飲み会の翌日、エマと約束していたためギルドの集会所に来たけど、まだ身体の節々が痛む。
朝になり、僕は粉々になった机の上で目を覚ました。
酒場はまるで地獄絵図になっており、机や椅子など、ほとんどが原型をなしていなかった。
『悪餓鬼』の連中を含め、当時店にいたほとんどの客がどうやら巻き込まれたようだ。
店内にはまだ沢山の人物が気を失っている。
……まさに、災害のような暴れっぷりの女の子だったなぁ……。
ここは冒険者ギルドから近い酒場で、血の気の多い輩も多く、常にケンカは絶えない場所だけど、ここまで酷い惨状は初めてだ。
……隅っこの方で酒場のマスターが膝を抱えて泣いているのは見ないフリをしておこう。
そりゃあ一晩で自分の店が破壊されたら泣きもするよね。
僕は昨日の飲み代をマスターの近くにそっと置き、そのまま店から立ち去ることにした。
時計をみると、エマと約束していた時間が迫っていたので、着替えだけをさっと済ませて、すぐに集会所に向かう。
「おはよう、ノロワ……って、なんでそんなにボロボロなのよ!?」
エマが約束の時間ピッタリに来るなり、僕の格好を見て驚く。
そりゃあ一晩明けて、パーティーメンバーが全身傷だらけになってたらこんなリアクションになるよね。
「いやー、実は昨日災害みたいなものに巻き込まれてさ……」
「……ちょっと意味が分からないわ。アタシが帰った後、何があったのよ……」
「あははは……。まあ、そんなに気にしないで。大したことじゃないから」
ナンパされていた女の子が、たった一人でBランクパーティーを含めて、店内のあらゆる物や人を蹂躙し尽くしたなんていっても意味不明だろうし、僕は早々に説明するのを諦める。
「それよりエマは元気そうだね。あれだけ酔ってたから二日酔いにでもなってると思ったのに」
「ロゼに家まで送ってもらった後、軽い回復魔法をかけてくれたからね。おかげで体調は万全よ!」
ロゼさんって回復魔法なんて使えたんだ!
今日会ったら、僕も回復してもらえないかなー……。
「それなら良かったよ。じゃあ、今日行くクエストを決めようか」
「そうね。クエストボートを見にいきましょ!」
クエストボードとは、クエストの依頼書が貼り付けられた掲示板だ。
ギルドからクエストを斡旋されたり、依頼主から直接依頼されることもあるけど、基本的には冒険者はこのクエストボードから自分にあったクエストを選ぶことになっている。
今まではEランクのクエストしか受けられなかったけど、僕たち『灰狼』は昨日からDランクパーティーに昇格したから更に上のクエストを受けることが出来るようになった。
クエストボードの前に着き、何か良いクエストがないか探してみる。
「うーん、どれがいいかなぁ?」
「ねえ、ノロワ。今日はこれなんてどう?」
沢山ある依頼書を眺めていると、エマはもう目ぼしいクエストを見つけたのか、一枚の依頼書を僕に見せてくる。
昨日、エマはダンジャンに挑戦したいって言ってたから、それに関わるクエストかなぁ?
僕はエマの持ってきた依頼書の内容を確認する。
「……これって!?」
依頼書に書かれていた内容は『ゴブリン討伐』で、クエストの難易度はEランクだ。
近隣の村でゴブリンの目撃情報が多発しているから討伐をギルドに依頼したらしい。
Eランクのクエストの中では上位にあたる難易度と報酬だけど、まさかエマがEランクのクエストを行こうと提案するとは思わなかった。
「昨日はあんなにダンジョンに行きたがっていたのに、このクエストでいいの?」
「だって今日のノロワ、ボロボロじゃない。別にダンジョン攻略なんていつでも行けるんだし、今日はこれくらいのクエストで肩慣らしでもしておきましょう」
……まさか、僕の心配をしてくれていただなんて……。
嬉しいと思う反面、遠慮させてしまった申し訳なくなってしまう。
僕は今一度この依頼書内容をよく確認する。
確かに体はしんどいけど、Dランクのクエストくらいならなんとかなると思う。
だけど、このクエスト自体は決して軽んじていいものではない。
ゴブリンは個体では最弱に近いモンスターだが、群れで襲われると脅威にもなるし、この先、村を襲撃しないとも限らない。
例え冒険者のランクが上がっても慢心せずに、こういうクエストを受けて事前に被害を減らすのも冒険者としての責務だよね。
「……分かった。じゃあ、今日はこのクエストを受けようか」
『灰狼』になって初めてのダンジャン攻略は次回に持ち越しだね。
僕は依頼書をギルドの受付に持って行きクエストを受注するための手続きに向かう。
ロゼさんがいれば手続きが楽だけど……。
何人かいる受付嬢からロゼさんを探すと、冒険者を対応しているロゼさんを見つける。
他の人でも手続きはできるけど、昨日エマがお世話になったお礼も言いたいし、後ろで待ってようかな。
僕は冒険者の後ろに立って順番待ちをしていると……。
「そこを何とかならないだろうか?」
「そう言われましても……」
話の内容までは分からないけど、どうやらロゼさんと冒険者が揉めているようだ。
……大丈夫かな?
「あっ、ノロワ君。おはようございます!」
心配をしていたら、ロゼさんが僕に気がつき声をかけてくる。
「おはようございます、ロゼさん。……ところで大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。こちらは、私が担当している冒険者の一人で……」
「私はカリンという。職業は『剣士』だ」
腰に剣を携えた、カリンと名乗る女性が挨拶をしてくる。
涼やかな声をしており、思わず背筋を伸ばしてしまった。
カリンは銀髪ながら、光が当たるとわずかに青みがかった綺麗な長髪を後ろで束にしている。
目も髪色と同様な蒼銀で、凛々しい目つきをしている。
背の丈は僕とほとんど同じくらいだろうか。
だけど、カリンのもっとも特徴的な部分はその顔の良さだろう。
エマを美少女とするなら、カリンは美女に分類されるだろう。
こんな美人、初めて見た……はずなのに、何故だか既視感を覚える。
……どこかで会ったことあったかなぁ……。
「どうも、ノロワっていいます。職業は『呪詛師』です」
「『呪詛師』……聞いたことがないな」
「ははっ……、まあ、マイナーな職業ですからね。……それより、僕たちどこかで会ったことありませんか?」
「……すまない、ちょっと記憶にないな」
「ですよね……」
カリンが確認のために僕のことをじっと見るが心当たりはなかったようだ。
うーん……、でも、初対面の気はしないんだよなぁ……。
これほど整った顔をしているから、僕がどこかで一方的にカリンを見て、無意識に記憶に残っているだけなのかもしれない。
だけど、何でかは分からないが、どこかで衝撃的な出会いをしているようの気がするんだよね。
……あー、ダメだ!
思い出せない!!
「そうだっ! いい事を思いつきました!!」
僕が悶々としていると、ロゼさんが嬉しそうに声を出す。
「カリンはノロワ君の『灰狼』に一時加入しませんか?」
「「……え?」」
ロゼさんからの思いがけない提案に、思わずカリンと一緒に驚きの声を出してしまった。
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