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12話 調査
しおりを挟む「ここが『始まりの洞穴』で新しく発見されたエリアの入り口ね。ノロワは準備いい?」
「うん。準備オーライだよ!」
クエスト出発前に色々とあったため、僕たちは一番最後に出発することになった。
ここまでの道中は先に行ったパーティーがモンスターを討伐してくれたのか、ほとんどモンスターと遭遇することなく、すんなりと目的地まで到着する事ができた。
それにしても、よくこんなところを発見できたもんだ。
噂じゃ、ソロの新人冒険者がたまたま見つけたらしいけど。
新エリアへの道は下の階層に続く階段の五段目の側面を押す事で壁が開く仕組みになっていた。
『始まりの洞穴』はこれまで沢山の新人冒険者が攻略してきたけど、その分難易度も報酬も低いから一度攻略したら二回目を訪れる事はほとんどないダンジョンだ。
熟練冒険者が攻略しない分、こうして未だに攻略された事がない新エリアが見つかったんだろうな。
「さて、それじゃあ本格的にクエストを開始する前に今回のクエストのおさらいをしようか」
「ええ、そうね」
エマが僕の提案にすんなりと乗ってくれる。
……前のパーティーにいた時じゃ考えられないなー。
『紅蓮の不死鳥』に所属していた時は、クエストの確認をしようかって僕が提案したら、『そんなの時間の無駄だろ』とか、『そういうのはノロワの仕事だ』とか、ひどい時は無視もされたしね。
仲間から、こういう対応をされるだけで嬉しく思ってしまう。
「どうしたの、ノロワ? なんか泣きそうになってない?」
「ごめん、ちょっと感極まって……」
「ちょっと待って、今のやり取りのどこに感極まるポイントがあったの!?」
実はあったんです……。
だけど今は感傷に浸る暇はない。
まずは今日の昇格試験でもあるクエストのおさらいだ。
僕はカバンの中からクエストの依頼書を広げる。
「今回のクエストは新エリアの探索……要は調査と地図作成。このクエストには僕たち含めて五組のパーティーが参加しているから、その調査結果を合算することでより正確な攻略地図を作るのが目的だろうね」
僕の話にエマはこくこくと頷いてくれる。
「調査の際に重要になってくる情報は二つ。出現モンスターと罠。この情報をマッピングした地図に書き足していこう。エマはマッピングをした事ある?」
「ごめん、マッピングはやったことないわ」
「オーケー。それならマッピングは僕がやるよ」
地図作成なら前のパーティーで何度もやらされたからやり方は分かるしね。
「うーん、でもアタシもマッピングのやり方覚えていきたいし、今回はアタシがやってみてもいい?」
「いいけど……地味で面倒な仕事だよ?」
ダンジョンを攻略しながら地図を書き続けるのは結構な手間になる。
実際ほとんどのパーティーでもマッピングの仕事は押し付け合いになるほどだ。
まあ、僕はマッピングだけじゃなくてほとんどの雑務を押し付けられていたけどね!!
「面倒でも、この先マッピングをする機会なんて何回もあるでしょ? その度にノロワに全部頼るのは悪いじゃない。その代わり、マッピングの方法を分かりやすく教えてよね!」
……ああ、そっか。
エマはちゃんと僕との先の事も考えてくれていたのか。
次がある……、そう思うだけで僕はこんなに嬉しくなってしまう。
「分かった。それじゃあマッピングは頼むね」
「ええ、任して!!」
エマは自信満々に微笑む。
うーん、頼もしいなぁ。
「それじゃあそろそろ出発しようか」
僕とエマは試験合格のために『始まりの洞穴』の新エリアに足を踏み入れる。
絶対にDランクに昇格するぞ!!
◇◆◇◆◇
「うっ……ぐっ……うううううぅぅぅうう」
新エリアに進入して早二時間。
洞穴内にエマの唸り声がこだまする。
ここまで、新エリアの調査自体は順調だった。
出現するモンスターも、既存の『始まりの洞穴』で出現するレベルだったし、罠らしい罠もない上、道中、少し入り組んでいる所はあるけど、迷うほどの道もない。
ただ、なぜエマがここまで苦しんでいるのかと言うと……。
「エマって……不器用なんだね……」
「それを言わないでよ!!」
エマはマッピングに苦戦していた。
地図に書き記した線は所々歪んでいるし、書き記す情報もちょくちょく間違える。
「あっ、ほら、そこの道書き間違えているよ。それに、そこの道で出現したモンスターはゴブリンじゃなくて、スライムだったよね?」
「うぐっ……、そうね。すぐ書き直すわ」
僕が指摘をするとエマはすぐに地図を書き直す。
こういう素直な所はエマの美点だと思う。
「全然調査が進まなくてごめんね。こういう細かい作業って苦手なのよ……」
「気にしないで。それにちょっとずつだけどマッピングも上手くなってるから、このペースなら僕たちのノルマも終わると思うよ」
実際にエマはマッピングのコツを掴み始めてきたのか最初の時と比べて書き間違いも減ってきている。
それに、僕としては仲間の新たな一面を見れてちょっと楽しいと思ってしまった所もある。
エマの魔力コントロールが下手なのは、自身の過剰な魔力量の影響かと思ったけど、案外エマが不器用だから苦手だったのかもしれないなぁ。
「何か失礼な事考えてない?」
「考えてないけどごめんなさい!」
考えを読まれて咄嗟に謝ってしまった。
どうやら不器用だけど勘はいいようだ。
「……っと、また別れ道ね。右と左、どっちに進む?」
「うーん、ちょっと地図を見せてもらっていい?」
エマがここまで書いた地図のルートを見て進む道を決めようとすると……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
右の道から悲鳴が響き渡る。
「悲鳴!? エマ、右に行こう!」
「そっ、そうね!」
僕たちは悲鳴の元へ走り出す。
あの悲鳴は只事じゃない。
罠にかかったか、モンスターの群れに囲まれたか……とにかく緊急事態が発生している事は間違いない。
今はとにかく現状確認を急いで行い、危険に直面しているパーティーがいたら助けてあげないと!
数秒ほど道なりに進んでいくと、開けた場所に飛び出す。
「っ!?」
「きゃっ!」
そこで見た光景に思わずエマの手を引き、近くにあった岩場の陰に隠れる。
なっ……なんなんだ、アレは!?
「グッ……ガァァァァァァァァ!!!!」
そこには見上げるほど巨大な狼型のモンスターが咆哮を上げていた。
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