4 / 44
4話 会話
しおりを挟む「遅い!! 遅刻よ!!」
時間は正午前。
集合場所に時刻通り来たら、エマにいきなり怒られてしまった。
「いやいや、時間通りに来たでしょ!?」
「レディとの待ち合わせは10分前行動が常識でしょ! だから遅刻よ」
そんな常識初めて聞いたんですけど。
「それより、ちゃんとお使いはしてきたの?」
「勿論してきたよ」
エマにクエストを始める前に回復薬や食料の買い出しを頼まれていた。
僕とエマには回復手段がないから、このポーションが僕たちの生命線だ。
準備しない訳にはいかない。
それに、冒険前のアイテム準備は『紅蓮の不死鳥』時代からやらされていたから慣れたもんだしね。
ラッシュは『戦闘じゃ役に立たないんだから、こういう時くらいは役に立て!』とよく言ってきたもんだ。
「ありがと。それでいくらしたの?」
「全部合わせて銀貨五枚だったけど」
「そう。それじゃあ、はいどうぞ」
エマは僕の手に銀貨三枚を渡す。
「えっ!? お金くれるの!?」
「……いや、なんで渡さないと思ったのよ。二人で使うんだから割り勘に決まってるでしょ」
だって、『紅蓮の不死鳥』時代は割り勘だったことなんて一度もなかった。
ラッシュはいつも、『パーティーに同行させてやってるんだからそれくらい払っておけ』って言ってたし。
……そうか、パーティーで使う物って割り勘で良かったんだ。
「でも、割り勘なら銀貨三枚は多いよ?」
割り勘にするなら銀貨二枚と銅貨五枚が正当な金額だ。
銀貨三枚は多すぎる。
「買い出ししてくれた手間賃よ」
て、手間賃!?
まさか、そんなモノ貰えるとは思ってなかった……。
少なくとも、前のパーティーでは考えらない高待遇だ。
「その代わり、荷物持ちは頼んだわよ。あっ、でも、重かったら少しくらいなら手伝うから言ってよね」
……この子、口はちょっとキツいけど、実はとってもいい子なんじゃないか?
「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」
「うん!」
僕とエマは早速出発することにした。
◇◆◇◆◇
今回受注したクエストは『薬草採取』という、Eランクのクエスト。
ダンジョン攻略の必要もなく、薬草は近場の森林で採取できるし、出現するモンスターも精々野犬かゴブリン程度のもので、いわゆる新人冒険者向けの簡単なクエストだ。
本来なら元Aランクパーティーに所属していた僕が受けるようなクエストではないけど、今回は親睦とお互いの力量を測るって意味を込めて『薬草採取』のクエストを受ける事にした。
……まあ、個人の戦闘能力が皆無の僕だと、このランクのクエストでもソロだと失敗する可能性があるんだけどね。
ゴブリンなんかに遭遇したら、ボコボコにされる自信がある。
僕とエマは街から一番近い山で薬草を採取する事にした。
「この辺でいいかしら」
「そうだね。そろそろ採取しようか」
モンスターに遭遇することなく、順調に薬草の採取スポットに到着した僕たちは目標数の薬草を摘み始める。
「…………」
「…………」
互いに周囲を警戒しながらの採取作業だけど……き、気まずい。
ここに来るまでもろくに会話はなかったけど、そろそろこの空気も限界だ!
それに、性格はちょっとアレだけどエマの見た目は間違いなく美少女だ。
そんな子と二人きりってのはちょっと緊張する。
その上僕は同世代の女性と話すのに慣れていない。
前のパーティーではフィリアとアンナっていう女性冒険者もいたけど、この二人は僕の事を毛嫌いしていたからまともに会話した記憶もない。
『ポーション買ってきなさいよ!』とパシらされたり、『足手まといはやめてください』と侮蔑された記憶しかないなぁ……。
いや、頑張るんだ、僕!
今回こそ仲間との信頼関係を築くって決めたじゃないか!!
エマの事をもっと知るためにも、ここは僕から話しかけないと。
「ねえ、エマ……」
「『さん』をつけなさいよ」
「くっ……エマさん!」
どうしよう、既に心が折れそうだ。
「……何よ?」
だけど、エマが作業を止めてこっちの方を向いてくれた。
一応会話はしてくれるようだ。
さて、まずは何の話題をあげようか。
そういえば、会話のきっかけは共通の話題がいいってどこかで聞いた事がある。
僕とエマの共通点……共通点……。
「そういえば、なんでエマさんって追放されたの?」
「ケンカ売ってるの!?」
……うん、自分で地雷を踏み抜いた気はしてました。
追放された理由なんてわざわざ人に言いたいものじゃない。
そんなトラウマを掘り起こされそうになったら、そりゃあ怒られますよ。
だけど、言い訳も聞いてほしい。
いや、だって、僕とエマの共通点で最初に思い浮かんだのは『追放』されたってことなんだから、しょうがないじゃないか!
それに、デリケートな話題かもしれないけど、追放された理由はちょっと気になったしね。
「改めて言うけど、アタシは追放されたんじゃないの。アタシの方からパーティーを抜けてやったのよ!」
「えっ、でも……」
「お黙り!」
ピシャリと厳しい口調で諌められる。
……これ以上追求したら、更に責められそうだ。
「そういうアンタこそ、なんで追放されたのよ」
「えーっと……」
僕は思わず頭をかく。
そういえば、まだエマにも僕が追放された理由までは言ってなかったな。
「僕の職業が『呪詛師』ってのは昨日言ったよね?」
「ええ。それにしても珍しい職業よね。少なくともアタシはそんな職業があるなんて聞いた事がなかったわよ」
昨日、パーティーを組んだ時点では簡単な自己紹介しかしていなかった。
一応、エマにはデバフ特化の職業とは説明しておいたけどね。
ちなみにエマの職業は『魔法使い』。
『剣士』に次ぐ冒険者の中ではオーソドックスな職業だ。
その点、僕の職業は『呪詛士』というドがつくほどのマイナーな職業。
少なくとも、僕以外の『呪咀士』を見たこともない。
「その職業のせいか、『役立たず』や『臆病』とか『足手まとい』とか……あっ、『無能』とか言われたなー。前の仲間いわく、時代はデバフじゃなくてバフらしいよ……」
「えっと、その……ごめんね」
追放された時の事を思い出してたら暗い顔をしてしまい、結果エマに気をつかわれてしまった。
前のパーティーでは僕の事を思いやる人なんていなかったから、こんな謝罪の言葉も心に染みてくる。
「もう吹っ切れてるから謝らなくていいよ」
「……うん……水でも飲む?」
やめて、これ以上優しくしないで!!
優しくされたら泣いちゃうから。
そんなやり取りをしていたら『ガサガサッ』という草をかき分ける音が後方からする。
「「っ!?」」
僕とエマは会話を切り上げ、すぐに戦闘態勢に入る。
「グルルルルルル」
草むらから五匹の『ワーウルフ』が姿を現す。
逃げ道は塞がれているから、逃げる事はできない。
つまり、僕たちに残された道はたったひとつ。
「戦うよ!」
新しいパーティーでの初戦闘が始まる!!
23
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ひだまりを求めて
空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」
星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。
精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。
しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。
平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。
ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。
その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。
このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。
世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる