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第一章 宿命を背負う男

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 周英傑とは、香港を中心にマカオ、アモイ、海南島、上海、北京といった中国国内を中心に、全世界に三十五の大型ホテルと五十七棟の賃貸ビルを所有し、他に金融、通信、運輸、流通といった様々な分野の事業を手掛ける、巨大コングロマリット企業群・『ドラゴングループ』の総帥である。
 実は、その英傑の一人息子が光智であった。彼は、中国名を周偉奇(ウェイ・チー)といったが、五年前、故有って島根の名家・別当家に養子に入ったのである。
 村井ら四人は、起業した草創期、あるいは展開期に英傑から経済的支援を受け、その後の急速な拡大路線の資金調達をも支えられていた。そして現在、光智の意向の下、企業買収を仕掛けている面々だったのである。
 つまり、光智と村井が相談のうえ、買収を手掛ける企業を決定すると、光智が資金を提供し、村井が実践の指揮を執る。堀尾、宇佐美、赤木の三人はその実働部隊という構図なのだ。
「女将、三十分経ったら料理をお願いします。それまでは、誰も近づけないで下さい」
 光智は、厳しい声で言った。
「承知致しました」
 有紀が立ち去るのを確認すると、光智は村井のグラスにビールを注ぎながら、
「さあ、乾杯しましょう」
 と言い、皆がグラスを手に取ると、
「今日はご苦労様でした。お蔭様で予想以上に上手くいきました」
 と手を突き上げた。
「さて、今後はどのようにいたしましょうか?」
 グラスを一気に飲み干した村井が訊ねた。
「今、細かい持分はどうなっていますか?」
「堀尾さんが百四十万株、宇佐美さんが百三十万株、赤木さんが百七十万株、そして私が百八十五万株です」
「私が百六十万株ですから、合計で七百八十五万株、約二十一.七パーセントですか。相手に気付かれた気配はありませんか」
「自社株が妙な動きをしていると気付いたとしても、皆証券会社を分散していますし、仮に誰かに買収されているのではと懸念を抱いても、我々の談合までは想像すらできないでしょう」
「それは上々です」
「とはいえ、五人とも大量保有報告書の提出が時間の問題となっています。別当さんと私は正体を隠すため、買い控えるとしても、三人はそうはいきません。浮動株が十五パーセント残っていますから、報告書の提出の前に一気に買い上がりましょうか?」
 いや、と光智は首を左右に振った。
「今回は別の方法で行きましょう。毎回同じ方法では、味がありません」
「別の方法とは」
「TOBを仕掛けましょう」
「TOB……?」
 これまで黙って光智と村井のやり取りを聞いていた三人が揃って声を上げた。
「具体的はどのように進めましょうか」
 代表して村井が訊ねた。
「大量保有報告書提出を前に、堀尾さんに水面下で株を集めて貰います。提出後は、時期を選んでTOBを宣言して下さい」
 光智は、堀尾を見て言った。堀尾は黙って頷く。
 その後五人は、懐石料理に舌鼓を打ちながら綿密な談合に及んだ。
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